鳴門 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
18.


シン……っ、と重苦しく伸しかかる雰囲気に飲まれ、一人、また一人と手を挙げては班の仲間と共にこの場から去って行く。受けるを選んで間違えれば中忍試験の受験資格を一生剥奪する。でも、受けないを選べばその時点で失格。十問目の出題を前にして告げられた言葉がこんなにも呆気なく人を諦めさせるなんて───挙げた手を震わせ、悔し気に謝罪の言葉を口にしながらも仲間と共に去っていく彼等の気持ちが分からないわけじゃない。でも、sれでも私は受けるを選びたい。ここで逃げて期待してくれているゲンマをがっかりさせたくないから。

「舐めんじゃねー! 俺は逃げねーぞ!」

根っこの部分は違ってもナルトも同じような気持ちだったのかな。

「受けてやる! もし一生下忍になったって意地でも火影になってやるから別に良いってばよ。怖くなんかねーぞ!」
「もう一度訊く。人生を賭けた選択だ。辞めるなら今だぞ?」
「まっすぐ自分の言葉は曲げねえ。俺の忍道だ!」
「(フン。面白いガキだ。これ以上は粘っても同じだな)……良い決意だ。では、ここに残った78名全員に第一の試験の合格を申し渡す!」
「!」
「ちょ、ちょっとどう言うことですか? いきなり合格なんて! 10問目の問題は?」
「そんなものは最初からないよ。言ってみればさっきの二択が10問目だな」
「ちょっと! じゃあ、今までの9問は何だったんだ! まるで無駄じゃない!」
「無駄じゃないぞ。9問目までの問題はもうすでにその目的を遂げていたんだからな。君達、個人個人の情報収集能力を試すと言う目的をな!」
「? 情報収集能力?」

ニカッとと歯を見せて笑うイビキさんの雰囲気がさっきまでとまるで違う。彼だけじゃなくて、コテツさんやイズモさん、試験官の人達全員がだ。

「まず、このテストのポイントは最初のルールで提示した常にチームで合否を判断すると言うシステムにある。それによって君等に仲間の足を引っ張ってしまうと言う想像を絶するプレッシャーを与えたわけだ。しかし、このテスト問題は君達下忍レベルで解けるものじゃない。当然、そうなって来ると会場のほとんどの者はこう結論したと思う。点を取るためにはカンニングしかないと。つまり、この試験はカンニングを前提としていた! そのため、カンニングのターゲットとして全ての回答を知る中忍を二名ほどあらかじめお前等の中に潜り込ませておいた」

そのターゲットを探し当てるのに苦労したと所々から声が聞こえる中、イビキさんは一度言葉を切ると徐に額当ての結び目に手を掛けた。

「しかしだ。ただ愚かなカンニングをした者は、当然失格だ。なぜなら、情報とはその時々において命よりも重い価値を発し、任務や戦場では常に命懸けで奪い合われるものだからだ」

どこからかゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえて来る。火傷、ネジ穴、そして無数の切り傷。解かれた額当ての下から現れたのは、残酷の一言では言い表せないほどの拷問の跡だった。

「敵や第三者に気づかれてしまって得た情報はすでに正しい情報とは限らないのだ。これだけは覚えておいて欲しい! 誤った情報を握らされることは仲間や里に壊滅的打撃を与える! その意味で我々は君等にカンニングと言う情報収集を余儀なくさせ、それが明らかに劣っている者を選別したと言うわけだ」
「でも、なんか最後の問題だけは納得行かないんだけど」
「しかし、この10問目こそがこの第一の試験の本題だったんだよ」
「一体どう言うことですか?」
「説明しよう。10問目は受けるか受けないかの選択。言うまでもなく苦痛を強いられる二択だ。受けない者は班員共々即失格。受けるを選び、問題に答えられなかった者は永遠に受験資格を奪われる。実に不誠実極まりない問題だ。じゃあ、こんな二択はどうかな? 君達が仮に中忍になったとしよう。任務内容は秘密文書の奪取。敵方の忍者の人数、能力、その他軍備の有無、一切不明。更には敵の張り巡らした罠と言う名の落とし穴があるかもしれない。さあ、受けるか? 受けないか? 命が惜しいから、仲間が危険に晒されるから危険な任務は避けて通れるのか?」

何度、兄の背中に向かって行かないでと泣いたことだろう。夜中に血の臭いをまとって帰ってくる兄に身近な死を感じて、その度に苦しくて堪らなかった。
死なないで、行かないで、一人にしないで───何もかも胸の内に仕舞い込もうとしても小さな私は泣くことだけは止められなくて。でも、兄が迷ったことはたったの一度だってなかった。困ったように笑いながらも、行ってきますと最後には必ず背を向けるのだ。それがただただ怖くて、どうしようもなく悲しかったけれど、今なら分かる。あの頃の兄の背中がイビキさんの言わんとする答えそのものだったのだと。

「答えはノーだ! どんなに危険な賭けであっても、下りることの出来ない任務もある。ここ一番で仲間に勇気を示し、苦境を突破していく能力。これが中忍と言う部隊長に求められる資質だ! いざと言う時、自らの運命を賭せない者。来年があるさと不確定な未来と引き換えに心を揺るがせ、チャンスを諦めていく者。そんな密度の薄い決意しか持たない愚図に中忍になる資格などないと俺は考える! 受けるを選んだ君達は難解な第10問の正解者だと言って良い! これから出会うであろう困難にも立ち向かって行けるだろう。入口は突破した。中忍選抜第一の試験は終了だ。君達の健闘を祈る!」
「おっしゃー! 祈っててー!」

表情まで分かるくらい嬉しそうなナルトの声を聞きながらホッと胸を撫で下ろした直後、何やら黒い塊のようなものが窓を叩き割って飛び込んで来た。
ガッ、ガッ、と黒い塊、もとい弾幕の端に結びつけられたクナイが天井に突き刺さり、中から女の人が姿を現した。

「な、何だー!」
「あんた達、喜んでる場合じゃないわよ! 私は第二試験官、みたらしアンコ! 次行くわよ、次! ついてらっしゃい!」

ナルトと近いものを感じる。そんなサクラの呟きや呆気に取られるあまりすっかり白けてしまった空気をものともせずアンコさんは私達を見渡すと……。

「イビキ! 26チームも残したの? 今回の第一の試験、甘かったのね!」
「今回は優秀そうなのが多くてな」
「フン! まあ良いわ。次の第二の試験で半分以下にしてやるわよ! 嗚呼……ゾクゾクするわ。詳しい説明は場所を移してやるからついてらっしゃい!」

イビキさんが大勢の試験官を引き連れて現れた時と同じくらい、いや、それ以上の緊張感に包まれながら私達は席を立った。それぞれが班のメンバーと合流しながら教室を後にする中、ふとコテツさんやイズモさんと目が合ったような気がした。

「!」

頑張れよ。

パクパクと敢えて大きく動かされたコテツさんの口は確かにそう形作っているように見えて、イズモさんもそれに大きく頷いていて。ここに来る前もそうだったけれど、私のことを覚えていてくれたんだ。

(コテツさん、イズモさん。ありがとう。私、頑張るから)

こちらも少し大袈裟なくらい頷けば、二人はやっぱり分かりやすく笑い返してくれたのだった。

prevnovel topnext