3.
「よっ。やーっと見つけたよ」
「! ひぁっ、」
「おっと」
大きく跳ねたかと思うと目の前の小さな体が傾き、受け身を取れないと悟った瞬間、咄嗟に両腕に抱えてそのまま地面へと降り立った。
まさかここまで驚かれるとは……声を掛けられるまでこちらが接近していることに気づかないくらい一体何を考え込んでいたのか。ハァ、と溜め息をつきながらゆっくりと立たせてやると、目の前の子どもはようやく自分の置かれた状況を把握したようだった。
「……で、なまえは来ないの? 昼までに鈴を取れないと失格になっちゃうよ」
「うん。カカシ先生、私は……」
鈴を諦めます、となまえはどこか名残惜しそうに告げた。
なるほど。あそこまで無防備だったのは考え込んでいたからと言うだけでなく、葛藤していたからだったのか。自分も本音を言えば合格したいところだが、鈴を取れるかどうかは別としてそのチャンスでさえも三人に譲ると。
「兄とも頑張るって約束したんですけど、誰かがアカデミーに戻らないといけないのならしょうがないかなって。私には、ナルトやサスケみたいに立派な夢や野望もなければ、サクラみたいに絶対にこの人と同じ班になりたいって言う強い思いもないから。三人に比べたら私の執念なんて大したものじゃないですから」
「……そっか」
ぽふりと頭に乗せられた手の平に怯えて体を縮こませたこの子はこの時、何を思ったのだろう。恐る恐ると言ったように俺を見上げる目が、合格を言い渡した途端に信じられないと言わんばかりに大きく見開かれた時点で良くないものだったことは確かだと思うが。
「今? ……でも、」
「合格だよ、なまえ。お前は、この演習に於いて求められる行動を取ったんだ」
「求められる行動?」
「自分の利害に関係なく、チームワークを優先出来る者を選抜することがこの演習の目的だ。お前は三人の意思を尊重して鈴を諦めただろ? つまり、お前は意図せずとも正しい行動を取っていたってこと」
欲を言えば、他の三人に協力を持ち掛けて全員で向かって来て欲しかったんだが。この子の考え方なら、誰かと協力する前に自分が我慢することで上手く事が運ぶのならそれで良いと結論づけてしまいそうだしね。
「なまえ」
「はい」
「もう少しくらい我が儘になっても良いんだよ? 謙虚でいることも大切だけど、自信を持つことも同じくらい大切だからね?」
正しい行動を取ったと言っておいて何だが、そればかりが良いかと言うとそう言うわけでもない。これから頑固になる必要も、自分の意思を優先すべき場面も少なからず出て来るだろうから。
合格を言い渡した時以上に驚くなまえには以前にも同じようなことを言われた経験があるのかもしれない。だとすれば、その人こそこの子の本質をしっかりと理解しているのだろう。何せ、知り合って間もない俺でさえもそう思うのだから。だが、それでも変わらないと言うことは、この子がその言葉の真意を未だに理解出来ていないわけで。
「いつか、分かる時が来ると良いね」
ジリリリと、遠くで12時にセットした時計が演習の終わりを告げた。
prev │ novel top │ next