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花から花へ「きみのこと、好きになっちゃった。だから僕と付き合って?」
目の前には、そう言って笑う、クラスの女の子たちがよく噂している同級生の男の子。
女の子のように可愛らしく、けれどどこか男らしさの抜けていない端麗な容姿と、ふわふわした掴みどころのない性格は男女問わず多くの人間を惹き寄せる。
彼の姿は遠巻きに何度か見かけたことがあるけれど、いつも人に囲まれていた。
それこそ、別世界の人のようにキラキラしている存在で、間違っても私なんかと関わり合いを持つような人間ではない。
そんな、彼が。
私の目の前で膝を折り、誓いを立てるどこぞの騎士のように私の手を取って、私の目を真っ直ぐに見つめて。
聞き間違えでなければ、「好き」だと――「付き合って」と、告白紛いのことを口にした。
意外な組み合わせに、それも告白する側が“彼”だと言うこともあって、周囲はどよめきを隠せない様子だった。
対する私はどこか他人事のようにぼんやりしながら、目の前で繰り広げられるおもしろおかしな芝居を一人眺めていた。
“なんで、私を?”
などと夢見る余地もなく、ただ、ああこれは現実ではないんだと無意識に脳が判断したためだ。
白昼夢でも見ているのかなぁ、としか思えなかった。
「僕、一途だし、ゆーりちゃんのことすっごく大切にできる自信あるよ。だって大好きなんだもん。えへへ……じゃあ、誓いのキスしてもいーい?」
別次元から飛び出してきたような整った顔が寸前に迫り、ちゅっ、と。
軽いリップ音が鳴った時ですら、私が我に返ることはなかった。
あれ?
今、……?
キスをされたのだときちんと認識できたのは、彼に見送られ、家に帰ってしばらくしてからだった。
『ゆーりちゃんと付き合うことができて、ほんっとに僕嬉しい!!(≧▽≦)』
夕方、教えたはずのない私のアドレスに彼からメールが届き、そこでようやく私は気づいたのだ。
あれ?と。
―――私、蝶谷悠里は、かくして人気者の彼……菜嶋洸一と、いつの間にか付き合うことになっていた。