存在 ※爆豪視点

「デクは、あんたにとって何なんだよ」


家庭訪問を終えた後、オールマイトの帰り際に問いかける。


「・・・・・・生徒だよ。君と同様に、前途あるヒーローの卵だ」


求めていた答えは、返ってこなかった。
思うところはあるが、言いたくないことを無理に吐かせるつもりもないので、爆豪はオールマイトに背を向ける。


「・・・ありがとよ」


自分が言うべきことだけ一方的に告げ、玄関の戸を開いて家の中へ戻ろうと足を進めた。
・・・その時だった。


「―――爆豪くん!!」


嫌というほど聞き覚えのあるその声にハッとし、声の方に振り向く。
そして、爆豪は目を見開いた。


「っ・・・は!?」


凄まじい勢いで目の前まで迫ってきている身能が、自分に向けて手を伸ばし・・・そのまま、半端に開いていた玄関戸の隙間を通りぬけると、彼女は爆豪に向かって飛びかかった。
あまりの勢いに、家の中まで押しやられた爆豪は、持ち前の反射神経とパワーでなんとか踏みとどまると、二人で無様に倒れることを回避する。
カチャリと、玄関の戸が静かに閉じると同時に・・・自宅の玄関にて、自分が身能に抱きつかれているという状況を、ようやっと理解した。


「・・・・・・はあ!?」


なんだ―――この状況は!!?
慌てて自分にしがみつく女を引き離そうとしたのだが、


「爆豪くん、もしかして・・・同級生女子に抱きつかれたくらいで騒ぐほど、異性に免疫ないの?」


ちらりと流し目でこちらを見る身能は、どうにも爆豪を鼻で笑うような態度で・・・


「っな わけねーだろッ!誰に向かってクチきいとんだクソがぁ!!免疫あるわ!売るほどあるわァ!!」


瞬時に彼女から手を離し、頭上に手を上げる。
別に、女に抱きつかれるくらい何ともねえんだよ。なめんなっ!


「―――なら、」


爆豪の首に腕をまわしている身能は、肩口に顔を寄せると、吐息とともに「いいよね・・・」と小さくこぼした。
そんな艶やかな彼女の一言に息をのんで、体を固める。


呼吸をすると、ほのかに甘くて優しい 彼女の香りが、ふわふわと鼻をかすめる。
真綿のように柔らかく、絹のようにさわり心地のよい 彼女の肌が、爆豪の肌と重なりあう。
微睡ませるように温かな 彼女の体温が、服ごしにじわじわ伝わってくる。
自分より小さく、少しでも力を入れれば折れてしまうのではないかという 身体の細さを再認識する。


五感が知らせるそれらの情報に、カッと体が熱くなって、頭がくらくらする。
何しやがんだ、とか。何でお前がここにいる、とか。言いたいことはたくさんあったはずなのに・・・爆豪はどれひとつ言葉に出来ないまま、身動きひとつ出来ずに立ち尽くす。

―――いつも こうだ。

初めて会ったときから ずっとこうだった。
いつだって変わらず・・・身能というやつは、爆豪の意表をつくばかりで、素知らぬ顔で、爆豪の思い描くプランをぶち壊していくようなやつなのだ。
こいつが爆豪の思い通りに動いた試しなど、ただの一度もないだろう。その突拍子のない言動に、こっちがどれほど振り回されてきたことか・・・。


「(本当にっ・・・ムカつく女だなぁ・・・!)」


日頃のこいつへの怨みがふつふつと沸き上がり、やはり力ずくで引っ剥がしてやろうかと、頭上に上げていた腕を下ろしかけた その時・・・突然、ぎゅうと、彼女が腕に力を込めたものだから、爆豪の体はぴくりと跳ねて、また体の自由を奪われ、固まってしまう。


「―――おかえり、爆豪くん」


ああ・・・くそっ。
心底嬉しそうに告げられた、身能の言葉。
こいつのその一言を聞いたら、心底ムカつくことに・・・自分でも驚くほど、いつもの“日常”に戻ってきたのだと実感できてしまった。
いつもの、目ざわりな同級生らと競り合いながら No.1ヒーローを目指す、騒がしい日常。そして、生意気で厄介な女に いいように翻弄される、腹立たしい日常に―――










初めて“そいつ”を見たのは、雄英の入試だった。


『ハイ、スタートー!』


実技試験の会場に到着して早々、そんな合図が響く。随分と唐突ではあるが・・・ついに、一世一代の試験の幕開けだ。
この試験で、他の受験生たちに圧倒的な差をつけてやる!モブ共と一線を画して、断トツの1位で入試を通過してやる!
そう・・・この入試が、己がトップヒーローとして輝く未来に さらなる“箔”をつけるための、足掛かりとなるのだ。
爆豪が舌なめずりしながら模擬市街地へと足を踏み出そうとすると、


「ぅわ!なんだァ!?」

「!?」


誰かが驚きの声をあげると同時に、ぶわっと激しい突風に煽られ、爆豪の体がふらりとバランスを崩した。
何ごとかと突風の発生源を見やると・・・一人の受験生が、目にも止まらぬ速さで自分の横を通りすぎ 模擬市街地に向かって駆け抜けていく。
すれ違いざまのそいつは、曇りのない、まっすぐな眼で前だけを見つめていて・・・その意志の強い目差しを見た瞬間―――心臓が跳ねて、不覚にも 目を奪われた。
そして爆豪はそいつを見つめたまま、体勢を整えることすら忘れ・・・無様にも、その場に尻もちをつく羽目になった。


「(・・・・・・は?)」


自分の置かれた状況が信じられなくて、呆然とする。
我が人生に“箔”をつけるべく、入試トップ通過を狙っていたはずの自分が・・・まわりのモブ共にまぎれ、間抜けにも地面に座り込んでいる なんて。
しかし、それがまぎれもない現実であると認識すると、爆豪の中に、かつて感じたことがないほどの怒りの感情が沸き上がる。
こちらには目もくれず、我先にと模擬市街地に乗り込んだその受験生を見れば、大きめの仮想敵をド派手にぶっ壊し、さっそくポイントを獲得しているではないか。
・・・俺が、誰より先に獲るはずだったのに。
俺は、受験生の中の誰よりも一番つよいのに。俺の方がすごい、俺の方が“上”だ!
なのに・・・自分よりも先に集団から抜きん出たアイツは、爆豪なんかには興味を示さず、目もくれずに、モブ同然にあしらいやがった。まるで、道端に落ちてる石ころかのように、爆豪の存在を軽んじたのだ。
こうしてる今も、自分よりも遥か前方で悠然と立ち、デカい顔をしているその女は・・・自分が誰より“上”だと思っているんだろう。
―――ブチリ。そんな音とともに、爆豪が俊敏な動作で立ち上がった。


「俺の前に立つ奴は・・・全員ぶっっっつぶす!!」


こちらも負けじと即座に仮想敵をぶっ倒してから、威嚇するようにそいつを睨みつける。
「ひっ!?」と情けない声をもらして、怯えた様子で自分を見るそいつの顔は、なかなかに見ものであった。







「んだよ、てめぇ程度の実力でも受かったんか」


入学初日。1−Aの教室でそいつと目が合った途端、口ではそう言いながらも、自然と口角が上がっていく。
第一印象こそ最悪なもので、下手すりゃデクよりも腹立たしい存在にも思えたが・・・それ以上に―――爆豪にとって彼女は、鮮烈な存在となっていた。
同学年で、爆豪と張り合えるだけの実力をもった相手なんて今までおらず、入試で出会った彼女が、はじめてだったのだ。爆豪はあのとき、初めて、ライバルと呼べるような相手に出会ったのである。
彼女と戦っていると 心が弾み、血涌き肉踊り、感情が高揚して、心臓が激しく脈打つ。
雄英に通えば、もっと、こんな戦いができる・・・そう思うと、雄英に入学する日が待ち遠しくて仕方なかった。
率直に言ってしまえば・・・入試以降ずっと、彼女との再会を待ち望んでいたのである。


「次は私があんたを負かしてやる!それで、私を雑魚だの端役だのと言ったこと、後悔させてやるからッ―――絶対に、あんたを越えてみせる!」


まっすぐに、強い意志を宿した瞳で自分を見つめ、悔しそうに彼女が宣言する。その瞬間、喜びの感情が腹の底から溢れ出た。
最初は自分に見向きもしなかった奴が、今は自分に敵対心をむき出しに、必死にすがりついてくる――それが、かつてないほど 心地良い。
実際・・・その言葉は口先だけではなかった。
個性把握テストのいくつかの種目では、奴のほうが爆豪の記録を上回った。総合成績は、かろうじて爆豪の方が上位で、密かに安堵していたくらいだ。


「(こいつが、“補欠入学”・・・?)」


実力はある(自分には到底およばないけど)
度胸もある(生意気でムカつく態度だけど)
頭もよくまわる(ズル賢いとも言えるけど)
見目も悪くない(見かけ倒しとも言うけど)
それに・・・入試で、ほんの一瞬とはいえ、この爆豪の目を奪ったというのに―――そんな彼女が“補欠”だなんて、にわかには信じ難い。
一度は、爆豪を出し抜いたくせに。はじめて、爆豪が“ライバル”だと思えた相手だというのに・・・


「(なに、“補欠”なんて不名誉な称号とってんだ、お前は・・・!)」


入試で彼女を妨害していた爆豪が言える立場ではないのだが・・・それでも、彼女が補欠であることに納得いかず、爆豪は苛立ちの感情を抱いたのだった。





翌日の戦闘訓練でだって、身能の活躍は卓越していた。
圧倒的な力を見せていた氷の奴に一人で立ち向かって、脅威の氷攻撃をものともせず、そいつを踏みつけにして打ち負かす身能は、観戦していた誰もが格好いいと思ったに違いない。
人間ばなれした筋力、瞬発力、機動力、持久力。
身体ひとつで、人間ばなれした超パワーを自在に発揮するそのさまは、オールマイトを彷彿とさせる。
爆破はしない、氷も炎熱も出さない。ただ、純然たる人間としての シンプルな強さ。それはきっと、誰もが心の奥底で憧れ、欲しているものだ。
だからこそ―――爆豪の目は、彼女ばかり追ってしまうのだろう。そうして彼女を目で追っていると、自然と爆豪の心臓が高鳴っていくのも、道理である。


「―――だからっ、見よう見まね!テレビで観るプロヒーローの活躍とか、バトルアニメの戦闘シーンとか、格闘ゲームのキャラの動きとか・・・そういうのを真似してやってたの!!」

「(・・・・・・はァ?)」


教室で行われた反省会での身能の暴露に、爆豪はぽかんと呆けてしまう。
つまり爆豪は、見よう見まねのなんちゃって武術に見入っていたというのか?
んな バカな。あり得ない・・・いや、あってたまるか、そんなこと!
まるで煮え湯を飲まされたような感覚で、爆豪は不満顔のまま、反省会をしている教室から足早に離脱したのだった。





かと思えば、だ。
USJで倒壊ゾーンに飛ばされた際の、あいつの醜態は何なんだ!
ヴィランを前にした身能は―――恐怖ゆえか・・・真っ青な顔で冷や汗を流しながら、手足を震わせていた。息が乱れ、過呼吸に近い状態で、地面に手をつき嘔吐している。
その変わり様に、最初こそ度肝を抜いていた爆豪だが・・・だんだん、腹が立ってきた。


「こんな所でうずくまって、守られてるだけの非力な奴じゃねーだろッ、てめェはよ!」


気がつけば、床にうずくまる身能を怒鳴りつけていた。
強ぇくせに、雑魚ヴィランごときにビビってんじゃねえよ。俺が見入るほどに格好よく戦うやつが、なんつー恥さらしてんだ。


「こんな雑魚ども、てめェの個性でぶっ飛ばせや!てめェにはそんだけの力があんだろうがッ!!」


そう口走ると あいつは急に吹っ切れたようで、あっという間にヴィランどもを制圧してしまった。
出来るんだったら、最初からやれや!無駄に恥さらしやがって。
そうしてまた、爆豪の中で、身能に対する鬱憤が募っていく。
その上、さらに、爆豪にとって許しがたい事態が起こった。脳無とかいうヴィランに狙われたところを・・・身能に“救けられた”のである。


「え、身能さんっ、かっ、かっちゃんを庇ったの!?すごい・・・!」

「うるせぇよ、黙れカス」


デクを黙らせて平静を装うも・・・内心は、怒りと焦りの感情が絡まりあって、ぐるぐると渦巻いていた。


「(俺を・・・救けやがって!)」


目をつり上げ、親の仇のように身能を睨む。
入試での獲得ポイントは爆豪が圧倒的に勝っていた。個性把握テストの順位も、爆豪の方が上だった。
俺の方が強い、俺の方が“上”だ―――そう思いたいのに。
あいつは、爆豪の目では追えないスピードの敵も見えていて、反応できていた。だから、爆豪は身能に救けられた。
爆豪には出来ないことを、身能は出来る・・・これでは、どちらが“上”かわからない。
無性に、腹立たしい。気に入らない。気分が悪い。イライラする。屈辱だ!本当に、なんてムカつく女だよ・・・!







「―――だったら、二人で勝負してみるか」


身能への感情を燻らせていた時だ。相澤からの提案で、身能と一騎打ちすることになった。
正直、体育祭前のタイミングでこんな展開になるとは思わなかったが、これはチャンスだ。この際、どちらが“上”なのか、ハッキリさせてやる。


「今度こそ、てめぇをぶっつぶす!!」

「それはこっちのセリフなんだよなぁ・・・!」


正真正銘、1対1の真っ向勝負。全身全霊で、互いのプライドをかけた、因縁の戦い。
入試の時と同様に、わくわくと心が弾む。血が涌き、身体が疼く。感情が高揚して、心臓がうるさいくらいに脈打つ。
・・・やっと、この生意気な女をひねり潰すことができる!
知略を巡らせ、戦術を打ち立て、全力で個性を駆使して、相手をぶちのめすことだけ考える。
爆豪は、言葉に表現できないような複雑な感情をすべてぶつけるように、戦いに打ち込んだ。
あわやと言う場面もいくつかあったが―――


「・・・ま、参り、ました」


身能が悔し紛れに吐き捨てたのを聞き、わき上がる喜びの感情を噛みしめて、悦に入る。
爆豪にとって、はじめての“ライバル”は身能だ。爆豪に“思い通りにならない相手がいる”という事実を、“救けられる”ことや“負ける”ことの辛酸の味を知らしめたのも、身能だ(それにクソデクもだが・・・こちらは深くは語るまい)。
その身能に、今、勝ったのだ。今度こそ、勝ったのだ。
―――けれど、その愉悦と同時に、ある種の喪失感を覚えた。
コイツと張り合う日々が、これで終わる。コイツが本気で俺に勝とうと足掻く日々は、もう来ない。
・・・振り返ってみると、身能と張り合う日々は悪くなかった。それなりに楽しいとさえ思えた。
それがもう無くなるのだと気づき、虚脱感にも似た感覚に胸が詰まった。だから・・・


「必ず、アンタを負かしてやる・・・!」


身能がまだ俺に勝つつもりでいることに、不本意ながら、自分でも驚くほどの充足感を得てしまったのだ。







「爆豪くんの優勝も邪魔しちゃったら、ごめんね?」


鼻につく顔で挑発するように言った身能に、爆豪の額の血管が浮かび上がる。
誰だ、コイツと張り合うのが楽しいとか思ったバカは!決めた・・・絶対に、コイツを負かす!泣かす!!
そして狙い通り、第一種目の障害物競争では、生意気アホ女を抜かしてやった。
第二種目、騎馬戦のチーム決めで誰と組もうかと悩んでいると、ふいに、クラスメイトらに囲まれている身能と視線が絡み合った。その瞬間、互いに、視線をそらせなくなる。
目を合わせながら爆豪は、ほんの一瞬だけ、彼女と騎馬戦を組むところを想像した。
純然たる戦闘力。頭の回転の速さ。何事もそつなくこなすセンスの良さ。どれだけ打ちのめされされたって、めげずに、必ず這い上がってくる強靭な精神力。
身能が“仲間”であれば、デクも半分野郎も、ほかの奴らも敵じゃない。というか、彼女と共闘するのは・・・彼女と張り合うより、もっと楽しいんじゃないか?
―――もし、彼女からチームを組まないかと誘われたら、頷いてやらないこともないが・・・


「ねえ!私と組まない!?―――普通科の心操くん!!」

「・・・」


見知らぬ奴を熱心に誘う身能を見て、メラメラと憤怒の炎が燃え上がる。
デクから1000万ポイントを奪うのは確定として・・・その前に、誰より先にぶっ潰すべき騎馬がいたようだ。
そして意に違わず、爆豪は身能の騎馬からポイントを奪うことに成功した。いい気味だ、ざまあみろ!
けれど―――騎馬戦を終えたあと、クラスの女子と話していた彼女の口から、思わぬ言葉を耳にする。


「別に、爆豪くんだけを相手にしてるわけじゃないから」


瞬間、鈍器で殴られたような衝撃が走った。
爆豪だって身能だけを相手にしてるわけじゃないし、あいつは当たり前のことを言ってるに過ぎない。そう理解できるのに・・・みぞおちの辺りが、締め付けられた。
いよいよ最終トーナメントまで来て、麗日戦は 油断ならない切迫した試合となり、血が湧くような楽しい勝負であった・・・はずなのに―――勝負を終えた後も、みぞおちの気持ち悪い感覚は消えてくれなくて。もやもやとした正体不明の何かを胸に抱えたまま、燻っていた。
そんな折、常闇戦で負けた身能が常闇と楽しげに話しているのを見て、カッと頭に血がのぼった。


「俺以外のやつに負けてんじゃねえ」


怒りのままに吐き捨てながら、爆豪は、自分のみぞおちが疼く理由を確信してしまった。
―――身能が自分以外の奴を見ているのが、気にくわないのだ。
常闇も、デクも、轟も、他のクラスの連中だって・・・どうでもいいだろうが。
身能ががむしゃらになって挑む相手は自分だけでいい。身能が、負けても 必死に追いかける相手は自分だけでいい。身能が負けて、悔しそうに涙を流すその顔を堪能するのも、自分だけでいいんだ。
だから、トーナメント戦で自分以外の奴に敗れ、自分と戦うチャンスを失った身能に、腹が立った。
お前はもっと必死に、俺にすがり付いて来いや!
表彰式で、表彰台に上がってもないくせに、のんきに笑ってんな!
職場体験の指名件数だって、クラス3位のくせにヘラヘラ喜んでんじゃねえ!
もっと―――もっと、悔しがれや!!





職場体験中くらいは、あいつのことで頭を悩ませずに済むだろうと高を括っていたのだが、


「身能強子がウチに来なかったのは 残念だった」

「は?」


ベストジーニストの予期せぬ発言に爆豪が目を点にしていると、身能も指名していたのだと彼が明かした。


「彼女は、磨けばもっと光るだろう。守られる側の者たちの前で、守る側(ヒーロー)としてどう振る舞うべきか・・・君よりよほど、彼女の方が解っているようだ」


ギッと目をつり上げると同時、ピッチリと整えられていた髪が、ボンッと爆破して普段の髪型に戻った。
あの女はっ・・・あいつがいない所でさえも、ムカつくなあ!





そして職場体験明けの救助訓練レースでは、とうとう恐れていたことが起こった。


「こいつが1位だぁ!?なんかの間違いだろ!こんな結果、俺は認めねえ・・・!」


身能が1位で、自分が2位―――爆豪は、身能に負けた。
怒りが沸騰して、激情にかられる。悔しいを通り越して、憎たらしい。
そして、さらに由々しきことに・・・これで身能は、爆豪ではなくてデクを、本格的にライバルとして意識するのだろう。
いつからだったか・・・デクを見る時だけ、余裕の無さそうな、思いつめた表情をする身能には気が付いていた。彼女は、一見 爆豪と張り合っているようで、その実・・・誰よりもデクをライバル視しているのだ。
この敗北をもって爆豪は、見損なわれたのでは?張り合う相手に相応しくないと、見限られたのでは?もう、爆豪など相手にされないのでは・・・?
そうなれば、あいつの中の爆豪の存在が、また“モブ”同然になってしまう。
そのことを考えると、もやもやする。やるせなくて、喚き散らしたいような、もどかしい気持ちになる。
こんな酷い気分を取っ払うには、再び 身能に勝つしかない。もちろんデクにも勝つ。完膚なきまで、あいつらを負かしてやる以外に 道はない。




・・・と、思っていたのに。
期末試験でのチーム分けで、まさか、身能とデクと組むことになるなんて。
最悪だ―――頭の中でずっと同じことを繰り返し考えて、なおも結論を出せずにいる。
身能とチームを組み、協力するのか?あいつと協力なんて、できるのか?あいつと協力したところで、あのオールマイトを倒せるのか?(“デクと協力する”なんて悪夢みたいなことは ハナから考えちゃいない)
自分らしくない優柔不断ぶりに、辟易する。
とうとう戦闘ステージまでやって来て、ふと隣を見ると、そこには決意を固めたような表情の身能がいて、その瞳に強い意志を宿していた。
その横顔を見た瞬間にドキリとして・・・ぐるぐると巡っていた爆豪の迷いが、すっと晴れていく。


「(ああ―――そういや、そうだった)」


この図太い神経の女は、どんなに“嫌なこと”だって、何べんでも乗り越えていく奴だった。勝つためなら、使えるものは何でも使って、しぶとくしがみつく奴だった。
そうだ。勝つんだ―――それが、ヒーローなのだから!
どんなに“嫌”であろうと、身能と手を組んででも、勝ってやる!!
・・・結果、身能と手を組んだからこそ勝てたのだから、ほんと嫌になる。





雄英に入学してから、否、あの入試から・・・毎日、毎日、納得のいかないことばかりだ。
それもこれも、全部、身能のせいに違いない。
あいつが視界をうろつくたび、あいつの声が聞こえるたび、あいつの名が話にあがるだけでも―――爆豪は狂わされるのだ。
あいつが関わると、爆豪の心は揺さぶられる。胸が騒いで、身が悶える。頭を悩ますあまり、頭痛を覚えることもある。

特に酷かったのは、以前に“恥辱 塗”とかいうクソヴィランの術中にはまったときだ。
あいつと密着して感じた、その柔らかさ、肌触り、美味しそうな香りに、頭が回らなくなる。心臓が痛いほどに跳ねて、身体が熱をはらんで・・・また、爆豪は狂わされる。ヴィランに四肢の自由を奪われていなかったら、あいつに何をしていたか 自分にもわからない。
何せ、恥ずかしそうに顔を真っ赤にし、悔しそうに顔を歪めていた身能は、なんというか、こう・・・そそるものがあった。

あいつの存在は―――まるで、“呪い”だ。
いつだって、こちらの意表をつくばかりで、素知らぬ顔で、思い描いたプランをぶち壊していく。こちらの思い通りになど、動いてくれやしない。その突拍子のない言動に、こっちがどれほど振り回されてきたことか・・・。
あいつがいるとこちらの調子を崩されて、どうしようもなく・・・自分が、自分でなくなっていくようだ。
まったく、馬鹿馬鹿しい。どうかしてる。
それもこれも、きっと、あいつに呪われているせいに違いない。





でも―――なんとなく予感はしていた。
身能の存在が“呪い”なんだとすれば、その“呪い”を解くことができるのもまた 身能なんだと。


『爆豪くんの未来が奪われるなんて、そんな“もしも”は、あり得ないんスよ!』


ヴィラン連合に囚われていた爆豪は、薄暗いバーのような場所で、テレビに映し出されたその存在に 虚をつかれた。


『・・・爆豪くんを、“心配”?』


マスコミから「爆豪が心配じゃないのか」と問われた身能が、マスコミをじろりと見やり・・・そして、「ハッ」と鼻であざ笑う。


『―――ンなもん、する必要 ない!』


堂々と、不敵な笑みを浮かべて言い放つ姿に、爆豪の目がはたと見開かれる。
彼女の言葉から、表情から・・・自分に対する信頼のようなものが見えた気がした。


『粗野で横柄?狂暴な性格?そうですよ!それでいて自分本位で、ヒトのことを見下して、踏み台にして蹴落としてくような ムカつく奴です!口は悪いし、目つきも悪くてヴィランみたいだし・・・』


・・・あいつ、次 会ったら殺す。
すらすらと言葉を並べている身能に殺意がわくが、


『でもっ、それは!!爆豪くんが、それだけ必死に、なりふり構わず、ストイックなまでに“トップヒーロー”を目指してるからなんです!』


ぐ、と奥歯を噛みしめた。
例えば同じセリフを他の誰かが言ったのなら「テメーに何がわかんだ黙っとけや!」くらいのことは返すだろうが・・・身能が言うからこそ、その言葉は爆豪の心に沁みわたる。言葉の重みが、違う。
だってアイツとは、何度も負かし、負かされてきた。
アイツのせいで、アホほど苦労してきた。
アイツがいたから・・・今の爆豪があるのだ。


『私は・・・同じ ヒーローを目指す者として、アイツほど尊敬できる人を ほかに知りません!』


その言葉に、爆豪の世界が色づく。
視野が拡がり、思考が冴えわたる。深く呼吸をすれば、焦りや不安が薄れて、冷静さを取り戻していく。何かの枷が外れたように、心がふわりと軽くなった。


『爆豪くんや私を拐おうだなんて・・・ヴィラン連合の、バーカ!!』


確かに、こいつらは大バカ野郎だ。この爆豪勝己を懐柔しようだなんて、なんと愚かで、マヌケなクソカスどもだ。
爆豪勝己ともあろう者が、こんな奴らを警戒して、ご機嫌を伺うように大人しく縮こまってるなんざ、らしくない行動であった。
皮肉なものだが―――いつも自分の調子を狂わせてきた存在のおかげで、やっと爆豪はいつもの調子を取り戻してきた。


「(そうだった・・・俺は俺らしく、俺のやりたいようにやるだけだ!)」


身能の言うとおり、爆豪の戦闘許可は解除されていない。爆豪を仲間にしようと企むヴィランどもの気が変わらないうちに、隙をみて2〜3人ぶっ殺してでも脱出してやる!
そうして・・・戻るんだ、あの日常に。爆豪を信じて待っている、あいつの元に―――


『ヴィランなんかクソくらえだ!馬鹿!バァーカ!!』


身能の口から出てくるガキみたいな言葉に、テレビを見ていたヴィラン連合の面々はポカンと放心していたが・・・ふいに、ピキリと何かにひびが入るような音が鳴り、皆一様に音の方を見た。
音の発生源は、バーカウンターの椅子だった。皆が見ると同時、椅子にビキビキと無数のひびが走ったかと思えば・・・粉々の木くずとなって崩壊する。
木くずの傍らに死柄木が立っていることから、奴の個性で椅子が壊されたのだと察しがついた。


「・・・思い出した」


ポツリとこぼした死柄木の様子に、爆豪も、連合の奴らも・・・皆一様にぞわりと寒気を覚える。


「ようやく解ったよ―――何で 俺はこんなに、あいつをぶっ壊したいと思うのか」


そう言った死柄木の表情は、ぞっとするほど歪で、狂気をはらんだ笑みだった。冷酷でありながら、燃えるような熱情も垣間見えるような・・・。
その得体の知れない不気味さに、思わず爆豪は固唾をのんだ。


「あーあ・・・お前らが身能強子を奪い損ねなきゃなぁ。ここにアイツがいたら、今すぐ俺の手で殺してやれるのに」


笑みを携えたまま、まるで眼前のご馳走のお預けを食らった獣みたいに、物欲しげにテレビに見入っている。


「・・・身能を拐えっつう指示を出したのは、殺すためだったのか?殺すのが目的なら、そんな面倒なことしなくても、開闢行動隊に殺らせる方が確実だったろ」

「そりゃ、俺の手で殺りたいからな・・・他の奴らに殺させるんじゃ駄目だ。だから連れてこいって言ったんだよ」


つまり、もし身能が拐われていれば・・・仲間に引き入れる目的で拐った爆豪とは違い、彼女は死柄木によってここで殺されていたわけだ。なんとも胸くそ悪い話である。


「弔くん、ずいぶんと強子ちゃんにご執心ですねぇ!もしかして、強子ちゃんに恋してるとか!?」

「バカ言え・・・俺とあいつの間にあるのは、“恋”だなんて表現できるほど可愛らしいもんじゃない。もっと、そうだな―――“運命”とでも呼ぼうか」


人生が楽しくて仕方ない、そう言わんばかりの様子で、死柄木は恍惚とした笑みを浮かべた。


「なんとしても・・・俺のこの手で、身能強子を殺してやる」












―――その後、大勢のヒーローたちや警察、そして 無謀なクラスメイト何人かの活躍もあり・・・爆豪は無事、また“日常”へと戻ってくることができた。

ふと、目線を下に落とせば、ひしっと自分に抱きつき 離れまいとしている身能がいる。
そんな今の状況を再確認すると、自然と口元の表情筋が弛んだ。そして自然と・・・行き場なく宙をさまよっていた爆豪の両手は、身能の背に添えられる。
戦闘訓練中とはまったく違う力加減で、慣れない優しい手つきで・・・やんわりと包み込むように抱きとめた。


「お前・・・俺のこと 心配してないんじゃなかったのかよ」


自分に抱きつきながら、弱々しく縮こまっている身能を見やりつつ、そんな軽口をたたく。

―――・・・爆豪くんを、“心配”?・・・ンなもん、する必要ない!

爆豪のことを信じているからこそ出てくるような その台詞・・・それを思い出すたび、表現しようのない感情が起こり、口元がニヤけてしまう。


「心配する“必要がない”と言っただけで、“心配してない”とは言ってない」


爆豪がニヤついていると、なんとも彼女らしい 意地っ張りで可愛げのない屁理屈が返ってきたものだから、耐えきれずハッと笑いがもれた。
それにしても―――彼女が爆豪を“心配していた”と聞いて、合点がいく。
テレビ越しに観た、マスコミに啖呵を切る身能は、いつもと違って、愛想のいい笑顔は消え、理知的な口調も葬られ、殊勝な態度に見せることも忘れて・・・今にして思えば、いつもの彼女らしくない様子であった。
・・・これは、爆豪に都合のいい解釈かもしれないが―――彼女がマスコミに対して猫を被ることもせず、生意気な本性を晒していたのは・・・爆豪のことが心配で、精神的に余裕が持てなかったからではないか?
勢いあまって爆豪に抱きつくほど 彼女の判断力が鈍るくらいに、今まで張り合ってきた相手に こうして弱々しい部分を見せてしまうくらいに・・・堪えてたんじゃないか?


「・・・ったく、余計な心配してんじゃねーよ。俺はお前に気遣われるほどザコじゃねえ」


心配されるなんて 耐え難い屈辱だ・・・と、そう思っていたはずなのに。
彼女が自分のことを思っていた時間のことを考えると、案外、そう悪い気分ではなくて。口をついて出た言葉は、自分で思っていたよりずっと 優しい声色だった。


「爆豪くんが強いのを知ってたって、信じて待つと決めてたって―――やっぱり・・・心配、しちゃうよ」


悩ましげな声で打ち明けた身能に、爆豪の胸がざわつく。なんとも形容しがたい感情が爆豪の中で渦巻いている。
今、彼女の脳内が爆豪のことでいっぱいになっている――それに対する、充実感のような。爆豪の存在が彼女を振り回している――それに対する、達成感のような。
それと同時に・・・身能をここまで弱らせた原因が自分であるという事実に対する引け目だったり、不甲斐なさや、焦燥感・・・。
そんな二律背反の中で、爆豪は強く願う。


「(もっと、強くなりてぇな・・・)」


邪魔なもんを全部ぶち壊せるくらいの“力”が欲しい。
誰にも指図を受けず、誰にも文句を言わせず、やりたいようにやれるだけの“身分”が欲しい。
誰からも、こんな風に心配されることがないくらいの、“強さ”が欲しい。
そして―――なぜか不気味なヴィランに命を狙われているこいつを、守ってやれるくらいの“強さ”が、欲しい。
そう切に望んでいると・・・爆豪の首にまわされた身能の両腕に、ぎゅっと、さらに力が込められた。
そのせいで爆豪の胸が煩わしいくらいにざわざわと騒ぎだし―――その胸のざわつきに促されるよう・・・身能の背にまわしていた己の手に、強く、力を込めた。すると身能の体は容易く引き寄せられ、爆豪の体にグイと密着する。


「「・・・」」


互いに言葉はなく。
ただ そこにある存在を逃がしてなるものかと、腕に力を込め、抱擁する。
失せ物を見つけた時のような、満たされていく感情があふれ出す。幸福な時間が流れていく。


「(あー、クソ・・・このまま、離したくねえな・・・)」


―――なんて、そんな馬鹿馬鹿しいことを・・・一瞬だけ、ほんの僅かな瞬間にだが・・・そんなことを思ってしまった。非常に癪だけれど、それは認めよう。
しかし、それは土台無理な話だ。理由は簡単。今のこの状況――健全な男子高校生にとっては、実に悩ましい状況であろう。身能が、自分に密着しているという、この状況は・・・。
彼女の優しい薫りが鼻をくすぐる度に、彼女との距離感を実感して、爆豪の鼓動が早くなる。
彼女を抱きしめる手の先は、彼女のしなやかな腰のくびれに触れており、指を滑らせて その感触をもっと堪能したくなる。
何より、胸元にふにゅんと押し付けられている女特有のそれに、嫌でも意識が向いてしまい、爆豪の体温が上昇していく。


「っ・・・!」


クソ!試されてんのか、俺はっ・・・!?
そう疑わずにはいられない。こいつの異性に対する倫理観はどうなってんだ。いくら感情が昂ろうとも、普通はこんなに艶かしく男に抱きつかないだろ。それも二人っきりの状況で・・・!
目の前の据え膳に、ごくりと唾をのむ。
もう・・・耐えられそうにない。元より、自分は気が短いのだ。いっそ欲望のままに、このバカ女をめちゃくちゃにしてやろうか―――そう目論み始めたところで、


「ッ、わぁあ!!?」

「!?」


出し抜けに叫び声をあげた身能に、爆豪の体が思い切り突き飛ばれ・・・意表をつかれた爆豪は、無様にも 尻もちをついて倒れた。


「ご、ごご ごめんなさいっ!」


爆豪宅の玄関に身能の慌てたような謝罪が響きわたる・・・が、その謝罪は爆豪に対するものではなく、爆豪の両親に対してであった。


「私ったら!よそ様の大切な息子さんに、こんなことして・・・っすいません!すみませんでしたぁ!」

「ああ、いいのいいの!こっちこそ、いい感じのトコ 邪魔しちゃってごめんなさいねぇ」


やたらヘコヘコと謝っている身能と、呆然として床に座り込む爆豪。
そんな二人を、母親の光己はすべてを悟ったようなニヤけ面で交互に見ていた。


「(・・・・・・は?)」


なんだ、コレは。
母親からの含みのある視線も。
あれだけ爆豪を試すような事をしておいて、もうこちらには欠片も興味を示さず、目もくれない身能も。
そして、無様に尻もちをついている自分も・・・。
全てが、煩わしい。全てが、爆豪勝己の怒りの根源となり、彼のボルテージはあがっていく―――


「なんなら身能さんに、ウチの愚息をもらってくれると有り難いんだけどね、生涯の伴侶として・・・」

「え!?」


母親がそんな煩わしい横やりを入れるのを聞くと同時、爆豪の我慢は 限界を突破した。
ブチリ。そんな音とともに俊敏な動作で立ち上がる。


「いや、それは・・・」


言い淀んでいる身能を力強く引っ張りながら、玄関の扉を開いて、


「用が済んだらとっとと帰れや!アホ女!!」


ゲシッと思いきり背中を蹴り、玄関から放り出した。
怒りの元凶とも言えるそいつを追い出し、怒りを鎮めるよう肩で息をしていると、背後からけたたましい声が飛ぶ。


「勝己ぃ!あんた、お友達になんてことしてんの!!」

「うっせババア!!“お友達”とか言ってんじゃねーよ気持ちワリィ!」


あいつは、“お友達”なんて呼べる代物じゃないんだよ。身能は爆豪にとって、そんな一言でくくれるような関係じゃない。
では、“運命”か・・・?いいや、そんな立派なもんではない。ならば、“恋”か・・・?いいや、そんな甘いもんであってたまるか。
あいつは初めて会ったときから ずっと、こっちの意表をつくばかりで、素知らぬ顔して 思い描いてたプランをぶち壊していくような奴だ。あいつが思い通りに動いた試しもない。その突拍子のない言動に、振り回されてばかり。
まるで呪いのように爆豪の人生を狂わせる彼女は、“因縁の相手”とでも呼ぶ方が、まだしっくりくる。
・・・だというのに。


「(くっそムカつく・・・!なんで、こんな厄介な奴に惚れちまうんだよ俺ぁ・・・!)」


ままならない・・・全くもって、ままならない!こんなはずではなかったのに。
そもそも爆豪には、恋愛にうつつを抜かしてる暇なんてないのだ。惚れた腫れたで頭を悩ます時間はない。
それはあいつとて同じだろう。小耳に挟んだ話じゃ、あいつは何人に告白されようが、“今は恋愛してる時間がないから”と全て断っているらしい。
例え、あいつに恋愛する気があったとしても・・・いつも対立してばかりの爆豪に勝機があるかといえば、望み薄だろう。先ほど、母親の口から出た 生涯の伴侶うんぬんの話にも、奴はご丁寧に断りを入れようとしていたし。

―――よりによって、身能強子が相手だとは。

前途多難と思われる己の恋路に、盛大にため息を吐くと、爆豪は眉間にしわを寄せた渋い顔で、玄関の扉にゴツンと頭を叩きつけたのだった。










==========

夢主のせいで、自分の思い描いてる勝ち組プランがぶち壊されていく、そんな爆豪がみたかった。

連載初期から積み重ねてきた爆豪とのやり取り、あまりのボリュームに、全部はこの話に詰め込めませんでした。また爆豪視点の機会があれば補足していく予定です。
とりあえず・・・二人は最初から、お互いにままならない存在だったのです。
そして、熱いハグをかわしながら頭ん中では「「(もっと強くなりてー)」」とか考えてる、そんなヒーロー志望の二人が愛しいです。

ちなみに爆豪がいつから心を奪われていたかは、たぶん、本人もわかってないでしょう。





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