13




怒篭魂に指定された期間は三日。
その間、私には三つの選択肢が与えられる。

一つ目。
怒篭魂に言われた通り、この学校を出て行くか。

二つ目。
冤罪であることを証明し、怒篭魂や来栖嬢と和解するか。

三つ目。
……私は何も悪いことをしてないのだからと、自己主張を貫いて学校に残り、怒篭魂の標的になるか。

まず不可能だと思しき選択は、二つ目だ。
怒篭魂に信頼されている来栖嬢の嘘を暴くのは一筋縄ではいかないだろうし、仮に彼女の虚構を証明できたとして、怒篭魂が私へ害を与えないことが約束されるわけではない。

続いて三つ目の選択。
これは考えるまでもなく却下だ。
私は怖い目にも、痛い目にも遭いたくない。

ならば残されたのは……。

怒篭魂の忠告通り、学校を出て行く選択肢だけ。

おそらく、両親に言えば一も二もなく転校の手筈を整えてくれるだろう。
問題はお兄ちゃんだ。
転校したいなんて相談した日には、どんな反応が返ってくるやら。

真面目な兄のことだからきっと、そうなった原因を究明し、問題を解決するための方向に持っていくような気がする。

よって、滞りなく学校を出て行くためには、お兄ちゃんに内緒で事を運ばなければならない。
私の秘密をなんでも暴いてしまう兄相手に……至難の技だ。

針のむしろでしかなかった学校から帰宅した私はさっそく、兄が留守の間に両親に転校の話をすることにした。
もちろん来栖嬢や怒篭魂のことは話さない。
余計な心配をかけたくないのだ。

「お母さん、いる?」

居間、台所、縁側、庭――と母がいそうな場所を見て回ったが、どこにも姿はなく。

「出かけてるのかな……」

母や父が朝昼晩と時間や曜日を問わず家を空けていることは珍しくもないので、私はそう結論付けた。

……仕方がない。
母か父のどちらかが帰ってくるまで、縁側で時間を潰そう。

確か、戸棚の奥にくず餅があったはず。


「――い、起きろ。ちぃ、こんなところで寝るなよ。風邪引くだろ」

次に私の意識が覚醒したのは、太陽が半分地平線に沈んだ頃だった。

聞き慣れた声に揺さぶられ、ゆっくりとまぶたを開ける。

「あれ、お兄ちゃん……」

無造作にあちこち跳ねた髪。
従来の年齢より若く見える顔。

私とは似ても似つかないけど、そこにいたのは確かに私の兄だった。

どうやら私は、いつの間にか縁側で惰眠を貪っていたらしい。

「帰ったの?お母さんは?」
「母さんも父さんも一週間は帰らないってよ。仕事が立て込んでるらしい」
「えぇ〜」

嘘。
お母さんもお父さんも、帰ってこないなんて……。
転校の話はどうすればいいの。

「……?なんか用事でもあったのか?父さんたちが家にいないことなんて、俺たちにとってはもはや日常茶飯事だろ?」
「そうだけど……あー、どうしよう」
「困り事か?どれ、お兄ちゃんに言ってみ。解決してやるぞ」

薄手の私に自分の着ていたパーカーを被せ、お兄ちゃんは言う。

うーん。
お兄ちゃんに話すと面倒なことになるから、できるだけ話したくないんだよなぁ。

「なんでもない」
「なんでもなくはないだろ」
「お兄ちゃんには言いたくない〜」
「あ、言ったなコラ。今日の夜ご飯、トマトサラダを作るぞ」
「げえー」

トマトサラダも、お兄ちゃんに話すのも、どっちも嫌だった私は逃亡した。

その日の夕食には、本当にトマトサラダが出てきた。

……妹いじめだ。



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