そして、翌日。
友人たちに尋ねてみると、驚くべき事実が分かった。

なんと、私が地味だとしか思っていなかった山崎は、意外にも女の子たちからモテるということ。

よく見ればそれなりに整った顔立ちをしているし、気取らない性格や包容力が高そうだという理由で、彼にアタックを仕掛ける子も少なくはないそうだ。

――私には、影の薄い人っていう印象しかなかったけど。

たまたま山崎が近くにいて、私たちの会話を聞いてたなんて露知らず、私は本音を包み隠さず暴露していた。

けど、私が山崎に興味を持ったのは、ことのほか女子に人気が高かったからではない。

その後の、山崎の対応に、だ。

あれから二人がどうなったのかは分からないが、「由利宮慶子が想い人にフられた」というまことしやかな噂も流れていたので、おそらくはそうなのだろう。
事実、彼女が山崎を見つめる視線には、未練が残っているような切なさが滲んでいる。

対する山崎は、まるであの修羅場が無かったかのように、平然としていた。

授業で彼女を当てる時も、クラス委員として話す時も。
本当に、いつも通りで、山崎の態度だけを見ていると、二人の間に何かがあったとは到底思えない。

彼女にあんな視線を向けられて、どうしてあそこまで平常を装っていられるのか。
私は疑問だった。

気まずくなったりしないのだろうか?

おまけに、山崎に対し反抗的な生徒への対応も他の生徒と変わらず、邪険にすることもなければ構いすぎることもなく。
山崎を見ていて、感じる違和感。

平等と言えば聞こえはいい。
でも、こいつはまるで。

そうだ、まるで――

私たち生徒を路端の石ころ程度にしか思っていないようで――。

「それで、私は先生に興味を持ったの」
「……」
「まあ、話してみるとやっぱり普通なんだけど、何だろうね?私、先生のこと結構好きかもしれない」
「それは、嬉しくないセリフだな」

ふふ。
こういう所だ。
私は山崎の、こういう所が好き。

「素っ気ないなぁ。もうちょっと喜んでよ。華の女子高校生が山崎みたいなのを好きって言ってあげてるのに」
「みたいなのって何だよ。馬鹿にされてるとしか思えない。というか、呼び捨てはやめてくれと言っただろ?」

はぐらかして、はぐらかして。
まるで狸と狐の化かし合い。

「山崎はきっと人を人だと思ってないんだよね」
「いきなり何を言ってるんだ、あんた」

じゃがいもとかカボチャとか、そんなインパクトのあるものじゃなくて。

本当に、その辺にある石ころみたいにしか、思ってないんだ。

「ずっと山崎を観察してた私が出した結論だもん。間違いない」
「……ずっと、って。たかが一週間だろう」
「あれ。なんで分かるの?」
「そりゃあ、俺があんたを見ていたからだよ」
「え?」

何かの聞き間違いだと思った。

ふと顔を上げた先に山崎がいて、いつの間にこんなに距離を詰められていたんだろうかと考える間もなく、山崎は言葉を続けた。

「あんたが俺を観察していたように、俺もあんたを見ていた。まるで自分が物語の傍観者であるかのように、一切足を踏み入れてこない、あんたを」
「……ありゃ、私ってば、何か目をつけられるようなことしたっけ?」
「きっかけは互いに同じだよ。俺はあの時、あんたの存在に気づいていた」
「うっそー」

きちんと息を潜めていたはずなのになぁ。

苦笑いしか浮かべられない私に対し、山崎はあくまでも淡々と口を開く。

「俺もあんたに興味が湧いた。だからこうして二人きりの補習なんて時間を設けたし、そもそも俺は、生徒に対して一人称を“俺”と言ったりしない」

あれれれ。
それって、もしや。

「私たち、両思いってこと?」
「アホか。その言い方はやめなさい」
「だってそうじゃんか」
「俺のことを新しいオモチャ程度にしか思っていないあんたの言うセリフじゃないな」
「……」

やっぱり鋭いなぁ、山崎ってば。

私たちはお互いを興味深い人物だと認識してる。
その点は、両思いだ。
でも、それだけ。

それ以上でも、それ以下でもない対象。

「山崎、大好き」

ここまで波長の合う人間は、我が親友を除いてこの世に山崎しかいない気がする。

満面の笑みで言った私を、山崎はその漆黒の瞳で見下ろしながら、フッと微笑む。

「残念。俺たちは両思いに見えて、事実、片思いだよ」
「フられちゃった?」
「いや。フッたのは俺じゃないさ」
「?」

首を傾げた私の額に指を当て、そのまま弾いた山崎は「次の補習は二日後な」と言って、今度こそ教室を出て行った。


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