青天、霹靂を飛ばす 


「おれは、お前が好きだ。」

尊敬する船長から告白されて断る奴がいるだろうか、いや居ない。反語。
目の前で頬を赤らめ、目を伏せながら告白してきた我等がキャプテンを見据えながら、男性は告白に対する答えを口にする。
「……俺も好きですよ。キャプテンのこと……敬愛として、ですけど。」
男性の答えを聞き、一瞬きらきらと期待を込めた眼差しを男性に送るが、続く言葉にローは拗ねたような表情をする。
「ちっ、いい加減諦めたらどうだ。」
舌打ちとは、仮にも告白した相手にとる態度だろうか。やれやれと肩を竦めながら男性は溜め息をつく。というのも、ローが男性に告白をするのはこれが初めてではない。
時はかれこれ数ヶ月前に遡るが、その話は割愛しよう。単純に、とある島で暮らしていた男性にローが一目惚れをし、半ば強引に船に乗せ、それからは毎日のように告白をしているのだ。初めこそ嫌がり、拒絶していたのだが、元々あったローのキャプテンとしての素質に気付き、クルーになるのも良いかもしれないと思えた。他のクルーも気さくでいい人ばかりだったので、船の生活にはすぐに慣れた。
しかし、これに関しては別だ。元ローが大好きなこの船のクルーたちはキャプテンの初恋を知り、やれ宴だ、やれ御馳走だとお祭り騒ぎで、その上、失恋させてはならぬとローにアドバイスをし、男性が断ろうとしようものなら拳を見せて脅しさえする。民間人だった男性が鍛えられた海賊に勝てるわけもなく。出来るのは告白の返事を濁すぐらいだ。
今も、廊下の角からこちらを覗いていたペンギンたちにローが結果を報告しに行っている。
「いい加減諦めないかな〜……。」
「お前こそ船長のどこが嫌なんだよ。」
独りごちたつぶやきに返答があり、驚いて後ろを見るとシャチがいた。
「キャプテンは医者で頭も良いし、戦闘も強ぇ、好きなやつには尽くすタイプらしいし、仲間思いだ。ときどき天然なところはあるが、何よりスレンダー美人だ。」
何が不満なんだよと脇腹をつついてくるが、一番の問題があるじゃないか。
「……キャプテン、男じゃん。」
そう、キャプテンことトラファルガー・ローは男だ。男性に男色の気はなく、趣向はいたってノーマルだ。仮にローが女性だったなら初日の告白で、即受け入れていただろう。それほどまでに魅力的な人物ではある。だが、男だ。しかし、男性と手が触れ合ったり、食事の時にたまたま隣の席になった時などに照れて顔を赤らめるのは初心で可愛らしいと思う。先程の告白の時も頬を染めたり、期待を含んだ眼差しを向けてきたのも可愛かった。人から好意を寄せられて、しかも一途に思われて絆されない人なんているのだろうか、いや居ない。反語。
なんて言えば、調子に乗るのは明瞭で、仕方がないから、本格的に絆されるまでこの思いは取っておこう。

今日も振られたローを慰めているペンギンたちを見ながら、くつくつと笑っている男性をシャチは不思議そうに見る。船長の初恋が実るのは、そう遠くないのかもしれない。





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