可愛いお姫様なんて冗談じゃない 


※微グロ注意


今の状況を整理したいと思う。

俺は、久し振りに見つけた島で散策をしていたんだ。治安がよく、観光客も多い島らしく街も賑わっていた。普段はローやペンギンたちとまわるんだけど、今回は一人でまわってたんだ。他意はなくてただそんな気分だっただけ。でも、一人でまわるって言った時のロー可愛かったなー。おれも連れて行け、って目で訴えてきててさ、気付かないふりしてばいばーいって離れたら、拗ねたような顔するんだぜ。これだからローの恋人は辞められない。"死の外科医"トラファルガー・ローが恋人、それも男の乗組員に現を抜かしてるなんて、世間が知ったらどう思うだろうか。

っと、話がずれたな。そう、それで一人で散策をしていたんだ。島の名物だとかいう饅頭を食べながら歩いてたんだ。また、その饅頭が美味くてさ、中の餡子が絶妙な甘さなのよ。それが同じく名物のお茶と合うの。上手い商売してると思ったね。じゃなくて、うん、そしたらさ、どこかから泣き声が聞こえたんだ。路地裏を覗くと、子どもがしゃがんでて泣いていたのさ、子供好きの俺からしたらほっとけなくて声を掛けたんだ。
「ぼく、どうしたの?迷子?」
「ぅえ、ひっく……」
泣き止む気配のない男の子に、ローたちへのお土産用として買っておいた饅頭を一つあげることにした。どうせシャチの分だし構わない。
「ほら、これあげるから泣き止んで。」
「……っ、ありがとう……。」
饅頭を頬張り、泣き止んだ様子の男の子に声を掛ける。
「よし、じゃあぼく、名前は?」
「……カイル。」
「カイル、いい名前だね。カイルはどうしてここで泣いてたの?」
「っ……お兄ちゃん、ハートのかいぞくだんの人?」
「そうだよー。それがどうかし、ぐっ……!」
よく知ってるねー、なんて思った所で頭に強い衝撃を受けた。振り向くと、同業者か海賊狩りだろうか、あまり良くない風貌をした男達がいた。
「ぐへへ、こいつを人質にトラファルガーの野郎を捕まえて、海軍に差し出せば、おれ達は億万長者だ。」
「流石っすね!兄貴!!」
どうやら後者だったらしいが、浅ましい考えだ。殴られたところを押さえると、ぬるりとした感触があることに気付く。血か。ふらつきながら立ち上がろうとするが、再び頭を殴られる。意識を失う寸前にカイルを見れば、また泣き出しそうになっていて、嗚呼、ペンギンの分の饅頭あげなきゃ……と思った所で目の前が暗くなった。



とまあ、こんな感じだね。整理出来てない?ほっとけ。
目を覚ますと倉庫みたいな所で、椅子に座らされ手足は椅子に固定され動かなくなっていた。
「ここ、どこだ……」
掠れた声で呟くと、近くにいた男が反応した。
「目が覚めたか。ここは島の外れの廃倉庫だ。大声をあげてもだれも気付かねぇ。」
親切な男だ。ズキズキとした痛みに耐えながら周囲を観察する。隅の方で男に掴みかかっているカイルを見つけた。
「っおい!云うこと聞いただろっ、サシャを返せっ!」
泣きそうになりながらも、果敢に男に向かっている。
「ちっ、うるせぇガキだな。……おら、さっさとどっか行け!」
「っ、お兄ちゃん!」
カイルは妹を人質に取られていたらしい。其れならば仕方がない。カイルはこちらをみながらごめんなさいと口を動かす。気にしていない。とにこやかに笑って、パタパタと手を動かすと、カイル達は倉庫から出て行った。
「っ、何笑っていやがる!」
「ぐっ、」
カイル達が出ていった途端、横っ面を殴られ口の中に鉄の味が広がる。くそ、ローの好きな顔が歪んだらどうしてくれる。
「っ、ちょっと、痛いんだけど。」
声を上げると、うるせぇと再び殴られる。こいつの事を親切とか思ったけど、取り消しだ。てか、人を攫ってる時点で親切じゃねぇ。

身体中が痛くて首を動かす事さえも億劫で、俯いたまま男達の話を盗み聞く。刀、一人、海楼石との言葉が聞こえたから、大方、鬼哭を持たずにロー、一人でここに来させて俺を人質に怯んだ所で海楼石の錠で捕らえるとかだろう。こいつ等が海楼石なんて高価なものを持っていたのが驚きだ。しかしながらローは、鬼哭がなくても能力は使えるし、素手での戦闘も船内では一番強い。情に弱い所は多少なりともあるが、我等の船長を甘く見てもらっては困る。そう考えているうちに外から呻き声が聞こえた。ようやく迎えが来たらしい。
「っ、来たか……!」
「うちの船長、普通に強いから頑張ってね。」
そう煽るとまた殴られたが、今度はタイミングが悪い。
「っ、男性!」
殴られている所をローに見られた。この男は、きっと楽には死ねない。怒りを露わに迫り来るローに、殴った男はガクガクと震えている。その時、ゴリっと後頭部に硬いものが当たった。
「動くな、トラファルガー。この男の頭に風穴が開くぞ。」
リーダーらしき男が拳銃を頭に当てているのだろう。ちっ、と舌打ちしてローが止まる。そろそろ潮時か。まずはブーツに仕込んでいた刃物で足の縄を切る。バラバラと縄が落ちるがロー以外は気が付かない。腕は……後で切ってもらおう。その間にローの元へは海楼石の錠をもった男が近づいていく。ローに目で合図をすると、ローは素早く"ROOM"を展開する。男達が一瞬怯んだ隙に、海楼石を持った男と俺の位置を入れ替えた。
「ごめん、ロー。油断した。」
「ちっ、後で覚えておけ。」
ローが持っていた小刀で腕の縄を素早く切る。ようやく自由になった身体を解しながら、正気に戻った男達を蹴り飛ばしていく。
「お前を殴った男はおれのだ。」
「ハイハイ、程々にね。」
じゃあ、俺はリーダーでもやりますか。


まさかこんな展開になろうとは想像もしていなかったらしいお馬鹿な海賊狩りの集団は次々と地に伏していく。
「あんたがリーダーだよね?」
「ひっ、」
先程までの強気な態度はどこへ行ったのか、拳銃を持ったまま固まっている、リーダーらしき男。この際どちらでもいい。どちらにしろ残っているのは、この男とローが遊んでいるあいつしかいないのだ。震えながら銃を構える男を静かに見据える。
「……早く撃ちなよ。」
「く、来るなっ!」
1歩踏み出すと放たれる銃弾。そんな震えながら撃って当たるわけがない。弾を込める隙を与えず男に近寄り拾ったサーベルで喉を掻き切る。噴き出す血を気にせずローの所へ向かう。

「ぐっ、あ"、も、ごろじでくれ……」
持っていた小刀で五体をバラされたらしいその男は、無抵抗で両手の骨を折られ、顔も歪んでいた。
「ちょっとやり過ぎじゃない?」
「男性を殴ったんだ。まだ足りねぇ。」
まだ男に何かしそうなローを横目にサーベルを男の額に突き立てる。
「ガッ……!」
何も発しなくなった男に、ローがまだ終わってねぇと吐き捨てる。
「もう、死んでる。帰ろ、ロー。」
ちっ、と舌打ちして、ローは男性が伸ばした手を取り歩き出す。


「そういえば、そっちに向かう途中に兄と妹のガキが助けを求めてきた。」
カイルとサシャだろう。
「妹を人質に、俺を攫うのに協力させられてたんだ。」
やっぱりもっと苦しめてやればよかったと言うローを宥めて、船までの道を進む。
「男性、」
生きててよかった。そう泣きそうな声で言うローの手を強く握る。




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