61.
「当たりーっ!」
風遁・螺旋手裏剣───ナルトの新術が角都さんを背後から押し飛ばし、瞬く間に融合した黒い"ストック"を粉々にしてしまった。
「……嘘……、」
何と言う威力だろう。カカシ先生をここまで追い込んだ角都さんをたったの一撃で倒してしまうなんて。彼が無理矢理にでも戦いから遠ざけていなければ今頃私なんて跡形もなく消し飛んでいたことだろう。それでも、まさか───。
「角都さんが負けるなんて……、」
飛段さんと違って不死身ではないけれど、転生術のように心臓を入れ替える術を持つ彼はその強さと合わさって生き続ける存在だと思っていたから。そんな存在がこんなにも呆気なく寿命を迎えるなんて。
「おい! 他所見してる場合じゃねーぞ!」
「! うっ、」
感傷に浸る暇も与えないと言わんばかりにいきなり背後から迫ってくる拳を咄嗟に両手で受け止めた。
重い。勢いを殺し切れずフッと足元が浮いたと同時に角都さんの攻撃に巻き込まれてしまわないように避難していた大木がみるみる遠ざかっていく。たった今まで自分が立っていたそこから私を見下ろすのが誰か分かった瞬間、奥歯を噛み締めたことは仕方のないことだと思うのだ。
「シカクさん!」
「分かってる。影縛りの術!」
「!」
最悪だ。自由が利かないことがどうでも良くなるくらいもっと悪いのは、シカクさんがわざわざ出張ってきたこと。火影様の補佐として里内にいることが多かったはずのこの人がここまで出てきたと言うことは、五代目火影───もとい綱手様が何らかの確信を持ったと言うこと。とは言っても遅れて地面に降り立った、さっき私を突き落とした"誰か"を見れば当然のことだろうけれど。
「シカクさん!? 何でここに……それに……っ」
「その前に───ヤマト、お前の木遁でなまえを拘束しろ! 念には念を入れてな」
「はい!」
嘘。どうして───信じられないとそんな言葉が次から次へと上がる中、テンゾウさんの腕から生やした木遁が私の体をきつく縛り上げた。痛い。ミシミシと軋んだ音が聞こえてきそうだ。
「久し振りに会ったのに、こんな形になって残念だよ。なまえ……」
「その格好……暗部を辞めたんですか? ついでに名前も変えたと言うわけですか」
「お喋りはそこまでだ。なまえ、俺達は砂の一件からお前の真意を掴みあぐねていたわけだが……今回の一件で五代目は正式にお前を味方だと決定づけた」
「いきなり何を言い出すかと思えば……」
「お前の後ろにいるアスマは紛れもない本物だ。それでもあくまで恍けるつもりなら、ここから先は自分の目で確かめてみることだな」
まだ隠れている人がいる。例えばアスマ先生が紅先生を危険な場所に連れては来ないだろうし、なら隠れているだろうもう一人は一体───。
「……そろそろ日が暮れるな」
「……っ、」
「かくれんぼはもう終いだ。そろそろ帰ろうぜ?」
何があっても絶対に取り乱さない自信があったはずなのに。
「なまえ」
記憶の中と少しも変わらない笑みを浮かべる彼を前にして呆気なく崩れ去った。
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