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追い出したかった、“だけ”?

いや、たぶんそれは、“だけ”とは言わない気が……。

「つまり、宇崎は……」

来栖嬢のことがなかったにせよ、私が邪魔だったってこと?

この学校から消したいくらいに。

「……ま、そうだな。この言い方は語弊を生むかもしれないけどよ、とにかく俺は一方的な理由で、自己満足で、お前をここから遠く離れた場所へ追いやりたかった」
「私、宇崎に何かした?」

そこまで嫌われてしまうようなことをしただろうか、と来栖嬢の件を抜きにして考えてみるものの、思い当たる節はなく。
もしかしたら、無意識に宇崎の不興を買っていたのかもしれない。

そう思い、しょんぼりする私に、宇崎は「違う」と否定した。

「お前に非はない。だから厄介なんだっての。これは、俺の身勝手なエゴ」
「……エゴ」
「ん。子供じみた独占欲に駆られて、他人に掠め取られそうになってようやく、自分の馬鹿さ加減に我に返った、本当にどうしようもないヤローなんだよ俺は」

意味が、よく分からないけど。

どこか情けない表情を浮かべるその顔は、今の今まで一度も目にしたことがなくて、これ本当に宇崎?と疑いたくなってしまう。

「悪かったな。お前のこと無視して……。嫌がらせを受けてる現場に居合わせても、声すらかけてやらなかった。辛かっただろ?いくら神経の図太いお前といえど、あの陰湿な嫌がらせの嵐は流石に参るよな」

神経の図太いって。
一言、余計。

それにしても……。

「宇崎さ、頭でも打った?打ちどころ悪かったんじゃない?人格変わってるよ」
「おま……人が真面目に反省してんのに、言うに事欠いてそれか」
「だって宇崎じゃない」

私の知ってる宇崎は、どこか飄々としていて、こんな風に真面目な謝罪はしない。
ニヤリと口を三日月形にして、反省しているのかいないのか分からない態度で「悪かったな」と軽くのたまうのが常だ。

どこかで頭を強打してきたに違いない、きっと。

「お前は相変わらずだな」

呆れた様子の宇崎の言葉は、褒め言葉として受け取っておこう。

「でもマジな話……形としては、俺、お前を見捨てたようなもんだろ?今更、どの面下げてって思われても仕方ないと思ってる。
……柄にもなく、今すっげー不安なんだよ。お前はそうやって、なんでもないような顔をして俺を受け入れてくれているように見せて、心の中では違うんじゃないかってよ。俺なんか嫌いになったんじゃないかと。
なあ、本当に身勝手かもしれないけど、俺にもう一度チャンスをくれよ。もう絶対にお前を裏切らない、だから……」

だから。

「宇崎がそうやってへりくだるの、やっぱ似合わないよ」
「……」

どうしたって、違和感が拭えない。
顎の下がムズムズするんだもん。

「宇崎はさ、来栖嬢のことが好きだったんじゃないの?」
「はぁ?俺が?……なんで」
「そんな嫌そうな顔しないでよ。噂で聞いただけ。怒篭魂の幹部の人は、来栖嬢を溺愛してるって」

でもこの分じゃ、あの噂はでまかせっぽいなぁ。
少なくとも宇崎はそうだ。
来栖嬢を好きな素振りがまったく見られない。

「ほら、宇崎と初めてしゃべった日、来栖嬢のこと目で追ってたでしょ?それで彼女のこと好きなのかなって」
「ああ……そういやお前、変な勘違いしてたな」
「あ、やっぱり勘違いなんだ?なぁんだ」

ただのはやとちりか。
そう安堵の息をもらす私に、宇崎は探るような目つきで問う。

「……。安心でもしたのかよ?」

そりゃあ、当然。

「うん」
「!」

宇崎があんな子を好きじゃなくて。
心底、良かったと思ってる。

「おま……っ、クソ!分かってるよ、どうせ他意はねーんだろ!」
「え?」

いきなり手で顔を覆い隠し、叫び出した宇崎。
言ってることが理解できないので聞き返せば、なんでもないと言われてしまう。

な、なんだ……。
ご乱心?

「あー、一人で盛り上がってバカみてぇ。恥ずかしい」

そのままうずくまってしまうので、私はそっと宇崎の肩に手を乗せた。

「……やっぱりさ。どっかで頭打ってきたんじゃないの?」
「お前ホントひでぇな」

病院行く?の言葉は流石に飲み込んだ。




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