思う存分に吐き出して 


「で、なんでお前はあそこにいた。」
トラファルガー・ローと名乗った隈男が話し掛けてくる。なんで、といわれても、
「気が付いたらあそこにいた。」
そう答えるしかない。事実なのだから。死んだつもりが森の中だったのだから他に答えようがない。
「ふざけてんのか。」
トラファルガーの視線が厳しくなるが知ったことじゃない。気に入らないなら、その手に持っている刀で切ればいい。むしろさっさとそうしてくれ。仮定として、いや実際そうだろうが、ここが男性がいた世界とは別の世界だろう。そうだとしたら、それこそ生きる意味はない。一人でサバイバルなんか出来やしないし、元いた森に人が居たとしても、人と関わるのはもう面倒だ。元の世界では所謂ブラック企業に勤めていて、毎日、日にちが変わるまで残業。ミスをすればひどく責め立て、手柄を挙げれば、それを自分のものにする上司に毎日のように怒鳴られ、同期がどんどん辞めていく中、逃げ遅れた自分はもう何処にも行けなくなっていた。だから、ビルの屋上に居た時はこれで終わるのかと気が楽になったのだ。なのに、なんで。
「もう疲れたんだ。」
男性はそう言って、トラファルガーに向かって手を広げ目を瞑る。意図が伝わったのか、カチャリと音がして、次には切られたような衝撃が襲ってきて意識を失う。

思う存分に吐き出して


prev / next
[back]