鳴門 | ナノ
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8.


「───……カカシ先生なら、もっと上手く言ってあげられたかもしれませんね」

イナリくんの背中が自分の部屋へ消えて行く頃合いを見計らい、なまえの声が今度は俺に向けられた。盗み聞きするつもりはなかったんだが、恐らくなまえは始めから俺の存在に気づいていたのだろう。

「……いや、なまえの言葉はイナリくんにちゃんと届いたよ。きっとね」
「そうだと良いんですけど」
「……、いつから知っていたの?」
「……アカデミーに入る時、お願いしたんです。『血が繋がっていないのならそれでも構わないから、本当のこと教えて』って」

癇癪を起こしたイナリくんを宥めるようとなまえが切り出したのは、自らの境遇についてだった。九尾の一件みたく固く箝口令が敷かれているわけではないものの、ただ何となく事情を知る者が揃って口を閉ざしていたことだ。

「怖くなかったのか? 今までずっと兄だと思っていた人がもしかしたら赤の他人かもしれないのに」
「……何となくですけど、そんな気がしていたんです。それどころか自分は木ノ葉の生まれですらないんだろうなって。それに、本当のことを聞くのは確かに怖かったけど、それ以上に兄が正直に話してくれたことが嬉しかったから……」

なまえが漠然とした不安に駆られていたように、ゲンマもまたこの子の心内を察して悩み、頭を抱えていたのだろう。待機所で見掛けたあいつが険しい顔つきで唸っているところを何度か見掛けたことがあったから。
それでも本当のことを教えて欲しいと切り出した時、切り出された時、二人はどれほどの覚悟で先へ進んだのだろう。血の繋がらない兄妹は、真実を共有する前と後で何らかの変化があったのだろうか。

「兄が正直に話してくれて嬉しかったけど、やっぱりショックでした。でも、もっと小さい頃に兄が教えてくれたんです。木ノ葉には火の意志と言うものがあって、皆がそれで繋がる家族なんだって……私は木ノ葉の生まれじゃないかもしれないけど、その一人でいたいんです。私にとって兄がくれた思い出の全部が宝物だから」
「……そっか、」

ふと、懐かしい感覚に駆られた。
火の意志を語るなまえの横顔が、今は亡き友人と重なって見えたような気がしたから。仲間を何よりも大切にするかつての英雄に。もうずいぶんと昔のことなのに、ほんの少しの切欠で古い記憶に絡まった余計なものまで引きずり出されそうになるから全くもって嫌になる。

「? カカシ先生…?」
「……お前達は、正真正銘の兄妹なんだな。それこそ血が繋がりにも負けないくらい」
「はい。兄は兄で、私は私ですから」
「そっか──なまえ、明日からはお前もタズナさんの護衛に就くことになるから、今日は早めに休みなよ?」
「はい。おやすみなさい、カカシ先生」

不自然に会話を切ったにも関わらず、何事もなかったように中へ戻っていくなまえに救われたような気がした。

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