鳴門 | ナノ
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「#エロ」のBL小説を読む
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2.


「うーん……やっぱり何か違う」
「あ? 何が?」
「額当て。とりあえずシンプルに巻いてみたんだけど、あまりしっくり来なくて……」

確かに。似合っていないと言うわけでもないが、違和感があると言われればそう思えなくもない。主な原因は今まで垂らしていた髪を高い位置で縛り直していることだろうか。さっきから鏡と睨めっこを繰り広げているなまえがこちらを見たのはほんの一瞬で、すぐさま正面へ向き直ると、再びうんうんと唸り出した。その姿に溜め息を一つ。
果たしてそこまで時間を掛けて悩むようなことなのか? いや、納得が行くまで好きなだけ悩んでくれて構わないのだが、このままだと解決するのはまだ先のことになりそうだ。

「ハァー。なまえ」
「んー?」

チョイチョイと手招き、不思議そうに首を傾げながらも素直に近寄って来るなまえの手から真新しいそれを奪い取り、後ろを向けと顎をしゃくった。従順に振り向いたなまえにたった今奪ったそれを一旦返し、代わりに髪をまとめている簪をそっと引き抜き、パサリと背中まで下りたそれを今度は項の辺りで緩い団子状にまとめ直す。
昔はこの形を作るのも一苦労で時間を掛けてようやく出来上がったそれはあまりにも不格好だったのに、今ではすっかり慣れたもので手早く作れるようになっただけでなく、見栄えもなかなかのものだと言って良いのではないだろうか。改めて振り返ってみると、それだけの時間をこいつと過ごして来たわけで。何だか感慨深いものがある。

「高い位置で結ぶのが似合わねーんだよ。こっちの方がずっと似合ってる」
「ぐっ……悔しいけど、言い返せない」
「意地でもそんなことないくらい言ってみろって。ほら、額当て寄越せ」
「……はーい」

そのまま簪で形を固めてから再び受け取った額当ての布地を広げ、自分のそれと同じようになまえの頭に被せる。初めて支給されたものは、少し弄るだけで簡単に面積を増やせる点に於いては楽で良い。とは言っても、新調する時は巻くスタイルに合わせて作り直してもらったほうが良いに越したことはないが。

「───…そう言えば、担当上忍は誰になったんだ?」

片手間に訊いたそれは、実は何よりも気になっていたことだった。
どいつもこいつも、一癖も二癖もあるような奴等ばかりの中でなまえは一体誰を引き当てたのか。こいつも卒業試験の真意をようやく理解したわけだが、出来ることならこのまま忍にさせてやりたい。俺がどうこう出来るわけでもないのに、つい気になってしまうわけで。

「うーん? はたけカカシさんって言う人で、何て言うか……すっごく不思議な人だったかなあ。マスクで顔隠しちゃってるし、皆で自己紹介したんだけど、結局名前くらいしか分からなかったし……」

途端、思考がピシリと音を立てて固まったような気がした。なまえに悪いとは思いつつ、どうも次の言葉が入って来ない。
良いも悪いもどちらの運も持ち合わせているのだろうとは前々から感じていたが、まさかのまさかだ。何人もいる上忍師の中でなぜよりにもよってあの人を引き当ててしまうのか。いや、別になまえが選んだわけでなく、偶々あの人の班に振り分けられただけなのだが。それにしてもだ。

「ゲンマ? どうしたの? 顔怖いよ」
「……いや。あー、初顔合わせが終わって言うことは、次はサバイバル演習か?」
「うん。当日は吐かないように朝ご飯は抜いて来いって言われたの」

吐くから飯を抜いて来いって、一体何をする気なのか。あの人は。

「まあ、食べて行くけどね」
「良いのか?」
「だって、明日、ゲンマはお休みでしょ? 久し振りなのに一緒に食べれないなんて寂しいもの」
「、あー」
「ふふっ。照れた?」
「うるせーよ」

一瞬の動揺を目敏く見抜かれたらしくカラカラと笑うなまえの後頭部を小突き、やや荒い手つきで額当ての結び目を作る。

「イ、イタタ……ちょっと! もうちょっと優しく」
「はいはい。よし、出来たぞ」

さっきよりは良いだろ? と問い掛けてやれば、なまえは仕上がりを見るべく颯爽と鏡の立ち直した。クルクルと体の向きを頻りに変えては凡ゆる方向から確認し、気が済んだのか再び俺へ向き直ったなまえはえらく満足気な笑みを浮かべていて。

「うん! エヘヘ。ゲンマとお揃いだ」
「ふん」

分かりやすく上機嫌のなまえを見つめながら、改めて確信する。こいつなら、なまえなら絶対に大丈夫だと。
どのタイミングで渡すべきかと、実のところ卒業試験の前から思案していた愛用の千本の存在を思い出しながら明日、明るい顔をしたなまえの帰りを楽しみに待っていようではないか。

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