鳴門 | ナノ
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「#エロ」のBL小説を読む
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60.


「よお……遅かったじゃねーか。怖気づいて来ないのかと思ったぜ」
「あんたこそ。病み上がりなんだからはしゃがないでくださいよ」
「病み上がりどころかこいつは一度死んだ身だろうが」

死んだはずの人間と軽口を叩き合うと言うのは何とも不思議な感覚だった。喜びなのか安心なのか、まるで夢でも見ているかのような。それはシカクさんも似たようなものなのか、おそらく俺達は近しい表情を抱いているに違いない。

「と、まあ冗談はこのくらいにして……これでも感謝してるんだ。お前がいなかったら俺は今ここにいないからな」
「それはあいつに言ってやってくださいよ。俺はただあいつの思惑に乗ってやっただけだ」

それはシカマル達が出発してしばらくのこと─────。





「調べたところアスマの心臓には封印術と結界忍術が直に打ち込まれていた。医療忍術を使おうにも流し込もうとした途端に弾かれてしまった」
「……」
「封印と結界……この二つから察するに今のアスマはおそらく仮死状態に近い」
「……つまり、アスマさんはまだ生きてるってことですか?」
「確証はないが……だが、私の見立てでは術が解ければアスマが目を覚まし助かる可能性が高い」

呼び出されたかと思えばあくまで冷静にとあらかじめ釘を刺されたものの、今の話を聞いて驚くなと言う方が無理だろう。一歩間違えればパニックを起こしかねない状況を前にして真っ先に気になったのは───。

「どうしてこのことをあいつ等に教えてやらないんですか? それに、わざわざ俺だけを呼んで……どう言うつもりですか?」
「ああ、順を追って説明しよう。第一にもし本当にアスマが生きているとしたらあちら側の思惑がハッキリとするまでは安易に口外すべきじゃないと判断した」
「あいつ?」
「情報が少ないためあくまで予想だが、おそらくこの模様が術を解く鍵になる!」

バサリと五代目がアスマさんにかけられたシーツを僅かに下げた。

「こいつは……!」

信じられなかった。それはアスマさんが生きているかもしれないこと以上の衝撃で。

「アスマに止めを刺したのは不知火なまえで間違いないそうだ。この模様もなまえの仕業と見てまず間違いない。そこでお前を呼んだ理由に繋がるわけだ」
「なまえが……」
「こんな術式は初めて見る上に皆目見当もつかない。しかし、お前なら何か分かるかもしれない」

誰よりも側でお互いの時間を共有してきた俺なら。そんな考えでここへ呼ばれたと言うわけか。前と同じく納得のいく答えを俺が持ち合わせているのではないかと。

「いのや私ではアスマを救えない……なら、後はお前しかいない。兄であるお前にしか分からない何らかの手がかりを残したとしか考えられない!」
「……こいつは術式なんかじゃないですよ」
「? どう言うことだ」
「これは俺となまえで作った合言葉みたいなもので……」

懐かしい記憶を噛み締めながらホルスターから引き出したクナイの切っ先を自らの手の平に突き立てた。当然、目を丸くした五代目を苦笑で制し、ぷつりと滲み出してきた赤をもう一方の手で広げながら一つの模様を描いていく。それはさっきアスマさんの胸元が露になった時に驚いた原因。火の輪郭を模ったかのようなそれは不自然に欠けていて───。

「不知火に見立てたこいつは、一人じゃ決して完成しない。相手がいて初めて本来の意味を持つ」

家紋ってなーに? そんな疑問に答えた時のなまえの目が未だに忘れられないでいる。意味を知ってからのなまえにとってはとりわけ憧れの存在になったのかもしれない。だからこそ子ども騙しだと分かっていながらも切り出したのだ。俺達の繋がりを証明する、俺達だけが分かる"家紋"を作ろうと。そして出来上がったものの"半分"が今、アスマさんの左胸に刻まれている。

「俺となまえがいて初めて意味を持つ繋がりだ……!」

チャクラだけじゃなく外からのあらゆる衝撃が拒絶されたと言うのに"家紋"の"半分"が描かれた俺の手の平だけが難なく受け入れられた時の感情を忘れることはこの先もないだろう。ついでにアスマさんの体がビクッと大きく跳ねた後、咳込みながら目を開けた瞬間の安堵も─────。





「口にするのは簡単でも、実はどこかで迷っていたのかもしれない。今まで気づいてやれなかったから尚更……」
「それで、その迷いとやら晴れたのか?」
「ああ。今度こそがむしゃらに信じ続けてやりますよ。何よりなまえ自身が教えてくれたんですから」
「そうか……じゃあ、行くか! 俺達の仲間を連れ戻しに!」

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