「それで、結局どうして私や隆太のことを知ってたんですか?」

私の言葉越しにチャイムが鳴ってしまったけど、この際開き直ってサボることにしよう。今から教室へ行ったって怒られるものは怒られるのだから、どうせならこの機会に先輩たちに色々問いただしてしまえばいい。
私や隆太を知っていた理由、由貴先輩にここに連れてこられた訳。判然としないままは如何なものか。

「ただの偶然だよ」

あっけらかんと言ってのけたのは由貴先輩だ。

偶然にしてはできすぎてる、と思う私はよっぽどか推理小説みたいな辻褄合わせをしたいらしい。簡単には納得できなかった。
けれどそれ以上追求するなという由貴先輩のオーラに負け、仕方なく別の質問をする。

「……私をここに連れてきたのは、どうしてですか?」
「理由なんて何でもいいでしょ」
「知りたいんです。その、皆さんのこと……」

過去を話したから同じように教えてくれとは言わないけど、彼らのことを少しでも多く知れたらな。そんな風に思うのはいけないことだろうか。
………いくらなんでも、欲張り過ぎ?

「うざかったから。以上」

由貴先輩は簡潔に答える。
うざかったから……そうか、そんなに私がうざかったのか。ショックだ。彼らとこうしていられるのは私のうざさがきっかけだなんて、喜んでいいのか分からない。

「ごめんなさ……」
「謝んないでよ。あんたの謝罪って乱発しすぎて軽いものに聞こえる」
「え、すみま……じゃなくて、こういう場合はなんて言ったらいいんでしょうか」
「知らない。てか俺に聞かないで」

あらら。
先程の頭を撫でてくれていた優しい由貴先輩はどこへ。理想のお兄ちゃんが消えてしまった。
頭にあった温もりを名残惜しく思う私を尻目に、ソファに横になってどこからか取り出した本を読み出す先輩。末次先輩の「ゲームしないのー?」の問いにも「しない」と返している。
完全に話はしないよ態勢だ。これ以上の言及は諦めろってことかな。

ちょいちょい、と末次先輩が手招きした。
何だろうと思いつつ先輩のもとにしゃがみ込む。

「どうかしましたか?先輩」

すると、末次先輩はニタァとこれまた嫌な笑みを浮かべた。

「マッキーだけ名前でってずるいよね!」

末次先輩がキラキラな瞳を向けてくる。
きっとこれは、例の「みなくん」呼びを期待している瞳だ。

「……みなくん先輩」
「えー?先輩?」
「みなくん、先輩」

けれど、先輩の呼称だけは絶対に譲れない。これでも譲歩している方だ。普通だったら先輩を名前で呼ぶことなんてまずあり得ないから。

「うーん。先輩が邪魔だけど、いっか。これからそう呼ばなきゃお仕置きだからね」

お仕置きって何ですか。
末次先輩……じゃなくて、みなくん先輩が口にするとどうしてもエロい方向にしか想像力が働かない。
しかしみなくん先輩は呼びにくいな。語呂が悪いというか、言い慣れない。「くん」に更に「先輩」だよ?自分で言っておきながらなかなかセンスがないなと落胆した。

この分だと森本先輩も何か要求があるのかなと横目でそっと見遣ると、私の視線に気づいたのか彼は苦笑した。

「いや、俺のことはなんて呼んでくれても構わない」

大人だ。大人がいらっしゃる。
そうだよね、自分の特定の呼び名を強要する人の方が珍しいよね。森本先輩の反応こそ普通なのだ。
というわけで、厚かましくも森本先輩呼びを続行させていただこう。

結局、それから三限目が始まるまで私は先輩たちと遊んでいた。






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