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「あんたそれ、騙されてんねんで」

「え?」

………びっくりした。

と言うのが、彼の第一印象だった。


まず、学校帰り、一人寂しく帰宅の途についていると、駅を出てすぐに見知らぬおじさんに話しかけられた。
なんでも遠方からはるばる足を運んだはいいが、肝心の友人の自宅がどこにあるか詳細が分からず、道を教えてほしいとのこと。

場所は繁華街近く。
歩いていけない距離ではないものの、少し遠い。

「う〜ん、ここから徒歩だと、時間がかかっちゃいますけど……」

せっかく駅が近いのだから、タクシーに乗って行った方が早い気がする。

そう言うと、おじさんは何故か頑なに首を横に振った。

やれ所持金が少ないだの、やれ歩いて道を覚えたいだの……。
あまりにもタクシーに乗るのを嫌がるので、仕方がないか、とおじさんを案内しようとしたところで。

見知らぬ第三者が、口を挟んできた。

それも、騙されてる、と。

割り込んできたのは私と同い年くらいの男の子で、サイドを刈り上げた、いかにも今時の若者らしい髪型をしていた。
若者らしい……なんて考え方がおばちゃん寄りだけど。
流行についていけない私は、若干時代遅れな自覚がある。

「な、なんだ、きみは!」

そんなことを考えていると、おじさんが妙にうろたえながら男の子に問いかけていた。

男の子はおじさんを値踏みするように見て、

「だからぁ、騙されてる言うてるやろ、あんた。あんたに言ってんねんで」

真っ直ぐに私を射抜いた。

……関西弁?
地元の人じゃないのかな。

「どういうこと?」

何が「騙されてる」のかてんで分からない私は、首を傾げつつも刈り上げくんに説明を求める。
あんた、あんたと連呼されても、分からないものは分からない。

「アホちゃうん。よう見れば分かることやろ。そのオッサン、あんたを人気のないところに連れて行くんが目的やで」
「えっ」
「ひ、人聞きの悪い!私はただ、道案内をだな――」

おじさんが釈明の言葉を口にしているけど、反射的に私はおじさんから距離をとってしまった。

いや、だって。
ついと言いますか……。

「まず第一に、オッサン遠いところからやって来た言うてたやろ?にも関わらず、手荷物の一つもないなんておかしな話やと思わへん?」
「そっ、それはだな!」
「第二に、こんだけぎょうさん人が往来する駅の近くで、制服を来た若い女の子に道案内を依頼する……もう決定打や。道案内ってのは詳しそうな人物に頼るのが筋であって、よほど人のいない場所でない限り、未成年、それもこんな子にお願いするのは自分がクロや言うとるようなもんやで」
「ぐ……っ」

なるほど。
納得できなくはない。
刈り上げくんの言葉は、確かに道理に適ってるのだから。

おまけに、ぐうの音もでないおじさんの様子が、ますます信憑性を高めている。

「たとえ、俺の言っとることがただの難癖やとしても。――社会人なら、誤解を招くような言動は避けた方がええんちゃう?」

それが最後のダメ押しとなったのか。
おじさんは悔しそうに、足早に去っていった。



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