わたしを貰って 


今日は、私達クルーが大好きな、キャプテンの誕生日!
毎回、サプライズで色々準備しているんだけど、流石というか、キャプテンにはいつもバレている。「俺に隠し事出来ると思うなよ。」ってニヤリと笑うキャプテンは凄く格好いい。男のペンギンやシャチもあの船長には惚れるって言ってた。さて、目下の課題がプレゼントなんだけど……。何をあげよう。シャチなんかに相談したら、女性で良いじゃんって言われたけど絶対無理。私なんかがプレゼントだったら、船長の機嫌を損ねて粉々にバラされちゃうよ。最悪そのまま海に捨てられるかも……。と言うわけで、シャチの案は却下!
「何が、却下なんだ?」
「うぇ?ぎゃあ、キャプテン!!」
「うるせぇ……。」
「す、すみません……。」
いつの間にか後ろに立っていたキャプテンに声を掛けられ思わず叫んでしまった。しかも全然可愛くない声で。
「……で、何が却下なんだ?」
「え?聞こえてたんですか?」
「一人でブツブツ言ってりゃ嫌でも気になるしな。」
ぎゃあ、声に出てたんだ。恥ずかしい……。
「い、いや、ちょっと、この後シャチに買い物に誘われてて、やだなぁーって……。」
ごめんね、シャチ……。
「……そうか。」
うっ、なんか機嫌悪くなってる?どうしよう、誤魔化せてないかな?そう思って目線を彷徨わせていると、あるところに目が留まった。
「あれ?キャプテン、ピアス一つどうしたんですか?」
そう、両耳に合わせて4つある筈のピアスが3つしかないのだ。
「ああ、前の戦闘で壊れた。」
ピーンときたよね!これしかないよね!
「え。じゃあ、そのままだと、穴塞がっちゃうから不便ですよね!」
あ、私ちょっと街にお買い物に行ってきます!と軽く敬礼をしてキャプテンの前を失礼して街へと出掛けた。



あれから、何軒かお店をまわってキャプテンに似合う様なピアスを見つけた。今付けているのと同じ様なリングピアスなんどけど、特注でハートのジョリーロジャーを入れてもらった。ちょっと懐が寂しくなったけど、大切なキャプテンの為だから、全然惜しくない。
今夜は街の酒場で、宴と称したキャプテンの誕生日会だ。そこで、皆キャプテンにプレゼントを渡すから、私も一緒に渡すつもりだ。
キャプテンには集合時間を少し遅らせて知らせてある。皆でわくわくしながらキャプテンの到着を待つ。
カランカランとドアの開く音が聞こえキャプテンが入ってきた。
「「「「キャプテン!誕生日おめでとうございます!!」」」」
パンパンとクラッカーの鳴る音が響く。
「……ああ。今年もお前ら全員そわそわしてて、バレバレだったぞ。」
と、お得意のニヤリとした笑顔。
「「「「(か、格好いい……。)」」」」
そして、いつも通りの宴が始まった。私の席は何故かいつもキャプテンの隣。不満じゃないけど、少し申し訳ない気がする。
「キャプテーン、おめでとうございます!これ俺からっス!」
「船長!俺の気持ち受け取ってください!」
「……キメェ。」
次から次へとクルー達がキャプテンにプレゼントを渡していく。私はタイミングを計りながらソワソワしているとキャプテンから声を掛けられた。
「おい、女性は何も無いのか?」
「あ、わた「女性はプレゼントはわ・た・しだもんな!」シャチ!!」
ピアスを渡そうとしたら、シャチに遮られ、挙句とんでもない事を言われた。
「……へぇ。」
「ひぃっ!」
ちらりとキャプテンを見ると、とんでもなく悪い顔をしている。絶対怒らせた。シャチ許すまじ。どうしようと狼狽えていると、「来い。」とキャプテンに腕を引かれる。絶対バラされる……。後ろを振り返るとシャチや他のクルーが「程々にしてくださいよーキャプテンー」等と口笛を吹いている。絶対殴る。


そのまま腕を引かれて何故か船長室まで連れてこられた。そのままの勢いでソファに放られる。ボスンと座り心地のいい生地に沈むと、そのままキャプテンの腕でソファに縫い付けられる。
「キャ、キャプテン……。」
「女性……。」
段々近付いてくるキャプテンの顔に思わず目を瞑る。

がぶり

「いだっ!え……?え?何……っ?」
いきなり走った首筋の痛みに目を丸くする。思わずキャプテンを見ると、心底楽しそうな顔をしていた。遊ばれたことに気付くと、顔に熱が集まっていくのが分かる。
「ククッ……ナニされると思ったんだ。」
「なにって、キャプ「ロー。」そんな!出来ません!」
「名前を呼ぶまで返事しねェ。」
「キャプテン……。」
「……。」
ええ……。噛み付いた次は、名前を呼べと来たもんだ。できる訳がない。キャプテンと呼んでみるも返事はない。女性は覚悟を決めた。
「……ぉ」
「聞こえねェ。」
「っ……ロー。」
「なんだ、女性。」
「……誕生日おめでとう。」
「ああ。」
「これ、プレゼント……。」
綺麗に包装されたピアスをローに渡す。
「ハートのジョリーロジャー彫って貰ったの……。」
「ああ、綺麗だ。」
いつに無く素直なローに動悸が止まらない。
「気に入ってくれた?」
「ああ、大切にする。有難うな、女性。」
額に少しかさついた柔らかいものが触れる。それがローの唇だと気が付くと、今までにないくらい顔が赤くなる。
「フッ、顔が赤いぞ。」
「っ、それは、ローが、」
「俺が?」
「きす、するから……んっ」
今度は唇が塞がれた。唇を潰すようにゆっくりと味わわれる。離れていくローの顔をじっと見つめる。
「悪ぃ、我慢出来なかった。女性、俺の前以外でそんな顔すんじゃねェぞ。」
「そんな顔って、」
どんな顔……という言葉は再び塞がれた唇により出てこなかった。

その後帰ってきたクルー達を、シャチを中心的に殴り、ローの「俺の女」発言により顔が赤くなるのは別の話。





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