鳴門 | ナノ
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26.


本選に向けての準備期間に入ってからと言うもの家を空けることが多くなったなまえが数日ぶりに帰って来たかと思えば、急に修行につき合って欲しいとせがまれた。この一ヶ月、どこで何をしていたのかは知らないが、どうやら確かな手応えを持ち帰って来たらしい。そして、これは本選を明後日に控えた最終調整と言ったところか。

「いつでも良いぞ」
「……、うん!」

一拍にも満たない間の後、飛び退いたなまえの手から次々と放たれるクナイは無考えに投げられているわけじゃなく、こちらの躱そうとする動きを捉えにかかっている。なるほど。足、手、そして目───俺の一挙手一投足をよく見ている。

「だが、詰めが甘いな。軌道の読み方が粗いぞ?」
「フッ」
「!」

最後の一本を真上に飛ぶことで躱した瞬間、なまえの口角が釣り上がった。同時に空を切ったはずのクナイが地面に突き刺さる音がいつまで経っても聞こえて来ない。

(こいつは……)

一瞬だったが日の光を反射したことで見えたワイヤーが俺の真後ろに向かって一直線に伸びていた。俺が躱したばかりのクナイへと。

「チッ……」

その反対側をなまえが握っているとなれば、次の展開は自ずと決まる。案の定、引き返して来たそれを口元の千本で咄嗟に弾き飛ばした。無数の疑似餌に紛れ込ませた本隊。これはあの時の対戦相手から得たものか。

「ゲンマ! 一ヶ月の成果、見せてあげる!」

眼下から聞こえて来る声はやけに弾んでいた。そして、拍子抜けするくらいあっさりとワイヤーを手放したなまえが新たに握り締めるのは一本の巻物。

「水遁・水陣壁!」
「な!?」

巻物の結び目が解かれたのと同時に大きく書かれた水の文字から溢れ出したそれが確かな意思を持って襲いかかって来た。
「ぐっ、」

そして呑まれる─────。

「ハァハァ……、っ?」
「最後のには驚かされたが、やっぱり詰めが甘いな」
「変わり身……ハァ、結構良い線行っていると思ったんだけどなあ……」

首筋に添えられたクナイから抜け出すようにその場で座り込んだなまえは言葉の割には落ち込んでいる様子はそこまで見受けられなかった。ついでに悔しそうな様子も。

「その様子だとさっきの口寄せはあまり多様出来そうにないな」
「巻物の中に閉じ込めた水を一滴残らず呼び出すには集中しないとならないし、そこから術を発動するには大量のチャクラを使う羽目になるし」
「だろうな」

だからこその二段構えと言うわけか。宙で引き返すクナイで仕留めようとしたと思わせておいて、有利に立ったと油断した隙を水遁の術で突く。忍具の扱いまで鍛えたのはより一層騙しやすくするためと言ったところか。

「まあ、口寄せの術って言う発想は悪くないな。限りがあるからこそ組み立てられる戦略って言うのもあるだろ」
「そう言うものかな?」
「ああ。後はどれだけ自分の力を把握出来るかだ。何、お前なら出来るだろ」
「うん。ありがとう、ゲンマ。忙しいのにつき合ってくれて」
「この一ヶ月、碌に構ってやれなかったからな。最後くらいは見てやりたいだろ……兄貴として」
「! フフッ」

誰に修行をつけてもらおうとその成長に直接関われなかったことを少し残念に思う。だからこそ、なまえが望むなら最後の仕上げくらいは手伝ってやりたかった。大した意味もなく俺と同じように額当てに覆われた小さな頭を撫でてやれば、なまえは嬉しそうに目を細めたのだった。

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