鳴門 | ナノ
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62.


「どうして……、」

アスマ先生がこの場に居合わせたとしても平静を保つ自信はあった。それにカカシ先生やライドウさんの口から彼の名前を聞いても僅かですら心を乱すことはなかったのに、彼自身がそこにいるだけでこんなにも簡単に動揺するなんて。

「久しぶりだな。なまえ……」
「───……、」

無意識に開いた口が何て返すつもりだったのかは自分でも分からない。結局そこから零れ落ちたのはか細い吐息だけだった。なのに、彼はまるで声にならなかった声が聞こえていたみたいにふぅ……と溜め息をついた。しょうがないとでも言うような、そんな表情も記憶の中に存在するものと少しも変わらない。彼は───兄はいつもそうやって妹の───私の頭を撫でて当たり前のように甘えさせてくれた。

「あいつ等からの報告で一つ引っかかったことがあってな。お前はわざわざアスマのチャクラ刀を使って止めを刺したそうだな?」
「……」
「あのチャクラ刀は使用者の力に基づいた効果を発揮する。お前はそれを知ってて利用したわけだ」
「何を根拠に……」
「助けるためにはどうしても自分が止めを刺す必要があった。そうやってアスマの死を偽装し里へ戻せば……お前は全てを繋ぎの力に賭けたんだろ?」
「! どうしてそれを……っ、」
「何もかも"人繋ぎ"のお前にしか出来ないことだ。そうだろ? なまえ!」

確信を持ったからこそこの人達が動き出したとは思っていたけれど、まさかそこまでたどり着いていたなんて。否定しなければ。何か言い返さなければ。頭では分かっているのに───。

「人繋ぎは今までに築いた記憶や感情、繋がりを素に独自の封印術や結界忍術を使う……自来也様が調べた特徴とも合致するが、ゲンマの手によってアスマが目を覚ましたことが何よりの証拠だろ」
「……そこまで調べがついているなんて思わなかったですよ」
「それは認めたと取って良いんだな?」
「確信があるからここまで追って来たんでしょう? 今更否定したところで何の意味もない」
「それもそうだな。人繋ぎにはまだ多くの謎が残っているが……なまえ、お前にこれ以上手荒な真似はしたくない。俺達はお前自身の意思で里に戻ってきてほしいと思ってる」

シカクさんの言う通り敵じゃない。でも、味方でもない。
この人達が知っているかどうか分からないけれど、人繋ぎとはそう言うものなのだ。自我が芽生えたと同時に宿った意志に従って動く。私だけじゃなく代々そうやって引き継がれてきたのだ。

「同じ里の仲間だから、味方だから、どれも違います。アスマ先生が生きていると都合が良いから、ただそれだけです。それともう一つ。私はもう不知火なまえじゃない」

兄妹の繋がりを断ち切ったつもりでいるからとかそんな単純な気持ちで言っているわけじゃない。私が"人繋ぎ"だからだ。人繋ぎの自我が芽生えた時からそれまでのあらゆるものが繋ぎの力へと還元され、やがて自分自身が薄まっていく。それは寿命と言い換えたって良い。

「あなた達が必死に連れ戻そうとしている不知火なまえなんて人間はやがていなくなる。今、あなた達の前にいるのは暁の一人であってあなた達の敵なの!」

痛い───胸の奥がズキズキと痛み出して自由が利いていたら外套の合わせ目を握り締めたかった。どうしてあなた達がそんな顔をするのだろう。間違ったことなんて何も言っていないはずなのに。今の私は一体どんな顔をしているのだろう。

「俺ってば詳しいことは分かんねえ……でもお前がいない奴だなんて言われて納得出来るわけねえだろ!」
「シカマルはアスマ先生が死んだと思ってる。それでもあんたを同じ里の仲間だから必ず連れ戻すって……目の前にいるのにほっとけるわけないじゃない!」
「ナルト、いの……」
「なまえ、俺には詳しいことは分からないから人繋ぎだってお前の言う通りなのかもしれない。でも、お前は俺達を忘れちゃいないし、俺達だってお前をちゃんと覚えてる。何もかもがゼロになるわけじゃないんじゃないか?」
「カカシ先生……」
「お前に危ない橋を渡って欲しくないんだよ。だからなまえ、戻っておいで?」

痛い───痛くて堪らない。胸の奥だけじゃなくて、皆の声を聞く度に頭の中で意味を持たない音がガンガンと鳴り響いて止む気配がない。音、ううん。これは声だ。でも誰の───。

(なまえ、私に任せて)
(えっ……?)

優しくて穏やかな声を聞いた次の瞬間、目の前に白いもやがかかったみたいにじんわりと滲んだ。

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