08



右の拳を握りしめ、フーッと息を吐く。

反応が見たかっただけ、だとぉ?
そんな実験的なものに付き合わされた私の身にもなってほしい。

私の、下着姿は、決して安くはない!

「〜〜っ、てぇ……!白波、おま、ふざけんなよ!」

力の限りのアッパーをお見舞いした私に、宇崎は顎を押さえて睨んでくる。

まさかグーで殴られるとは思っていなかったのか、避けることのできなかった宇崎は攻撃をモロに食らい、ふらついた。

ふん、自業自得だ。
ピアスくんは仕方がないとして、宇崎は私が着替え途中であると知りながら、堂々と保健室に入ってきた。
これを罪と言わずしてどうする。

「手加減しなかっただろ、今の!顎が外れるかと思ったわ」
「あのね、宇崎。体の傷はすぐに治るけど、心の傷はなかなか治らないんだよ」
「はぁ?別に、裸を見たわけじゃねぇんだし、減るもんじゃな……」
「私の宇崎に対する好感度が、大幅に減っちゃうんだよね。現在進行形で」
「……」

私だって女の子だ。
図々しいだの、神経が図太いだの言われるけど、羞恥心くらいはある。

私がわりと本気で怒っているのを察知したらしい宇崎は、ポリポリと後頭部をかいて、罰が悪そうに言った。

「……悪かったな」

と、言うか、見るからに不服そうな顔で。

宇崎がそういう人間だと知っている私はこれ以上怒る気にもなれず、おもむろに肩の力を抜いた。

「まあ、許す。明日、購買で売ってる数量限定のプリン買ってきてくれたらね」
「は、マジかよ……あの幻とも呼ばれるやつだろ?」
「いえーす、安いもんでしょ」

宇崎の腕をとって笑いかければ、花より団子、とぽつりとつぶやかれてしまった。
幻のプリンは偉大だぞ。
私なんて、入学してから今日まで、一度も食べられていないんだもん。

「それで、見たかったって言うピアスくんの反応はどうだったの?宇崎としては」
「あー、ま。及第点かな」
「……何の?」

及第点って。
いつものことながら、宇崎の発言は意味が分からない。

「ふ。お前は知らなくていーよ」

宇崎は私の頭をポンポンと叩いた。

なんで楽しそうなの?
今のどこに面白い要素があったのか、謎だ。

その時。

「―――オラァ!!」
「いつもの正義面はどうした、この偽善者どもがッ!」
「怒篭魂なんて、俺たち西高の足元にも及ばねーよ!調子に乗ってんじゃねえ!!」
「ひ、ひいっ!!やめてくれ!!」

鉄のようなものが転がった音と、何かが倒れた音。
それから穏やかではない人の怒鳴り声。

路地の奥から聞こえたそれらに、いち早く反応したのはやはり宇崎だった。

「白波!ここで待ってろ。良い子だから隠れてろよ」

無駄のない動きで、狭い路地を突き進んでゆく背中。

声や物音から察するに、怒篭魂の人が西高の不良たちに追い詰められているみたいだけど、宇崎は一切の躊躇いなく行ってしまった。

……怖くはないんだろうか。
もし、相手が大人数で、戦える人間が宇崎しかいなかった場合。
どうなるかなんて想像に容易いのに、それでも仲間を助けに行ってしまうんだ。
私には、とてもじゃないけど真似できない。

何だかんだ言って、宇崎も怒篭魂の人間なんだなぁ、と。
その背中に思い知らされた気がした。

「……」

さて、私はどうしよう。

宇崎には隠れていろと言われたけど、路地の奥がどうなっているのか気になって仕方がない。

宇崎は大丈夫なのかな。
怒篭魂の幹部である以上、それなりに喧嘩はできるんだろうけど、だからと言って安心できるわけじゃない。

もし何かあったら――。

私が行っても足手まといにしかならないことは重々承知してるものの、ジッとしていろと言われて、大人しく宇崎の帰りを待てるはずもなく。
私は足を踏み出した。

―――が、その瞬間。

「……っ!?」

後ろから伸びてきた手が、私を羽交い締めにした。



感想を書く    しおりを挟む   表紙へ










「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -