鳴門 | ナノ
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1.肩を並べて歩く時間


「いよいよ、卒業試験だな」
「うん、」

今日が終わりどころか、これからようやくスタート地点に立つと言うのに、つい感傷に浸ってしまうのはやはりここまでが長かったからだろうか。上がり框に腰を下ろし、サンダルを履くなまえの背中を見つめていると、ふと言葉にならない思いが込み上げて来て、それをごまかすように伸ばした手が目の前の小さな頭を撫でた。

「? ゲンマ?」
「いや……あー、まあ、何が課題になるかは分からんが、お前なら大丈夫だろ」
「うーん。そうだと良いけど」
「えらく弱気だな。謙虚なのも悪いことじゃねーが、自信を持つのも同じくらい大事なことだからな?」

こいつの自己評価の低さは今に始まったことではないが、こんな時くらい強気になっても良いものを───俺の言わんとしていることが正しく伝わったのか、なまえはサンダルを履き終えると、うん、と大きく頷いてグッと握った拳をこちらに向けた。

「うん……大丈夫。ちゃんと頑張るから、私。ね? お兄ちゃん!」
「……あ」

こつんと差し出された小さな拳に己のそれを当てることで応えながら、ようやく先ほどの言葉にならない思いの正体が分かったような気がした。
あれは寂寥感だ。今日を境にブランコを揺らしながら俺の帰りを待つなまえを任務終わりに迎えに行くこともなければ、食卓を囲みながら一日の出来事に耳を傾けることもなくなる。こいつの話を通してこいつ自身の成長を実感する機会も目に見えて減って行くのだろう。そして、それが俺にとっての細やかな楽しみだったのだ。

「……さて、そろそろ時間だな。なまえ、頑張って来いよ」
「うん。行ってきます!」

手を振りながら扉の向こうへ消えて行くなまえを最後まで見送りながら、これからのことを考える。
何だかんだと言いつつ、卒業試験自体はそこまで心配していない。問題なのはそこから先だ。あいつの担当上忍が誰になるのか。なるべくなら分かりやすい奴に当たれば良いと、どうしたって甘くなってしまうのはどうか大目に見て欲しい。だが、意外と器用なあいつなら結局は上手く立ち回るのだろうと思うのだって身内の贔屓目には変わりないのだが、こればかりは仕方がないと最早開き直っている。

「……しっかりやれよ」

タンッ、タンッ、タンッ、と徐々に遠ざかって行く足音を扉越しに聞きながら、満面の笑みで額当てを握り締めるなまえの帰りを目蓋の裏に思い浮かべた。

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