毎年300を超える倍率の正体。一般入試定員36名。18人ずつで2クラスしかない。


「(例年は、ね・・・)」


強子が1−Aの教室に入ると、その教室には“21人分”の座席が用意されていた。今年のこのクラスは“例年”よりも、一人分だけ用意された座席が多い。それは、強子という異例の合格者の存在による。
教室には既にそれなりに人がいて、ほとんどの席が埋まっていた。みんな早いな。
感心しながらも、これからクラスメイトとなる“彼ら”をその眼に焼き付けようと、教室内をぐるりと見回した。
すると、


「・・・あ?」

「うわぁ、」


机に足をかけて座っている、エラそうな態度の爆豪が目に入り、思わず顔を顰めてしまった。
彼は強子に気付くと、完全に人を見下す笑みを向けてきた。


「んだよ、てめぇ程度の実力でも受かったんか」

「・・・おかげさまで」

「ま、受かったところで、実力の伴わない奴はすぐ淘汰されんだろ。端役は端役らしく、端っこであがいてろや。間違ってももう俺の前に立つんじゃねーぞ、雑魚が。そん時ゃ今度こそ徹底的にてめーを捻りつぶしてやるわ」


一方的にそれだけ言うと満足したのか、彼は強子から視線を外して、もうこちらを見ようともしない。
こいつ、普通に性格クソなんですけど。
むかむかと胃がもたれるような感覚に、つい眉間に皺が寄る。
虫酸が走るのを堪えるように、己の拳を強く握りしめる。


「(だめだ、堪えろ。落ち着け、ビークールだ私・・・!)」


入学初日から教室で騒ぎ立てるなんて、言語道断だ。そんな理性のない、馬鹿なマネするわけにはいかない。
ここは自分が大人になって(もう人生2周目だし)、爆豪のクソむかつく態度には目を瞑るんだ。そう、目を、瞑って―――


「あのさぁ・・・」


―――この男の態度に目を瞑っていられる余裕など、強子にはなかった。

あえて爆豪の正面、彼の“前”に立つと、ドンッと鈍い音をたてて爆豪の机に手のひらを叩きつける。
個性を使ったので、女子の力というより、力士の張り手くらいの威力があるはずだ。
その衝撃に机の位置がずれ、爆豪が机にかけていた足がカクリとずり落ちた。


「・・・ッアア!?」


目の前の爆豪は、今にも噛みつきそうな恐ろしい顔つきで立ち上がると、前のめりになって強子にガンとばしてくる。


「っにしやがんだテメェ!!」


いわゆるガンギレ状態である。
そんな爆豪へ、強子は先ほどから燻ぶらせっぱなしの怒りの感情をぶつけるよう、言葉をぶつける。


「君のそういう他人を貶めるような態度、感心しないなと思って。気を付けた方がいいよ?」

「んだとコラ!!」

「他人を見下すばかりで、そうやってあぐらをかいてると・・・そのうち、道端の石っころにでも躓いて恥をかくんじゃない?」


煽るように、にっこりと笑みを携えて言う。
次の瞬間には、強子の胸ぐらを爆豪に掴まれていた。


「君たち!そこまでにしたまえっ!!」


突如、強子と爆豪の間に割って入ってきた存在に、二人とも目を見開いた。


「先ほどから見ていれば・・・入学初日だというのに、始業前から喧嘩だなんて!君たちは雄英の品位を下げるつもりか!?まだ初日とはいえ、いや初日だからこそっ、雄英生としての自覚をもって行動すべきだと思わないのか!?」


堅物メガネ、その正体は飯田天哉であった。
その真面目っぷりは尊敬に値すると思うが、如何せん説教の対象が自分であること、そして盛り上がってたところに水をさされたとなっては、鬱陶しく感じざるを得ない。
爆豪も同じだったのだろう、飯田を見て苛立たしげに舌打ちした。ついでに強子の胸ぐらから手を放した。


「次から次へとウゼェ・・・!」

「それに、君!乱暴に力いっぱい机を叩いていたが、学校の備品は壊さぬよう細心の注意をもって扱う!常識だろう!?」


シュバッシュバッとロボットのように腕を動かして強子に向けてくるので、強子は後ろにのけぞりながら、曖昧に苦笑する。


「君も、机に足をかけるなんて!君たち二人は、雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないか!?」

「思わねーよ!てめーどこ中だよ、端役が!」


ただのヤンキーである。
本当に、なんでこんなガラ悪い奴が、才能あふれるマルチ人間なのかと、不公平な世を嘆きたくなる。
ふと視線を外すと、教室の入口にいる人物に気が付いた。緑がかった癖毛とそばかすが特徴的な男の子。緑谷出久だ。
同じく彼の存在に気付いた飯田は彼に話しかけにいき、爆豪もまた、強子のことなど忘れたように、緑谷に気を取られている。


「(なに、この不完全燃焼な感じ・・・)」


強子の中で、もやもやした感情は燻ぶったままである。
しかし、その後すぐに担任の相澤が現れ、あれよあれよという間にグラウンドへと向かう展開になり、強子の燻ぶる感情はそっと胸にしまうしかなかった。





体操服に着替えてグラウンドへやってくると、入学式もガイダンスもすっ飛ばし、唐突だが『個性把握テスト』を行うことになった。


「実技入試成績のトップは爆豪だったな・・・」

「!」


相澤のその呟きを耳にして、強子の中に忌まわしい記憶がフラッシュバックする。

仮想敵など、強子にとっては恐怖の対象でもなければ、倒すのに苦戦するような相手でもなかった。
それでもあの実技試験は、強子にとって恐ろしくて、苦しく、惨めな記憶として残っている。
あの試験で、強者によって、己が弱者である事実を突きつけられたからだ。
強者にいくら抗おうとも、すべてが強者の意のままに動いていく。
その、圧倒的な力の差をまざまざと見せつけられた、屈辱的な試験であった。

思い返せば、あの試験において強子が戦っていた相手は、爆豪という“敵”だったともいえる。


「じゃあ“個性”を使ってやってみろ」


相澤がソフトボール投げを個性を使ってやるよう、爆豪へと指示した。その言葉に、実技入試を思い返していた強子の意識が戻ってくる。
実技入試トップだという彼が、個性使用ありのソフトボール投げのデモンストレーションをするのだ。1−Aの誰もが興味津々といった様子で爆豪を見ている。


「早よ、思いっ切りな」

「んじゃまぁ―――死ねえ!!!」


ひどい掛け声を聞いた。
が、それ以上に、自分と彼との間にある、ひどい力量の差に愕然とした。


「まず自分の“最大限”を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」


球威に爆風をのせたソフトボール投げ、その結果は705.2メートル。
爆破の威力は、彼の強さは、入試の時に十分に理解したつもりだったが、改めて見ると凄まじい。
強子が個性を使ったところで、どれほどの結果を出せるだろう?
いったいどうしたら、この力量の差を埋められる?
どうしたら、この記録を超えられるのか?
どうしたら、彼を負かすことができるんだ?

強子がふつふつとそんなことを考えている合間に、相澤は「トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」とクラスに言い渡した。
しかし、そんなことは強子にとってはどうでもいい。
強子が最下位になるなどあり得ないし、最下位は緑谷になることを強子は“知っている”から。

だが、多くのクラスメイト達は相澤の言葉にざわつき、最下位が除籍なんて理不尽だと抗議の声をあげている。
それらに対し、相澤は気怠そうに応えた。


「自然災害・・・大事故・・・身勝手な敵たち・・・日本は理不尽にまみれてる。そういう理不尽(ピンチ)を覆していくのがヒーロー」

「!」


強子は相澤の言葉にハッとして息をとめた。
確かにそうだ。日本は、いや・・・世界は、理不尽にまみれている。
前世において、見ず知らずの人間に突如襲われ、殺されたこと。それこそ、強子の知る“理不尽”の最たるものだった。


「これから三年間、雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける」


そしてほら、今だって強子は理不尽に見舞われているじゃないか。
強子の実技試験の会場には、圧倒的な強者がいた。彼さえいなければ、あの会場のターゲットをやすやすと倒せたはずなのだ。でも、彼のせいで、強子の成績は惨憺たるものだった。彼がいたから、補欠合格だなんて不格好をさらすことになったのだ。
それがなければ、朝から教室でもめることも、真面目なクラスメイトに説教されることもなかったのに。


「プルス・ウルトラ(更に向こうへ)さ。全力で乗り越えて、来い」


ああ、そうか。
目の前に立ちはだかる苦難は、理不尽は、邪魔な壁は・・・全力で乗り越えないといけないんだ。
やれるかどうか、なんて考えてる暇はない。やらなきゃいけないんだ。


「(だとするなら、私がすべきことは・・・!)」


強子はクラスメイト達の合間をぬって、目当ての人物の元まで歩み寄る。
彼は肩をぐるぐるとまわしながら、「もっと行ける」とでも思っているのか、楽しそうに笑みを浮かべていた。


「爆豪、勝己」


その人物の名前を呼べば、彼は笑みを消し、不機嫌そうに眉間に皺をよせて強子を睨んだ。


「・・・あ?」


相澤も含めた1−A全員が、対峙する強子と爆豪に注目している。
けれど、彼らからの視線にも、爆豪からの睨みにも、臆してなどいられない。


「もう、私は・・・あんたに負けたくないッ」


言葉にして、改めて気づいた。
私は、こいつに負けたことが悔しかったのだ、と。


「次は私があんたを負かしてやる!それで、私を雑魚だの端役だのと言ったこと、後悔させてやるからッ」


言葉にしたら、わかってしまった。
爆豪勝己という男に軽視され、相手にされないことが、私は悔しかったのだ。


「絶対に、あんたを越えてみせる!」


それが決して簡単ではないことはわかっている。実現できるという自信はない。
それでも、己の決意をここに宣言して、強く、まっすぐに彼を見据えた。


「ハッ」


彼は鼻で嗤うと、実技入試の時と同じように、血走った目で、凶悪な笑みをつくって強子を見た。


「面白ぇ!!」










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負けん気の強い夢主が書きたかった。
爆豪のせいで、自分の思い描いてる勝ち組プランがぶち壊されていく、そんな夢主がみたい。



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