鳴門 | ナノ
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34.愛が溢れて吐きそうだ


物心がついて間もない頃、ゲンマと一緒にいると周りから声をかけられることが多かった。その度にゲンマは私を妹だと紹介していて、相手は必ず驚いてから慌てて笑みを浮かべる。それが幼心にゲンマを兄と呼ぶことを躊躇わせたのかもしれない。私は兄と呼ぶ代わりに"ゲンマさん"と呼び続けていた。そこからだんだんと知ることが増えて来ると何となく本当の兄妹じゃないんだろうと考えるようになって、益々お互いの距離が開いていったような気がした。もし、たった一度でも呼んでしまえば彼は責任を感じてしまうかもしれない。間違っても彼の重荷にだけはなりたくない。そして、いよいよ彼の優しさに耐え切れなくなった私は家を飛び出したのだった───。

「こんなところにいたのか」
「ゲンマさん……」
「そろそろ日が暮れるな。かくれんぼはもう終いだ。ほら、帰んぞ」

行くあてもなく、飛び出して来た手前戻ることも出来ない。どこまでも考えが足りない私はだんだんと暗くなっていく空を見上げながら膝を抱えて啜り泣くことしか出来ないでいた。何もかも自分の所為なのにゲンマは怒ることもせずいつもと変わらない口調で言葉を紡ぎながら、手を差し伸べただけ。結局、数時間の孤独にすら耐えられなかった私はその手を取ってしまった。

「……ったく、家出するならせめて靴を履いて玄関から出ろって。何で俺がいたわけでもないのに、わざわざ窓から出て行くんだよ?」
「、ごめんなさい」
「それは何に対してだ?」
「全部。今日のことも、今までのことも」

所々薄らと汚れている服は彼が任務から帰って来てすぐに探しに出て来てくれた証拠。迷惑をかけたくないから出て来たのに、結局またかけてしまった。

「ハァ……お前、何か勘違いしているみたいだから言っておくが、ガキは迷惑をかけて当然の生き物だ。そんでもってそれにとことんつき合ってやるのが家族の役目だ。少なくとも俺はそう思っている」
「でも……」

血が繋がっていないかもしれない。それどころか、私は木ノ葉の生まれですらないかもしれない。

「なあ、なまえ。火の意志を知っているか?」
「火の意志?」
「先代の火影の教えだ。この里を守ろうとする強い意志を持つ奴等は皆、家族そのものなんだってよ」
「家族?」
「まあ、お前はこれからそれを育てていくんだがな」

ふと、足を止めたゲンマの視線の先を追いかけてみると遠く離れたところに火影様の立派な顔岩が見えた。

「お前は何も言わないから何に悩んでいるのか知らないが、いくら悩んでもどうにもならないこともある。そう言うのは追々考えて行こうぜ? それに、俺だっている。頼りない兄貴になる気は更々ないから、少しずつやって行こうぜ」
「……、」

迷惑をかけたくないとか、重荷になりたくないとか、そんな気持ちを意図も容易く蹴散らして。この人は格好良く笑う。その程度のものが兄と呼べない理由にはならないと、この人はこんなにも分かりやすく教えてくれていた。なのに、どうして今まで気づかなかったのだろう。

「ごめんなさい」
「今度は何に対してだ?」
「全部。それから……ありがとう」

"お兄ちゃん"とひどく掠れて限りなく小さくなってしまった声は彼の耳へちゃんと届いただろうか。届いていると良い。

「どういたしまして。まったく、手のかかる妹だ」

私のことを軽々と背負って歩く大きな背中に頬をピタリとくっつけて目を閉じる。そして、兄の足が再びゆっくりと歩き出した。





─────……ああ、懐かしいな。

今でもはっきりと思い出すことが出来る。彼はきっと私を引き取った時から既に覚悟を決めていたのだろう。誤解されやすいけれどとても面倒見の良い人だから、一度背負ったものを子どもの家出くらいで投げ出すようなことはしない。
だからこそ全てを置いて行くのだ。アカデミーの入学祝いにもらったかんざしも、下忍の合格祝いにもらった千本も、彼と同じ巻き方をしていた額当てさえも。ゲンマとの思い出は何もかも。

「ごめんなさい」

私は今日、里を抜ける。

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