翌日、私は学校を休んだ。

お義母さんが推奨した……というか、私の意見も聞かず勝手に学校に連絡を入れてしまったのだ。私が知ったのは事後報告からであり、加えて二つ返事しか認められなかった。もともとこの家において、私に発言権なんてない。
たとえ風邪を引いたとしても休ませてくれないようなお義母さんが何故、今日に限って学校に行かせまいとするのか。理由は考えるまでもなかった。
昨夜に叩かれた私の頬が、赤く腫れてしまっているから。
お義母さんはこれを他人に見せまいとしているのだ。片頬だけ腫れているというのは、誰かに殴られた事実を歴然と物語っていた。こんな重大な証拠を持って、私がお義母さんに暴力を振るわれたのだと第三者に口を滑らせないか心配している。

相も変わらず、自分の保身ばかり……。

そこまで考えて、私はハッとした。
なんてことを。今までお義母さんを悪く思ったことなど一度もなかったのに。すべては自業自得であり、他人を責めるなんてお門違いだと、今まではそう思っていたはずだ。

「……」

少し、感化されてしまったのかもしれない。先輩たちがあまりにも自由だから、私は私という立場を忘れてしまっていた。
こんな感情を持ってはいけない。危険だ。

もう、先輩たちには関わらない方がいいのかもしれない――…。

私が私であるために。



夕方になると、頬の腫れも大分収まってきた。
鏡の前でホッと息をつく。これで、家から出てはいけないという義母のお触れに従わなくてもいい。
私は夜ご飯を買いに出かけたかった。現在、養父は昨夜から遠方に出張中。義母の方はお昼前に出て行ったきり、姿を見せない。きっと、明日の朝方まで戻ってくることはないだろう。
食べられる物であれば何だって構わないと思っていたので、家にある材料でサクッと夕飯を作ってしまおうと考えていたが、なにぶんその材料が存在しなかった。
冷蔵庫の中も、ほとんどが空。インスタント食品もない。この状態のまま家に私を残していったということは、お義母さんからの罰に違いなかった。だって朝、家の外には出るなとあれだけしつこく言ってきたのだ。計算高い義母が考えなしに私を今の状況に嵌めたというのはどうしても納得できない。間違いなく、すべてを承知の上でだ。

でも……。頬の腫れが引いた今なら、近くのコンビニに行くくらいなら大丈夫だろう。もともと義母が今日一日私を外に出させようとしなかったのは、その所為なのだから。
私は鞄の中をまさぐり、財布を探した。
確か千円くらいは入っていたはずだ。それだけあれば、おにぎりも余裕で買える。

しかし、いくら探しても財布が見つかることはなかった。部屋中をくまなく探しても、どこにもない。
そこで私はあることを思い出す。

―――そうだ。そういえば、私の財布は由貴先輩が持ったまま……。

すっかり失念していた。どうしようか。
ぐぅぅ、とお腹の虫が空腹を訴えてくる。

お金がなければ何も買えない。今日はこのまま夕飯抜きかぁ……なんて途方に暮れていた時、ちょうどインターホンが鳴った。
お義母さんが帰ってきたのだろうか。てっきり、いつものように朝帰りだと思ってたけど……。

通話ボタンを押して、「はい」と答える。返事はなかった。

「……イタズラかな」

インターホンの画面にも誰の姿も映っていなかったため、そう決めつけ、念のため玄関に向かった。
一応、ドアスコープを覗いてみる。しかしやはり誰もいなかったので、私はダイニングの方に戻った。

と、そこで再び鳴ったチャイム。

画面に映っていたのは、意外な人物であった。






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