抱きしめるよりも先に 


船長に告白された。あのプライドの塊みたいな人が顔を真っ赤にして、男の俺の事が好きだって……。突然の告白に動揺していると、それを悪い方に取った船長は目に微かな涙をためて、忘れてくれと身を翻した。咄嗟に手を取って引き止めると、離せとあばれるではないか。慌てて俺もです!と返事をする。船長の動きが止まって、ゆっくりとこちらを振り返る。
「いま、なんて……」
「俺も、船長の事好きですよ。付き合ってください。」
そう言えば泣きそうだった顔は再び真っ赤になり、船長は僅かに頷いた。そのまま抱き締めるために腕を引こうと力を込めると、一瞬のうちにローが本になった。逃げられた。能力を使ってどこかに移動してしまったらしい。

と、これが数週間くらい前の出来事。それからなぜかローに避けられる日々が続いたのと、夜中に人の気配がして目が覚めると、ローが脇に立っていて目が合うと能力を使って逃げる、みたいな事も多々あり痺れを切らした俺がペンギンを使ってローを呼び出し、避けた理由を聞くと、恥ずかしかったとか夢だと思ったとか、可愛いのかいじらしいのかなんとも言い難い感情が溢れ出るような理由で、真っ赤になった自身の顔を隠して、夢じゃないよと否定するのが精一杯だった。

その出来事があったのが数日前。あれから避けられることは無くなったし、むしろローの方からくっついて来てくれるようになった。しかし、何故かいつもきょろきょろしていて挙動不審だ。クルーの時はこんな姿を見ることがなかったので、新鮮だが何か気になる。
「ロー、どうしたの?何か気になることでもあった?」
「えっ、あ、いや……何でもねぇ。」
そんなに動揺していて、なんでもないわけあるまいに……。しかし、本人がそう言ってるのだからそれ以上突っ込むことはやめておこう。ここがローの自室で良かったと思う。ロー自身、こんな姿をクルーに見られるのは好まないだろうから。
かといって、全く見ない振りをするのも難しい。今は2人でソファに座りお互いに本を読んでいるのだが、ローは先程から全くページが進んでないし、ちらちらと視線も感じる。はぁと息を吐き読んでた本を閉じる。溜め息に反応したローがおずおずとこちらに視線を向けてきたので、身体ごとローに向き直る。
「ロー、最近どうしたの?何でもないって言ってるけど、そわそわと落ち着かないし、俺の方ばっかり見てくるし。」
読書も全然進んでないじゃん。視線を合わせようとローの目を見るが、それも逸らされる。やっぱり……
「俺と付き合って後悔してる?」
ぽつりと呟くと、ばっとローが視線を戻してくる。
「そんなわけねぇ!」
「じゃあ、どうして?何でもないって言っても俺は納得しないよ。」
「……に、だ……い……」
強めにそう言えば、ローは下を向いてもごもごと声を発する。
「え?なに?よく聞こえない。」
「っ、お前に、男性に抱き締めて欲しくて……っん」
顔を赤くして、上目遣いでこちらを見てくるローの破壊力は凄まじく、要望された抱擁よりも先にその熟れた唇に己のそれを重ねる。唇を離して細身ながらも鍛え上げられたその身体を力強く抱き締めその肩口で詰まった息を吐く。
「はあ〜、ロー可愛すぎ。なに、ずっと抱きしめて欲しかったの?」
そう問えば、コクリと頷くのが身体に伝わる。抱き締めて欲しいことを言い出せずに、挙動不審になってるなんて可愛すぎるではないか。これが、あのトラファルガー・ローだなんて誰も信じないだろう。抱き締めた今もおずおずと俺の背中に手を回してきてほぅ、と息をついている。
「いやー、本当に俺の恋人は可愛いな。好きだよロー。」
そのままの体勢でそう言うと、おれもだ。なんて返事があってこのままだと、俺はいつかローに殺されるかもしれない。死因が恋人が可愛すぎてなんてなんとも馬鹿らしいが、俺はそれでもいい。いつか殺されるその日まで俺はローと想い合っていたい。




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