鳴門 | ナノ
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21.


ポタッ……、ポタッ……と頬を伝う血の感触が気持ち悪いけれど、それを拭う余裕なんて今は一ミリもなくて。
目の前で不気味に笑う草隠れの忍は一体何者なのか。森に入る前にも思ったけれど、この試験を受けるような人じゃないと改めて確信する。感じるそれはカブトさんと近いものがあるけれど、不快感は彼の比じゃない。目も合わせたくないと思わせるそれは、まるで蛇を連想させるかのような。それこそねっとりと絡みついて来るような感覚。

「フフフ……なかなかやるわね、あなた。察知能力も然ることながら何より勘が良い。気づいているんでしょう? 目を合わせてはならないと」

確かにわけも分からないままただ漠然と思う。この人の目を見たら最後、私は死ぬのだろうと。だから口、手、足、目以外の部位の動きと動き出すほんの少し前に感じる嫌なものを頼りに相手の攻撃をどうにか躱しているものの、完璧とは行かないから傷は増えていく一方だし、躱すことに手一杯で反撃に出ることもままならない。
何か策を考えないと。どうにかしてこの状況から脱しないと。

「この状況をどう切り抜けるか考えているのね? そうよね。後は死ぬだけだものね。その潔さも好感が持てるわ」

だからと言って見逃してくれるわけじゃないだろうけれど。
皆を探すにしても、周りを見回せば同じような景色ばかりだから方角だけである程度の位置を掴むしかない。と、なるとやっぱり飛ばされて来た方向に戻ることが妥当なわけで。と言うことは必然的に相手を突破するしかない。途轍もなく勝ち目のうすい賭けになってしまうけれど。

「フン。ようやく来る気になったようね───口寄せの術!」

構想は、拠点の一方が常に移動を続ける中での術の発動。一方を携帯することで自らが拠点になる飛雷神の術。
波の国では移動させる範囲を広げられたのだから、そのまま動かすことは出来ないだろうか。一回一回新たな範囲を作るのではなく、一度作ったそれを維持した状態で発動させる。本当に出来るかは分からない。でも、出来なければ後は死ぬしかない。

「水遁・鉄砲玉!」

印を組み、胸いっぱいに溜めたそれを現れた大蛇の胴体に向けて放てば、巨体がグラリと傾いてこれまた大きな頭が下がって来る。すかさずウエストポーチから引き出したワイヤーで上昇して、大蛇の頭に乗る相手の元まで一気に迫った。

「フッ。甘い!」

投げた千本は呆気なく躱されたが、ここまでは狙い通り。寧ろあそこで受け止められてしまっていたら私に打つ手は残されていなかった。袖口に隠し持っていた煙玉を投げ捨て、視界が白煙に覆われたのと同時に木々の間をすり抜けていく千本に意識を集中させ、チャクラを練り上げた。

(飛雷神の術!)

途端、グンッと体を引っ張られるような凄まじい圧を感じたかと思えば、目の前がグルグルと回った。この感覚は───タイミングを図って両足に力を込めれば、そのまま大木の枝へと着地した。一か八かの賭けだったけれど、どうやら上手く行ったらしい。とは言ってもいつまでも喜びに浸っているわけにも行かない。煙玉はあくまで一時の目くらましに過ぎないし、少しでも早くこの場から離れないと。

「! あの術は……まさか四代目の術を扱えるガキがいるとはね。全く、面白い子だわ」

逃げることに必死だった私にその呟きが届くことはなかった。

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