07




バイクに乗るのは、嫌いじゃない。

直に感じられる風。
安定しない乗り心地。

座席に仁王立ちして、大きく両手を広げたくなるから。
開放感に満ちたこの感覚が、私は好きだ。

意外に丁寧な宇崎の運転でやって来たのは、学校と同じ町内にある、繁華街だった。

お昼は夜とはまた違った顔を見せるそこだけど、今日は何故か夜の顔が少しだけ見え隠れしていた。

「白波、俺の傍を離れるなよ」
「あ、うん」

奥へと足を進める宇崎にぴったりつきながら、私は辺りを見回す。

……すごい光景だ。
制服から察するに、西高の生徒だろう男の子たちが何人か地面に倒れていた。

気を失っているのかピクリとも動かない人もいれば、痛みを堪えるように、体を丸めて呻いている人もいる。

トラブルって、西高の人たちと何かあったっていうこと?

「随分と派手にやってんな」

横たわる彼らを綺麗に避けて、悠然と歩く宇崎。
どうやらこういう状況には慣れているらしい。
流石は怒篭魂幹部様だ。
怒篭魂としての宇崎を見たことがなかったけど、今はその片鱗を垣間見た気がした。

それにしても……。

「大丈夫なのかな」

この人たちは。

「西高のやつらなんて、お前が気にするモンじゃねぇよ」
「でも、このままここに寝そべってたら、通行の邪魔じゃない?」
「……あー、そっちか」

苦笑する宇崎には悪いけど、西高の生徒の素行の悪さは有名な話なので、別に彼らの心配をしたりはしない。
むしろ、こうして公共の場を占領するのはいかがなものかと思うんだ。

「ま、直に仲間が迎えに来るんじゃねーの?捨て置こうぜ、面倒だし」
「うーん……」
「それより、総長たち探すぞ。面白いモノが見れるかもしんねぇし」
「面白いもの?」

なんだろう。

私が首を傾げている内に、宇崎はさっさと奥へと進んでいこうとするので、慌てて追いかける。

「あんまり怪我しないようにね」

倒れている人たちに向かって、そう言って。

「……お前、やっぱ変わってるよな」

宇崎には笑われてしまったけど。


物静かなアーケードを歩く途中。
不意に、宇崎が話し始めた。

「なぁ、白波」
「んー?」
「太一がさっき言ってたんだけどよ、俺、お前に体で誘惑されて、誑かされたらしいぜ?」
「ゆ……何それ」

そういえば、保健室に乗り込んできたピアスくんに対し、宇崎がそんなことを言っていたような……。

あの時は大して気にならなかったけど、今にして思えばとんでもない発言だ。
色気のいの字もない私に、どうしたら人を誘惑できるというのだろう。

「あれからしばらく経つが、お前が一向に傷ついていないのが不満なんだろうな、あいつ」
「いや、不満と言われましても……」
「俺がお前に手出ししないのは、お前に骨抜きにされたせいだと思ってる。あれはお前のこと、きっと男好きのアバズレ女だとでも勘違いしてるぜ」
「……」

アバズレ……。
本当のことでないにせよ、人からそう思われてしまうのはなんだかショックだ。

「太一は俺らの一つ年上で、あの見た目でも一応は先輩にあたる」
「えっ。そうなの?」
「そ。見えねぇだろ?未だ中学生に間違えられるもんだから、童顔と背の低さはあいつのコンプレックス。でもって、太一は筋金入りの女嫌いなんだよ。あの女以外は、あいつにとって害虫と一緒。可愛い顔をしてるが、ナメてかかると痛い目見るから注意しとけ」

ああ、うん。
忠告はありがたいけど残念ながら、痛い目はもうとっくに見てしまってるんだよね。

来栖嬢に嵌められたあの日、私はピアスくんによる暴行を受けた。
蹴られたお腹なんてお風呂で確認してみたら痣になっていたし、あの、女といえど一切の容赦ない攻撃は、最高に痛かった。
涙が出なかっただけ奇跡だ。

「じゃあ、なんでそんな要注意人物を保健室に入れたの?……それも、私の着替え中に」

室内に侵入してきたピアスくんを目にしたとき、一番に思ったことは“また殴られるかも”だった。
怯えた態度を見せたくなくて、おくびにも出さなかったけど、内心はやっぱり怖かった。
私は無防備な姿だったから、なおのこと。

「さっきも言った通り、あいつの反応が見たかっただけなんだよ、本当に」
「……」
「あいつがお前に危害を加えようとすれば、すぐに止めに入る準備はできてたし、お前に指一本触れさせるつもりもなかった」
「……なら、私怒ってもいいんだよね。

宇崎、歯を食いしばって?」


「は?」


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