鳴門 | ナノ
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35.


「こんなところにいたのか」
「ゲンマさん……」
「そろそろ日が暮れるな。かくれんぼはもう終いだ。ほら、帰んぞ」

叱る気なんか微塵も起きなくて代わりに恐る恐る差し出された小さな手を握り返し、無性に安心したと同時に改めて決意を固めた。

「……ったく、家出するならせめて靴を履いて玄関から出ろって。何で俺がいたわけでもないのに、わざわざ窓から出て行くんだよ?」
「、ごめんなさい」
「それは何に対してだ?」
「全部。今日のことも、今までのことも」

別に責めているわけじゃない。だが、言ったところでそれが正しく伝わるほどの信頼関係を俺達はまだ築けてはいない。だから───。

「ハァ……お前、何か勘違いしているみたいだから言っておくが、ガキは迷惑をかけて当然の生き物だ。そんでもって、とことんつき合ってやるのが家族の役目だ。少なくとも俺はそう思っている」
「でも……」

元々、頭の悪い奴じゃない。加えて、周りをよく見ているこいつのことだ。俺を気遣っているのだろう。血の繋がっていないことにも薄々勘づいていて、他人である俺に自分と言う重荷を背負わせて責任を感じさせて良いのかと。だが───。

「なあ、なまえ。火の意志を知っているか?」
「火の意志?」
「先代の火影の教えだ。この里を守ろうとする強い意志を持つ奴等は皆、家族そのものなんだってよ」
「家族?」
「まあ、お前はこれからそれを育てて行くんだがな」

一族や家族、それ等の繋がりを最も分かりやすく証明してくれるのは間違いなく血だ。こればっかりは否定のしようがない。だが、それが何だと言うのだろう。

「お前は何も言わないから何に悩んでいるのか知らないが、いくら悩んでもどうにもならないこともある。そう言うのは追々考えて行こうぜ? それに、俺だっている。頼りない兄貴になる気は更々ないから、少しずつやって行こうぜ」
「……、」

何度だって分かるまで教えてやる。お前の遠慮なんか俺達が兄妹になれない理由にならないのだと。

「ごめんなさい」
「今度は何に対してだ?」
「全部。それから……ありがとう」
「どういたしまして。まったく、手のかかる妹だ」

ひどく小さな声でも"お兄ちゃん"と呼んでくれたのはなまえなりの大きな一歩なのだろう。まだまだ頼りない重みと温もりを感じながら歩く帰り道はいつもと違うような気がした。






「─────っ! ハァハァ……夢?」

向かいのベッドで寝息を立てるライドウを見て、ここが病室であることを思い出した。消灯時間までいたなまえも帰り、しばらくは碌に動けないわけだし、傷が塞がるまでは大人しくしていようと思っていたんだが。

(何だ? この胸騒ぎは……)

懐かしい夢で片づけるには何かが引っかかる。加えて、里中を駆け回ったかのような激しい息切れと寝汗で服が肌に張りつく感覚はまるで夢見が悪かった時のそれだ。

(なまえ……)

俺の思い違いならそれで良い。ほんの少し動かしただけで悲鳴を上げる体を無視して、病室の窓から飛び降りた。

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