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「……ごめん」
「はあ。今度は何に謝ってるんだよ。俺の言ってる意味、半分も理解してないくせに」
「え〜っと、うん、まあ……ごめん」
「バカ」

もう一度謝ったら、宇崎に深いため息をつかれてしまった。

あれ。
いつの間にか、いつもの宇崎に戻ってる。

「それで。祥吾のことは?どう思ってんだよ」
「え……良い先輩だと思うけど」
「はあ?あんなこっ酷くフラれてもまだ、好きなのかよ」
「……いや、そうじゃなくて。ねえ、宇崎。いい加減そこから離れてよ。良い先輩だとは思うけど、誰も異性として好きだとは言ってないよ」

ついでに、未だ密着したままのこの体勢もどうにかしてほしい。

軽く宇崎の胸板を押してみるが、ビクともしない。
なんて頑丈な……。

「ハ。じゃあ何でさっき、傷ついた表情をしてた?」
「それは……」
「泣きそうな顔してただろ」

宇崎が私の目尻を親指でそっと撫でた。

……泣きそうな顔。
そんな顔してたのか、私。

それは、たぶん―――

「宇崎のこと、重ねてたからかも」

今度は宇崎が固まる番だった。

「俺?」
「うん。あのね宇崎、ここではっきりさせたい。私は来栖嬢に危害を加えていないし、加えるつもりもなかった。私と彼女の言葉、どちらを信じてる?」

言うまでもないかもしれないけど。
もしも、宇崎が来栖嬢を信じてると言った場合、私は潔くこの学校を去ろう。

お母さんかお父さんに連絡して手続を踏んでもらって、お兄ちゃんに知らせるのは事後報告でいい。
きっと色々とうるさいだろうから。

あーあ……。
結局、友達の一人もできなったな、私。

新しい学校では、もう少し空気の読める子になりたいなあ。

「そんなの、最初から決まってんだろ」

私をまっすぐ見つめる宇崎の目に誤魔化しはなくて、そっか、とか細い声で頷くしかなかった。

どこまでもあの子には敵わない。

宇崎は来栖嬢を―――…

「俺はずっと、お前の言葉しか信じてないぜ?」

………。
え?
今、宇崎はなんて?

「うそ……」

聞き間違いでなければ、“お前”って。
確かにそう言った。

私なの?
来栖嬢じゃなくて?

……どうして。

宇崎の言葉は私を喜ばせるには十分だったけど、いまいち信じられなくて、疑問をそのまま口にしてしまった。

「どうして私なの?みんな、来栖嬢の言葉を信じてるのに……」

宇崎は何がおかしかったのか、ふは、と笑う。

「バカじゃねーの。お前が誰かに危害を加えようとする人間じゃないことくらい、知ってるっつーの」
「宇崎……」
「お前は他人にそこまでの激情を抱かないからな。自分以外の人間に、大した興味も持たない。いわゆる無関心ってやつ」

……なんだ、その言い草は。

最初のセリフに感動を覚えた私の心が、虚しいじゃないか。

「でも、だったらどうして、私を無視したり避けたりしてたの?」

てっきり、宇崎も他の人と同じように来栖嬢の嘘を鵜呑みにしてて、私を避けているのかと思ってたけど。
それが違うのなら、宇崎のあの行動の意味は何なのだろう。


「俺は、お前を、この学校から追い出したかっただけ」


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