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「どうして電話くれなかったの〜?ずっと待っていたのに」

チャラ男は私の肩に腕を回し、まるでお客相手に物をねだるキャバ嬢のような仕草でそう言った。


朝、登校した私がまずしなければならないことは、何者かの手によって行方不明になった上靴の捜索だった。
下駄箱にきちんとしまっておいた上靴が、ひとりでにいなくなるはずもなく。
故意か過失か分からないけれど、この学校の誰かによるものだというのは間違いない。

嫌がらせかな。
嫌がらせなんだろうなぁ……、たぶん。

そして職員室に行って貸してもらったスリッパを履き、上靴を探すため校舎を闊歩していたとき、ちょうどチャラ男に出くわしたのだ。

「寂しかったよぉ。いつまで経ってもかかってこないし。遠慮なんてしなくていいんだからね〜?」
「……すみません。私、携帯持ってなくて」
「え?携帯持ってないの!?」
「はい」

今時なんて時代遅れな、と言いたげなチャラ男の顔。
こればかりは私も同意見だ。

けど、どうしてもお兄ちゃんが持たせてくれないんだよなあ。
機械音痴のお前には使いこなせられないだろ、って。

まさしくその通りなんだけどさ。

「そ、そっかぁ〜!じゃあ、仕方ないよね」
「はい」

チャラ男が私の肩を離した。

あ、良かった。
そろそろ解放してくれるのだろうか。
早く上靴、探しに行きたいんだよね。

「空音ちゃん、今から時間ある?」
「ないです」
「……か、間髪入れない返事だねぇ。もう少し考えてくれてもよくない?」
「でも、本当にないんで」
「……」

あ。しまった。
ついつい無碍に扱いすぎたかもしれない。
相手はあの怒篭魂の幹部なのに……。

なんとなくだけど、チャラ男の雰囲気というか空気が苛立ちの混じったものになったように感じ、私はこの後どう取り繕えばと逡巡する。

「きみの力になりたいんだよ」
「え?」

悩む私に、今度は手を握って顔を近づけてくるチャラ男。

「えーっと?」

顔、近すぎじゃ?

「俺を頼ってほしいなぁ。きみの話だったらなんでも聞くし、相談にも乗るよ?力だって貸すし……」

ならまず、この至近距離をどうにかしてほしいんだけど。
こんなに近づいて話す意味がわからない。

私はやんわりと両手でチャラ男を押し返しつつ、気になった単語を聞き返す。

「力?」
「そう。だって俺、実はきみに一目惚れし――」

力を貸してくれるってことは。
もしかして……。

「じゃあ、一緒に上靴探してくれるの?」

こういうことを頼んでもいいのだろうか。

「…………え?」

上靴?とチャラ男は笑顔のまま固まった。

「うん、上靴。たぶん校内のどこかにあると思うんだけど……あ、思うんです」
「敬語は別になくてもいいよ。それより、なんで上靴?ていうか俺の話聞いてた?」
「大丈夫、ちゃんと聞いてたよ。良かったあー。敬語とか苦手なんだよね。すぐボロが出ちゃうから」
「……本当に聞いてた?」

聞いてるよ、としつこいチャラ男に私は返事をする。

この人の性格はあまり好きになれないけど、頼ってほしいという言葉は素直に嬉しかったりする。
だって私、友達いないし。
そんなことを言ってくれる人なんて、家族以外には見当たりそうもないから……。

「うーん、まあ、いっかぁ。分かったよ、きみの上靴探しを手伝ってあげる」
「ありがとう。お願いしていいかな。私は南校舎から探してくから、先輩は北校舎の方を頼むね」
「え。……一緒に探さないわけぇ?」
「?効率悪いでしょ、それ」

二手に別れた方が時間を短縮できるのに。
一緒に探すくらいなら、別にチャラ男に手伝いを頼んだりしないってば。

「上靴にはちゃんと名前が書いてあるから、たぶん分かると思うけど」
「……高校生にもなって名前入りって……」
「もし見つけたら、私を呼んでほしい」
「う〜ん」
「じゃあ、またね」

時間も惜しいのでさっさと先輩に別れを告げ、南校舎に向かう。

そういえば連絡手段がないけど……まあ、いっか。
どうにかなるだろう。

上靴よ、早く出てこい。



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