02


翌朝になると、学校に向かうため家を出た私を、満面の笑みで菜嶋洸一が待ち構えていた。

「おはよう!ゆーりちゃん。朝からゆーりちゃんの顔が見れて、僕めちゃくちゃ幸せだよ!」

………どうやら、昨日の出来事は夢じゃなかったらしい。

未だ眠気から覚めない目を擦り再度確認してみるが、その嫌に整ったかんばせは見紛うことなく菜嶋洸一その人だ。
輝かしい笑顔を向けられ、喉まで出かけていたアクビが自然と引っ込んだ。

「えーっと……」

一体何と言えばいいのか分からず、言葉を紡ぐことができないでいる私に彼は言う。

「洸一って呼んで!ゆーりちゃんに名前で呼ばれるの、夢だったんだぁ。できれば呼び捨てがいいなっ」
「……洸一、あの、なんでここに」
「だって僕たち付き合うようになったんだから、朝、彼女を家まで迎えに行くのは彼氏の然るべきお役目でしょ?それにゆーりちゃん、朝が苦手って話してたじゃん。まだ寝てるんだったら、起こしてあげようと思って」
「……」

確かに朝は苦手だ。
でも、そんなことこの人に言ったっけな?

「ほら、ゆーりちゃん、手を出して」
「え。なに?」
「手を繋ごう?ゆーりちゃんはちょっとでも目を離すと、すぐにあっちこっちへ飛んでっちゃうから」
「飛んでっちゃうって……」

妙な言い回しをするものだと思ったけど、それ以前にまるで迷子になりやすい幼児のような扱いに、怒ればいいのか笑えばいいのか分からない。

なかなか手を差し出さない私に痺れを切らしたのか、菜嶋洸一は勝手に私の手をとり、指を絡めてきた。
俗に言う、恋人繋ぎだ。

「え、待っ」
「へへ。ゆーりちゃんの手は小さいねぇ。白くてスベスベしてて、気持ちいい。それに、やわらかい……食べちゃいたいくらい」

手を繋いだまま、手の甲を指で撫でるその動きに、背筋がぞわぞわした。
愛らしい彼の顔が、獲物を狙う猛禽類に重なって見えた。

食べちゃいたいって言った……よね、今。

「じゃ、行こっか」
「……」

けれど、次の瞬間にはふにゃりと笑顔になった彼に、私は何も言えなくなった。

まあ……いっか。
どういう意図か知らないけど、どうせすぐに飽きてくれるだろうし、ちょっと我慢すればいいだけだし……。

私は自分を襲ってくる眠気の余波に耐えきれず、そのまま考えることを放棄した。


| TOP | NOVEL |
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -