06


「どういうことだ」

翌朝、菜嶋と手を繋いで登校した私を待っていたのは、鬼の形相にも勝る桜木の姿だった。

どういうことだ、と言われても、主語のないそれにどう返事をしたものか。

「ゆーりちゃん、こいつが桜木?」

隣で菜嶋が尋ねてくる。
うんと頷くと、ふぅんだなんて気のない言葉が返ってきた。

「僕のゆーりちゃんに何か用?」

菜嶋は真っ直ぐに桜木を見つめる。

おお、珍しい。
桜木は頭もいいから弁論で勝てる自信がないと、誰も楯突こうだなんて考えないのに。

というか、“僕の”って……。
確かに昨日、そういうことにはなったけどさ。
恥ずかしげもなく言い放つ菜嶋に、私の方が恥ずかしくなる。

「僕の、だと?」
「そうだよー。ね、ゆーりちゃん。僕たち相思相愛のラブラブカップルなんだもんねぇ。ゆーりちゃんは僕ので、僕はゆーりちゃんのなの!」
「……貴様、本気で言ってるのか?」

二人の雰囲気が、剣呑なものになる。
特に桜木だ。
なんでか知らないけど、かなりご立腹らしい。
何にそんなに怒ってるの?

「悠里。こっちへ来い。こんな男の蒙昧な発言に付き合う必要はない」
「え……」
「ちょっと待ってよ。人の彼女に手を出すの、やめてくんない?お前はお邪魔虫なの。分かりなよ!」
「あの……」
「出歯亀に言われたくないな。昨日、俺たちのことを隠れて見ていただろう」
「それの何が悪いの?浮気癖のある奔放な彼女を見守ってただけ。僕は寛容だから。ふらつき易いゆーりちゃんを、ある程度は自由にさせてあげてるの。でも、お前が膝を貸す以上の行為に走っていたら、僕は――」
「……」

えーっと、お二人さん?

ヒートアップする二人の口論に、私はついに口を挟めなくなった。

「僕は、なんだ」
「……お前のこと、殺しちゃうかも」
「……」

な、なんか危ない発言してない?
菜嶋ってば。

「ふざけるな。お前に何の権限があると言う。悠里は、俺の彼女だぞ」
「はあ!?」
「えっ?」

殺伐とした空気の中、桜木が突然、爆弾発言を投下してきた。

……彼女?
ちょっと待って。
誰が、誰の彼女だと言ったの、今。

思わずポカンとしてしまう私を尻目に、菜嶋は桜木のめちゃくちゃな発言を信じてしまったようで、こちらを振り返って「どういうこと!?」と喚く。

いや、えーっと。
私にも何がなんだか……。

「桜木、ひょっとして熱でもあったりする?」

頭が正常に動作してないんじゃないかと思い、私は桜木に体調を確認する。

「熱?今の俺は至って健康体だが」
「……」

あれー。
おかしいな。

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