05


午前中、授業をサボってまで惰眠を貪っていたためか、午後は驚くほど快調だった。

眠気もないし、いつものようにあまりぼんやりもしない。
これも桜木のおかげかなーと呑気に考えていたら、放課後の教室に彼が現れた。

菜嶋洸一だ。

「ゆーりちゃん。お迎えに来ちゃった」

ああ、そういえば、菜嶋のこともどうにかしないと。

深く考えずに成り行きで今朝まで過ごしていたけど、さすがにこの状態を続けるわけにもいかない。
交際の件については、相手の真意がどうであれ、お断りしなくちゃ。

「あの、洸一」
「んー?なぁに、ゆーりちゃん。あ、でもちょっと待ってね、先に確かめたいことがあるんだ」

菜嶋は身を乗り出して、鼻の先がくっついてしまう程の距離まで詰めてくる。

思わず後退りすると、机に足が当たってしまった。

「午前中の授業でさ、教室にゆーりちゃんいなかったらしいね。サボり?」
「えっと」
「何でも同じクラスの男……桜木だっけ?そいつもいなかったらしいじゃん。ひょっとして、二人は一緒だったとか?僕が話を聞いた子は、相手はあの桜木だからそんな訳ないって笑って否定してたけど、でもゆーりちゃんのことだもんね。分かんないよねー」
「……」
「桜木ってやつも、ゆーりちゃんの“花”?」

花?
既視感を覚える会話にその正体を探ろうとするのだけど、頬にキスされ、頭が真っ白になってしまった。

いつの間にか、お互いの腰が触れ合う距離。

「ゆーりちゃんはちょっと目を離すと、すぐこれだもん。桜木ってやつの蜜はどうだった?美味しかった?」
「……蜜?」
「僕、これでも怒ってるんだよー。ゆーりちゃんの浮気癖は今に始まったことじゃないから、覚悟はできてたんだけど、僕という存在がいるのに……やっぱり酷いよ」

悲しげに目を伏せる菜嶋に、何だかもの凄く自分が悪いことをしてしまった気分にさせられる。
浮気癖うんぬんなんて、完全に菜嶋の言いがかりでしかないのに……。

「ゆーりちゃん。約束して?もうどの花にも立ち寄らない、って。味見もダメ。僕のところにずっといてね」

どこか有無を言わさぬ雰囲気だった。

「……」

私はもうどうにでもなれ、と自暴自棄になって、首を縦に振る。
そうしないと、菜嶋が次にどんな行動をとるのか分かったものではなかったから。

「ふふ。ありがとう。大好きだよ、ゆーりちゃん」

昨日の私に告ぐ。
いくらぼんやりとしていたからって、告白くらいきっちり断りなさい、と。


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