合否
「はぁ〜」
何もやる気が起きない。
あの散々だった実技試験を思い返しては、満足いく結果を得られなかった自分に落胆する。
家のソファの上で脱力している強子を見て、父が困ったように笑みを浮かべた。
「もう過ぎちゃったことは仕方ないよ。もしヒーロー科がだめでも、普通科で頑張ればいいじゃないか。他の科からの編入もできるんだろう?」
「あー、うん。そうだけど・・・そうなんだけどさ・・・」
「父さんは、強子なら立派なヒーローになれるって信じてるよ」
心からそう言ってくれる父をちらりと見ると、ソファからむくりと起き上がった。
「・・・ポスト、見てくるね」
「ああ、いってらっしゃい」
もう何度目になるかわからないけれど、雄英からの合否通知が来ていないか確認するため、郵便ポストへと足を進める。
自分はとても恵まれている人間だ、と改めて思う。
自分自身のスペックもだが、まわりを取り巻く環境にも恵まれている。
両親は二人とも優しくて、強子に惜しみなく愛情を注いでくれる。そして強子の「ヒーローになる」という夢を、心から応援してくれていた。
学校の友人たちにも恵まれた。友人たちは心から強子を慕い、雄英に合格して、プロヒーローになることを信じてくれている。
けれど、両親や友人たち。彼らからのその期待に応えられるかというと、今は・・・自信がない。
これまで努力して積み上げてきたものは、いとも容易く、崩れおちてしまったから。
いや、他者によって踏みにじられたのだ。
正直まだ結果を知りたくないだなんて、家の郵便ポストを開けながら、この期に及んで逃げ腰だ。
「って・・・来てる!合否通知きてるよ!!」
雄英高校から届いた封筒をもって、慌てて部屋に駆け込む。
祈りながら、震える手で封筒の中身をあけた。
『私が投影された!!』
「おおお、オールマイトぉ!!」
感動が沸き上がり、強子の身体がふるりと震えた。
最高にかっこいい、憧れのヒーローだ。
映像越しでも、本物のオールマイトが強子に向けて話しかけている。そんなの、十分すぎるほどにアガるだろう。
『HAHAHA!なぜ私が投影されたかって!?それはね、この春から私が雄英に勤めることになったからさ!』
知ってました!
でもそれより今は、早く、早く・・・合否を教えてくださいっ!
『え、なに、巻きで?これが最後なんだし、少しくらい・・・オーケーわかったよ!それじゃ早速、試験の結果を伝えちゃうよ!?』
「うう・・・南無三!」
『筆記は問題なし!実技については、敵ポイントが33ポイント・・・ンンン、君の個性なら、もっとポイント取れたと思うんだけどね』
オールマイトがさらりと吐いた言葉が、ぐさりと胸に突き刺さる。
優良個性を授かったのに扱いきれていない、強子の力不足だと、そう指摘されたようで。
『それからもう一つの審査基準、救助活動ポイント・・・君は11ポイントさ!あの切羽詰まった状況でも、君はよくまわりを見ていたよ!』
アメコミ風の画風で力強くサムズアップしながら、オールマイトが言う。
彼の言葉にハッと気づかされる。
爆豪の妨害に苛つきながら、時間の経過に焦りながら、それでも強子が近くにいる人達へ、地味に気をかけていたのは確かだった。
爆破されて倒れてくる仮想敵のボディの下敷きになりそうな他の受験生を救けたり。
爆破されて飛んできた仮想敵のパーツを、他の受験生に当たらないように軌道をそらしたり。
・・・元凶がほぼ爆豪であることに憤りを感じるが、まあ今は置いておくとして。
強子にできたことは“救助活動”というにはおこがましいくらい、ささやかな救けだったかもしれない。けれど、そこを見ていて、ちゃんと評価してくれる人がいることに、心がじんわりと温かくなった。
ポイントとしてはたったの11ポイント。だけど、自分の中にある、小さなヒーロー性を見染められたような、そんな錯覚に陥った。
『今年は優秀な有精卵が多くてね!あの大勢の受験者から選ぶのが僅か36人とは、非常に心苦しい選択を強いられたよ・・・』
困ったようにおでこに手をあて、首を横にふっているオールマイト。
いよいよ、強子の合否判定が伝えられるようだ。
『実技試験において、合格と判定された上位36人の総合ポイントは“45”以上』
「・・・えっ」
強子の敵ポイントと救助ポイント、あわせて44だ。つまり強子は―――
『君は、不合格だ』
オールマイトの言葉に、グッと奥歯を噛みしめる。
わかっていた。あの戦績で、合格なんてできるはずがない。
『・・・って、そう思うよね!?』
「・・・・・・え?」
『そりゃそうさ!だって上位36位に届いてないんだもの!でもね、身能少女!』
ビシッと指をさされて、映像越しなのに気圧される感覚を覚え、強子は無意識に背筋を伸ばした。
『君は、筆記試験には余裕をもって合格していた!あの難易度でよく頑張ったね!それに、例年の合格者は、実技で平均44〜49ポイント。例年どおりなら君も合格圏内ってわけだ!ついでに言うと、今回、君の次の順位の子は40ポイントにも満たなかったこともあり・・・君の合否については教師陣もおおいに悩んだ』
例年だったら合格圏内。それは吉報だ。
でも今年の合格圏内に入るには、結局1ポイント足りてないのだ。
しかし―――あるのか?あるのだろうか!?
この難局を覆すような、どんでん返し、あるか!?
『何よりも、君のその個性!ヒーローとして将来有望だと、我々は満場一致で判断した!よって―――君を“補欠合格”とした!!』
「・・・補欠ッ、合格!!」
“合格”というワードで喜びかけたが、補欠合格ということは、欠員が出ないかぎり“不合格”と変わりない。
しかし、雄英を蹴るような受験生・・・欠員なんて、いないのではないか?
『ま、欠員なんて出なかったんだけどね・・・』
「ほら、やっぱりー!」
補欠合格になったところで、欠員が出ないのなら、不合格だ。
じわりと強子の瞳に涙の膜が覆うが、画面上のオールマイトはまだ言葉を続けた。
『それでも、私は君をみて、君を“欲しい”と思った!』
「!」
『本年度の新入生として、身能少女の存在が“必要”だと感じた!』
なんだこれ、何だこれ!?
こんな嬉しいことがあっていいのだろうか。
こんなご都合な奇跡があっていいのだろうか。
『だから、校長先生に無理を言って、君を合格にしてもらったのさ!!』
「おおお、オールマイトぉ!!」
『HAHAHAHA!合格おめでとう!』
強子の瞳からは、もうドバドバと滝のように涙があふれ出ていた。
まず一つ、夢がかなった。雄英高校に通って、級友たちと切磋琢磨しながら青春を謳歌するという夢。
物心ついた頃から、いや・・・それこそ、生まれる前から切望していた夢だ。
『来いよ、身能少女!』
強子はごしごしと涙を袖で拭ってから、彼の力強い誘いに一つ頷いた。
『雄英(ここ)が君のヒーローアカデミアだ!』
はじめての経験や感情を少しずつ重ね、強子の人生が変わっていく。
そして、夢の高校生活が始まる!!
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やっぱりヒロアカの世界にいたら、ヒーローになりたいよね。そして雄英高校に通いたいよね!って話。
ちなみに夢主ちゃんは優秀な子です。そして誰からも愛されるよう振る舞うので、スクールカーストの頂点に君臨していた勝ち組です。私も来世はそうありたい。
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[mokuji]
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