鳴門 | ナノ
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19.


アンコさんの引率でやって来たのは、首が痛くなるくらい見上げてもまだ天辺が見えないほどの大木が生い茂る森の前だった。"立ち入り禁止区域"の札が掛けられ金網で囲まれたそこは陽を遮り、何とも言えない不気味な雰囲気が漂っている。

「ここが第二の試験の会場。第44演習場……別名・死の森よ!」
「何か、薄気味悪いところね……」
「フフ……ここが死の森と呼ばれる所以をすぐ実感することになるわ」
「……フンッ! 『死の森と呼ばれる所以をすぐ実感することになるわ』なーんて脅しても全っ然平気! 怖くないってばよ!」
「そう? 君は元気が良いのね」
「!」
「あんたみたいな子が真っ先に死ぬのよねえ……フフフ。私の好きな赤い血をぶち撒いてね!」
「! っ、ぁ……」
「なまえ?」

足元から崩れるように尻餅をついたのは、何もアンコさんが怖かったからじゃない。

「クナイ、お返ししますわ」
「わざわざありがと。でもね、殺気を込めて私の後ろに立たないで。早死にしたくなければね」
「いえね、赤い血を見るとつい疼いちゃう質でして。それに私の大切な髪を切られたんで興奮しちゃって」
「悪かったわね───どうやら今回は血の気の多い奴が集まったみたいね。フフ、楽しみだわ」

正直なところ、アンコさんからは嫌なものを全くと言って良いほど感じない。思わず目を逸らしたくなるほどのそれを感じるのは、いつの間にか彼女の背後に立ち、人間離れした長い舌でクナイを差し出すその人───あの人は本当に私達と同じ下忍なのだろうか。下忍がこんな気配を発することが出来るのだろうか。

「それじゃあ、第二の試験を始める前にあんた達にこれを配っておくね!」

その人が人集りへ姿を消したからだろうか、足元の感覚も少しずつ戻って来て試しに力を込めてみれば立ち上がることが出来た。心配そうな面持ちで見つめるサクラにごめんね、と口の動きだけで謝っている間にもアンコさんの手から離れた紙の束が一枚、また一枚を数を減らしながら私達の元にも回ってくる。

「同意書よ。これにサインしてもらうわ」
「?」
「こっから先は死人も出るから、それについて同意を取っとかないと私の責任になっちゃうからさー。さて、まずは第二の試験の説明をするからその説明後にこれにサインして班ごとに後ろの小屋に行って提出してね」
「……」
「じゃあ、第二の試験の説明を始めるわ」

第二の試験のルールはこうだ。
中忍選抜試験・第二の試験は、死の森を舞台に5日間に渡って繰り広げられる巻物の奪い合い。ここにいる26チームの半分には天の書が、もう半分には地の書がそれぞれ預けられ、合格するためには両方の巻物を揃えて森の中心に位置する塔にチームでたどり着かなければならない。巻物を奪い合う中で起こること全てが自己責任。例えば命に関わることでさえも。よって巻物は同意書との交換になる。

「最後にアドバイスを一言。死ぬな!」

ルールが極端にシンプルなのは、この試験の根本にあるものが何でもありの極限のサバイバルだからなのだろう。ニコニコとそれこそ歌でも歌うみたいに物騒なルールを話していたところから一転、真剣な面持ちで告げられた至ってシンプルな助言に空気がピンッと張り詰め、ひどく息苦しくさせた。
配られた同意書は何の変哲もないただの紙のはずなのに、まるで鉛のように重く感じるのはもしかすると気のせいなんかじゃないのかもしれない。

「───そろそろ巻物と交換の時間だ」

小屋は暗幕で覆われ、どのチームがどちらの巻物を受け取ったのか。誰が巻物を持っているのかさえも分からなくされている。
今になってイビキさんの言葉が脳裏をよぎった。この試験では、情報の奪い合いが命懸けで行われる。一瞬たりとも気を抜くことを許されない。ここにいる全員が敵になる。

「皆、担当の者についてそれぞれのゲートへ移動! これより30分後に一斉スタートする!」

情けないことだけれど、同意書に名前を書き込んでからと言うもの手の震えが止まらない。決して軽い気持ちで臨んだわけじゃないし、それなりの覚悟だってしていたはずなのに。本当は実感が湧かないままここまで来てしまったのかもしれない。

(伝言、頼まなければ良かった……)

小さい頃に交わした約束をゲンマが覚えているかは分からないけれど、"行ってきます"と言ったからにはちゃんと面と向かって"ただいま"って言いたかったのに───それも叶わないかもしれないな……なんて。

「なまえ。お前、今更弱気になってんじゃねーぞ」
「! サスケ……」
「期待されてんだろ? お前はずいぶんと知り合いが多いみたいだからな」
「見てたの?」
「あれだけ大袈裟に口を動かしていれば嫌でも目に入る」
「……、そっか」

サスケだけじゃない。両隣のナルトやサクラまでもが大きく頷いている。

「……」

サスケの言う通り私は臆病風に吹かれていたのかもしれない。三人とならきっと大丈夫。それに私だって今日まで何もしてこなかったわけじゃないし、周りにそう遅れを取るようなことにはならないはずだ。

「ごめん。でも、もう大丈夫! ありがとう」
「フン」
「よっしゃー! 行くってばよ!」

ゲートが開き、一歩を踏み出す頃には手の震えもすっかり止まっていた。

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