来たれ、期末テスト!

時は流れ、6月最終週―――・・・期末テストまで残すところ一週間を切っていた。


「では、週末にでも私の家でお勉強会を催しましょう!」

「まじで!?うん、ヤオモモん家 楽しみー!!」


中間テストでの成績不振者たちが中心になって 期末テストがやばいと騒いでいたところ・・・急遽、八百万宅で勉強会が開催されることになったのだ。
しかし―――強子は目の前の座席で繰り広げられているやり取りを見て、ぐぬぬと歯を食いしばっている。


「必ずお力になってみせますわ・・・!」


講堂を開いて、来客用のお紅茶を用意して と・・・勉強会に向けて、プリプリと気合いを入れている彼女は、最高にかわいい。超カァイイ。めっちゃ かまい倒したくなる可愛さである。
・・・なんて言ったところで、


「(私は、お呼ばれされないんですけどね・・・!)」


お勉強会に行くのは、芦戸に上鳴、そして瀬呂、尾白、耳郎というメンバーだ。
ヤオモモ本人から「一緒に勉強いたしません」宣言されてる強子は、当然だが・・・勉強会に参加させてはもらえないだろう。
ついでに言うと、彼女から「距離を置きましょう」とも宣告された身だ。八百万宅に上がるどころか、ここ最近、ろくに会話もできていない始末。


「(面白くない・・・実に、面白くない・・・!)」


強子そっちのけで わいわいと盛り上がりやがって・・・!
机に肘をつくと、強子は不愉快そうに眉を寄せた。


「・・・ケッ」


不機嫌オーラをまき散らしながら強子がやさぐれていると・・・ちょうど近くを通りかかった緑谷が、彼女のあまりの人相の悪さにヒッと息をのんだ。次いで、そそくさと自席に向かう彼の後ろ姿を目で追いながら・・・このクラスの自分に対する態度は、相変わらず酷いもんだと胸中で嘆いた。


「身能、」


悲嘆に暮れている強子へと、轟が声をかけた。


「・・・うちでよけりゃ、一緒に勉強するか?」


気遣わしげに聞いてきた轟に、強子ははたと眉を押し上げて彼を見つめ返した。
そして、じわりと潤んできた瞳を、そっと袖でぬぐう。


「・・・・・・うん、する」


入学当初はあんなにも辛辣で、他を寄せ付けなかった轟が、こんな風に優しく友人を気遣うまでに成長したなんて・・・感動のあまり涙が出る。
同時に、その轟にまで気を遣われてしまうほど、自分は惨めだったろうかと思うと・・・そっちの意味でも涙が出てくる。


「ハ?年頃の男女2人が自宅で勉強するとか、エロい展開しかねーだろ!『・・・うん、する』とか、身能も答え方 エロすぎるぜ!誘ってんのか!?」

「エロいのはアンタの頭だけでしょ」


ハァハァと息をあらげて口を挟んできた峰田に呆れていると、教室の外――廊下の方で誰かが声を張り上げた。


「身能さん、ちょっといい?」


溌剌とした明るい声―――その声の主は、B組の拳藤一佳だ。
拳藤はニコニコと人当たりの良い笑顔で、廊下から強子を手招きしている。
B組の生徒の中で、強子ともっとも絡む機会が多いのは誰かといえば・・・たぶん、物間だ。そして、その物間を介して絡むようになったB組の生徒が何人かいるのだが・・・その筆頭が、拳藤である。
よくあるパターンだと、強子と物間が絡んでいるところに拳藤もやって来て、3人で話すことが多いのだが(物間と拳藤は“口論”してることの方が多いが)、今日は拳藤ひとりみたいだ。
強子は席を立つと、廊下で待つ彼女のもとまで歩み寄った。


「・・・拳藤さん、どうしたの?」

「ごめん!古文の教科書 貸してもらえないかな?また忘れちゃって・・・。お礼に、今度 お昼おごるからさ!」


パチンと顔の前で手を合わせ、そろりとこちらを窺うように上目遣いをされて、その あざといながらも可愛らしい姿に、強子は思わずキュッと目を細めた。
・・・これで断れる奴がいるなら、見てみたいもんだ。


「教科書を貸すのは全然構わないし、お昼もおごらなくていいんだけど・・・それよりさ、」


強子は腑に落ちない様子で、疑問を口にした。


「・・・なんで、私なの?」


彼女に教科書を貸すのは、これが初めてではない。
彼女も人間だから、教科書を忘れることもあるだろうし、それを繰り返すのも仕方ないことだろう。
しかし、腑に落ちない。なぜ教科書を借りる相手が、毎度 強子なのだろうか?
以前から不思議だったのだが―――拳藤は職場体験中に八百万と親しくなったようだし、強子よりも、八百万から借りる方が自然ではないか?と、改めて疑問に思ったのだ。


「あー・・・実は、身能さんの教科書、書き込んであるメモがすごく解りやすくてさ・・・授業中、いつもそのメモに助けられてるんだよね」


なるほど。拳藤の言い分に納得して、一つ頷いた。
確かに、強子は自分の理解を高めるため、どの科目においても教科書にメモを書き残すようにしている。
とくに、今回のテスト範囲に関しちゃ・・・中間テストよりもクラス順位をあげようと、かなり気合いを入れてメモ書きしているので、拳藤の役にも立てたのだろう。
・・・ひとまず、彼女が強子のことを ただ教科書を貸してくれる都合のいい人と認識していたわけではないようで安心した。


「っていうか、メモを見てて思ったんだけど・・・身能さんって頭もいいんだね」

「え、」



見るからに優秀そうな拳藤にそんなことを言われるなんて予想外で、強子の思考が一時停止する。


「ほら、身能さんって見た目も可愛いし、個性も強いのに・・・勉強にも力入れてて 流石だなぁって、感心してたんだ!すごく勉強してないと、あんなに解りやすい解説メモは書けないだろうから」


誰もが好感を抱くような可愛らしい笑顔で真っ向から褒められて、強子は思わずキュッと目を細めた。
・・・こりゃ、テレビCMにも起用されるわ。笑顔が眩しすぎるもの。


「だからさ、メモのお礼も兼ねて お昼おごらせてよ!学食でいいよね?」


気づくと、拳藤にランチをご馳走される流れになっていて、強子は慌てて首を横に振った。


「いや、いいよ!お礼されるほどの事じゃないから」

「でも、身能さんに助けられてばっかりなのも気持ち悪いし・・・」

「えーと・・・じゃあ、私が教科書を忘れたときには拳藤さんに頼るから、おあいこってことでいいんじゃない?」

「それなら、まあ・・・。べつに遠慮しなくてもいいんだけどなぁ」


拳藤と話すようになってから知ったことだが、彼女は、意外と・・・グイグイ来る。
まあ、そうでもなきゃ、雄英ヒーロー科のクラス委員長なんて務まらないのだろう。

教科書を受け取ってB組に戻っていく彼女を見送ってから、強子が自席へと戻ると、八百万と話していた耳郎に声をかけられた。


「アンタって、拳藤と仲良いの?」

「え?うーん、そうだなぁ・・・」


教科書の貸し借りはするけど、そんな用でもなきゃ 話す機会なんてない。
廊下ですれ違えば挨拶はするけど、長話するほどの仲でもない。
―――強子は顎に手を置いて、自分と拳藤の関係性を思い返しながら、僅かに眉尻を下げた。


「(仲良いというより・・・むしろ、)」

「むしろ、ちょっと苦手なタイプだったりする?」


耳郎の核心をついた問いかけに、ドキリとする。
実を言うと―――強子と拳藤の間には、微妙な距離感があった。
かといって、“苦手”という表現が正しいのかもわからない。
拳藤と話していて、“不快”だとか“嫌い”だと感じることはないけど・・・何か、違和感のようなものが常にあるのだ。
それは例えば、基本的に同級生を苗字で呼び捨てしている拳藤が、なぜか強子にだけは「さん」付けして呼んでるとか。強子に向ける彼女の笑顔が、B組のクラスメイト達に向けるものと、ちょっと異なるとか。
些細なことかもしれないが、確かに肌で感じる、その違和感はおそらく―――


「・・・拳藤さんに、壁を作られちゃってる気がするんだよね」


ため息まじりに、強子は自分の密かな悩みを吐露した。
強子に向ける彼女の笑顔は・・・どうにも固く、無理に張りつけたもののように見える。そして、彼女の強子に対する言動は、どうにも取り繕ったもののように思える。

しかし―――なぜか彼女は、わざわざA組に教科書を借りに来たり、自分から強子と接触する機会をつくろうとする。
あげくに、強子を誉めるようなことを言ったり、強子に媚びを売るような態度をとったりもする。
―――なぜだ?

彼女のちぐはぐな行動について、いくつか可能性を考えたが―――ひとつ、思い至ったのは、B組の問題児である 物間 寧人の存在だ。
物間と強子は、わりと親しい。
廊下で二人で話していると、授業の開始直前になって 飯田や拳藤が引き戻しに来るまで話し込んでしまうこともよくある。
そして、物間と拳藤も、わりと親しい間柄だ。よく、二人セットで一緒にいるところを見かける。
いつも物間のお目付け役のように振る舞う拳藤だが・・・何だかんだ言っても、物間と一緒にいる拳藤は楽しそうだ。端から見ていても、バランスのとれた お似合いの二人であった。

ゆえに、勘ぐってしまう―――拳藤は、強子を“ライバル視している”のではないか?と。

男絡みで、強子が嫉妬や恨みを買うのは、昔からよくあることだった。・・・もちろん、その度に相手を打ちのめしてきたけど。
サバサバとしていて 男勝りな拳藤だって、女の子だ。嫉妬の一つや二つ、するだろう。
そして・・・彼女のちぐはぐな行動は、強子を恋のライバルとして警戒している事が原因じゃないのか?
強子という人間がどういう人なのかを見定めるため、あえて強子と接触する。
いざという時に備えて、媚びを売って 強子と仲良くしておこうとする。
・・・そう考えれば、筋が通る。


「(拳藤さんと仲良くしたい、とは思うけど・・・)」


彼女の本心を邪推し始めると・・・気がつけば、強子も 拳藤と話すときに気構えるようになってしまった。
彼女が強子にしているように、無意識のうち、強子も彼女に 心の壁を作ってしまう。
そんなぎこちない関係だから、拳藤からの“お昼おごる”という提案も、強子は頑なに断っていたわけだ。


「―――それと、どうも前から気になってたんだけど・・・」


これは、拳藤と話すようになる もっと前から思っていたことなのだが・・・


「私と拳藤さんって・・・キャラ、被ってない?」


憂いを帯びた表情で、強子は自分の密かな悩みを吐露した。
瞬間―――A組の教室がしんと静まり返った・・・かと思いきや、教室がワッと笑い声に包まれる。


「おまっ・・・身能、笑わせんなよ!誰と誰がキャラ被りだって?」

「だから、私と B組の拳藤さんだけど・・・」

「拳藤っつったら、クラス委員長だぜ?B組を引っぱってる 姉御的存在の!」

「それは知ってるよ」

「男勝りっつか、頼りがいあって・・・頭の切れる奴だけど、運動能力も高いらしいぜ!」

「そうだね」

「拳藤さんの あの可愛さも相まって、体育祭以降、校内でも校外でも、かなりファンが増えてるらしいよ!」

「そりゃ そうでしょうけど・・・」

「お前と拳藤じゃ、月とスッポンだろー!」


ゲラゲラと笑っている男子。微笑ましいものを見るように笑みをこぼす女子。
強子はクラスメイト達からの視線を受けながら、彼らの指摘を頭の中で反芻した。
クラスを引っ張る 姉御的存在。男勝りで頼れる。頭脳派だけど身体能力にも優れる。可愛くて、ファンが多い。


「・・・やっぱり、キャラ被ってるじゃん!!」


強子は抗議の声をあげたが、結局、A組の総意として却下された。解せぬ。





その拳藤から、期末の演習試験の内容を 緑谷や飯田たちが教えてもらったらしい。
拳藤が知り合いの先輩から仕入れた情報によれば・・・入試の時のような、対ロボットの実戦演習だと。


「んだよロボならラクチンだぜ!」


もたらされた情報に、対人だと個性の調整が難しい 芦戸や上鳴が歓喜の声をあげた。


「あとは八百万に勉強 教えてもらって・・・」

「これで林間合宿バッチリだ!!」


諸手をあげて喜んでいる彼らを横目で見ながら、強子は哀れむようにそっと眉尻を下げた。
確かに、例年・・・1年生の期末の演習試験は、対ロボットの実戦演習を行っているらしい。強子も天喰に聞いて、それは確認していた。
しかし、強子は知っている―――今回の演習試験の内容は、対ロボではなく・・・対人の戦闘になることを。


「人でもロボでもぶっとばすのは同じだろ。何がラクチンだアホが」

「アホとは何だ、アホとは!」

「うるせぇな!調整なんか勝手に出来るもんだろ!アホだろ!!」


本日も爆豪の怒りボルテージは高く、耳障りな彼の怒号が教室に響きわたって、教室の誰もが爆豪に注目した。


「なァ!?―――デク!!」


唐突に緑谷に話をふられ、驚いた緑谷の体がハッと揺れた。


「個性の使い方・・・ちょっとわかってきたか知らねえけどよ、てめェはつくづく俺の神経 逆なでするな」


どうやら、個性の調整を覚えてきた緑谷の動きが、爆豪の動きを模したものであったことが、彼をここまで苛つかせたらしい。


「体育祭みてぇなハンパな結果はいらねえ・・・!次の期末なら、個人成績で否が応にも優劣つく・・・!」


体育祭での結果に納得していないことも相まって、爆豪はボルテージをさらに上げつつ、緑谷を見下ろし、彼を指差した。


「完膚なきまでに差ァつけて、てめェぶち殺してやる!!」


爆豪はその吊り上げた目を、緑谷から、教室の後方へとずらし、


「身能!轟ィ・・・!てめェらもなァ!!」

「!」


ハッとして目を見開くと、強子はそっと口元に手を当てた。


「爆豪くんってば―――私の名前、知ってたんだ・・・!!」


彼の口から自分の名前が紡がれたのを、初めて聞いた。
彼がちゃんと強子の名前を認識していたことに驚き、瞳をきらきらと輝かせて感動に震える。
誰かが「あいつ・・・感動のレベル、低すぎない?」と言葉を漏らしたのも、気にも留めない。


「てめェも、いちいち俺の神経 逆なでしやがんなァ・・・!?人を虚仮にしくさってよぉ・・・!」


爆豪はその険しい表情を さらに恐ろしい人相に変えて、強子を睨んだ。
強子が感動に震えているのに対し、彼は怒りのあまり震えている。


「いいか!?てめェは、演習だけじゃなく、筆記でもメッタ殺しにしてやる!中間ときみてぇな“まぐれ”はねえぞ!覚悟しとけや・・・!!」


言いたいことを言い切ったらしい彼は、肩を張ってどすどすと歩き、教室を出て行った。
爆豪の姿が見えなくなると、切島が呆れたように呟く。


「・・・久々にガチなバクゴーだ」

「焦燥・・・?あるいは、憎悪・・・」

「っつーか、あのガチなバクゴーに睨まれておきながら、身能もよくやるよなぁ。あんまし煽ってやるなよ?」


切島に諫められるが、強子としては煽ったつもりはなく、純粋に感動を覚えていたのだが。
ふと、切島が何かに気づいたように口を開いた。


「そういや・・・なんで身能だけ、筆記試験でも争いあってんだ?」

「あぁ・・・それね」


その問いに、強子は気が乗らない様子で視線を逸らした。
強子の反応を見ていた耳郎がプッと小さく吹き出すと、笑いをこらえながら切島の問いに代わりに答えた。


「この子・・・中間の順位、クラスで3位だったんだよ」

「3位・・・って、あ、そういうことか!」

「そ、爆豪とおんなじ順位!ホント、二人とも仲良すぎでしょ・・・ブフッ」


可笑しそうに肩を揺らしている耳郎を恨めしげに睨む。
そうなのだ。彼女の言うとおり―――強子と爆豪は、中間順位が並んでいたのだ。
強子の頭が良いのは自分自身が一番わかっていたけれど・・・なんと、爆豪も強子と同じ程度の学力があるらしい。
くそう・・・人生1週目のくせに、私と肩を並べるなんて生意気だぜ!


「・・・まぁ、いい。今回の筆記は、爆豪くんレベルでとどまるつもりは無いし!」


ふっと不敵な笑みを浮かべると、ガバッと勢いよくカバンを開き、カバンの中に教材をたんまりと詰め込んでいく強子。


「なんたって、目指すは クラス1位よ!!」


そう意気込んで高らかに笑う彼女に、クラスの何人かがピクリと反応して、表情を険しくさせた。
その表情の意味するのは もちろん―――“こいつ(身能)に負けるなんて、嫌だ・・・!”という、屈辱的な未来に対する危機感だった。


「さっ、轟くん!早く帰って勉強会しよう!」

「そうだな」


意気揚々とした強子が、轟と二人で早々に帰宅すると―――教室に残った面々はといえば、


「ふむ・・・何事にも常にトップを目指そうと 向上心をもって取り組む姿勢は、俺たちも見習うべきだろう!みんな!身能くんに負けてはいられないぞ!俺たちも、1位をとる気構えで試験に挑むんだ!!」


シュバッと腕を掲げ、飯田がクラスメイトに向けて鼓舞したり、


「身能が成績いいのって、正直意外だよなぁ・・・普段の行動がアホ寄りなだけに」


彼女は“補欠”というだけあって、筆記の成績も悪いに違いないと・・・心のどこかでそう望んでいた瀬呂が、信じていた仲間に裏切られたような気持ちに陥ったり、


「うぁー・・・筆記どうしよ。補欠が赤点じゃないのに 自分は赤点とったりでもしたら、もう俺らの立場ねーよ」

「とりあえず、赤点だけはとらないよう頑張るしかないよ―――と、いうわけで・・・ヤオモモ〜!」


中間のクラス順位――21人中、 21位の上鳴と20位の芦戸は、1位の八百万へと泣きついたり、


「ええ!!必ずや、皆さんの成績向上に役立ってみせますわ!それに・・・当然、私も強子さんに1位をお譲りする気はありません!ですから 皆さん、一緒に頑張りましょう!!」


―――中間順位 1位から最下位まで含め、クラス全体の士気が微妙に上がったという。







放課後、轟家でおこなった勉強会は、思いのほか捗った。
初めて足を踏み入れた轟家はとても立派なお屋敷で、強子が思わず恐縮するくらいだったが・・・轟の部屋に通してもらうと、そこは昔ながらの和室で、畳の懐かしい香りにほっと息をつく。
居心地のよい空間は、適度な緊張感を保ちつつも、リラックスして勉強に集中できる環境だった。
凄まじい集中力で、時おり わからない箇所を二人で相談しながらも、試験範囲の復習を進めていく。
この調子ならば、今回の筆記試験・・・かなりいい線いきそうだ!

補足するが・・・年頃の男子の自室で二人きりとはいえ、相手はあの轟だ。
峰田の言っていたようなエロい展開になどなるはずもなく、ひたすら勉強あるのみだった。夢要素?んなものは無い。

しかし・・・轟家で会った 轟の姉――轟 冬美が、弟(焦凍)が家に連れてきた強子のことを、轟の“彼女”だと勘違いしそうになったときは、肝を冷やした。
すぐさま二人で否定したので、“友だち”であるときっと理解してもらえたはずだ。
・・・でないと、今度こそエンデヴァーに灼かれてしまう。

手ごたえのある勉強会を終え、強子は自宅へと帰る道すがら・・・演習試験の対策をどうすべきかと思い悩む。
幸い強子には、試験内容の詳細を知っているという、前世からの情報アドバンテージがあるのだが、


「(二人一組で教師と対戦とか・・・難易度 高すぎでしょ!)」


今回の期末では・・・より実戦に近い形式にするため、ロボットではなく、教師(現役プロヒーロー)と戦うことになるのだ。
もちろん、演習試験にも“赤点”はある。
強子としては、補欠の呪縛から逃れるため、赤点なんてとっていられる余裕は無い。
というか、赤点になったら、林間合宿で“補習地獄”が待っている・・・そんなの、堪えられない。
なんとしても!絶対に!赤点だけは回避しなくては!!

問題は、補欠扱いを受けている強子が、今回の試験でどのようなチームに割り振られるか、不透明ということだ。
普通に考えれば いつもの戦闘訓練のように、強子のいるチームだけ三人一組になるのだろうが・・・だとするなら、どこのペアと組まされる?
その組分けによっても、試験の難易度が左右される。

―――とはいえ、A組のクラスメイトたちの大半は、この試験をクリアできていたはずだ。
強子が赤点になる危険性があるとしたら、原作において、赤点をとったペアと組む場合だろう。
確か、原作で赤点を出していたのは・・・芦戸&上鳴ペア、切島&砂藤ペア、そして瀬呂(ペアの峰田はクリア)の5人。


「(・・・どのペアも、すごく 可能性ありそうなんだよなぁ・・・)」


芦戸&上鳴ペアは、根津校長が相手だ。
そのハイスペックな頭脳で、強子に個性すら使う隙を与えないよう 追い詰めてくるだろう。
・・・雄英の好きそうな試練の与え方だ。

切島&砂藤ペアは、セメントスが相手。
やみくもに力を使うだけでは絶対に勝てない。彼を出し抜く方法を見つけられなきゃ、詰み だ。
・・・相澤からも「常に頭をまわせ」「考えて行動しろ」と指摘されているし、強子の課題に適したチーム組みといえる。

瀬呂&峰田ペアの相手は、ミッドナイト。
彼女の個性は広範囲におよぶので、近接戦闘型の強子には、かなり分が悪い。
・・・その強子の弱点を克服しろ、という意図で組まれる可能性が高い。


「・・・やっぱり難易度、高くないか・・・?」


愕然として、つぶやく。
それぞれのペアと組んだ場合に、どうやって試験を突破するか、対策を考えなくてはいけないのだが―――正直いって、どのペアと組もうがハードモード確定だ。
強子は相当な苦戦を強いられるだろう。

さらに、もう一組のペアが強子の頭をよぎった。
轟と、八百万のペアだ。
この試験、生徒たちの動きの傾向や新密度からペアを決めるはずだが・・・強子と八百万は、今まさに、絶縁状態である。
今の状況で、八百万と共闘しろと言われても、うまく意志疎通がとれる気がしない。
・・・相澤なら、そういう嫌なところを突いてきそうで、恐ろしい。
まあ、万が一このペア組みになったとしても、八百万と轟は原作で試験突破してた実力者たちだし、どうにかなるだろう。轟とはコンビネーション良さそうだし。
そう思うと、だいぶ気持ちが楽になった。

―――うん、きっと大丈夫。
どこのペアと組むことになろうと、チームで協力し合えば、強敵にだって立ち向かえるはず!


「よしっ、やってやる!どこからでもかかって来い、期末試験!!」







そして―――自信のあった筆記試験もつつがなく終え・・・あっという間に、演習試験の当日を迎えていた。
ずらりと並んだ教師陣を前にして、試験内容が変更された事と、その意図を根津校長から聞かされる。


「これからは対人戦闘・活動を見据えた、より実戦に近い教えを重視するのさ!」


それは、強子の知っている情報の通りのものだった。
ヴィラン活性化に備えるべく、これからは・・・ロボとの戦闘訓練よりも、より実戦的な訓練が求められる、と。


「―――というわけで、諸君らにはこれから、二人一組(チームアップ)でここにいる教師一人と戦闘を行ってもらう!」


知らされた内容にクラスメイトたちがざわついた。
強子も深呼吸し、ドキドキとうるさい心音を落ち着かせる。


「尚、ペアの組と対戦する教師は、すでに決定済み。クラス全員の 動きの傾向や成績、新密度・・・諸々を踏まえて独断で組ませてもらったから 発表していくぞ」

「(きた・・・!)」


相澤の言葉に、強子はごくりと唾をのんだ。
“クラス全員の”と言うからには、強子も皆と同じようにチームを組まれているはず。


「まず、轟と、八百万・・・」


強子は!?強子の名前も呼ばれるか!?
前のめりになって相澤の言葉の続きを待っていると、


「2人チームで、俺とだ」


それを聞き、ほっと肩の力を抜く。
彼らと同じチームになる可能性が高いと思っていたが、違ったようだ。
となると、強子はやはり、赤点のペアと組むことになるだろうか。どこのペアだ・・・!?
続けて、相澤がチーム組みを発表していく。


「そして緑谷と、爆豪・・・」

「デ・・・・・・!?」

「かっ・・・!?」


ぎょっと眼を剥いて 互いを見やる二人には、同情する。
期末で成績の優劣をつけようと競っていたようだが、同じペアになっては競いようがない。
何より・・・仲の悪さから組まれたこのペアは、他のどのペアよりも難易度が高く、当人らにとって難行苦行であろう。


「それと 身能」


はっきり言って、緑谷と爆豪のペアがこの試験を突破できたのは奇跡に近いと思う。
緑谷の主人公補正でもなけりゃ・・・・・・って、あれ?


「―――いま・・・誰か、呼ばれた?」


考え事をしていたせいで聞き逃しそうになったが・・・相澤が誰かの名を呼んだ気がする。
隣にいた轟に問うと、強子の方を振り向いた彼は 可哀想なものを見る目で、端的に答えた。


「お前だ」


絶望的な返答に、すっと 強子の表情が消えた。
緑谷と爆豪のいる方向から 鋭い視線が向けられているのを肌でひしひしと感じるが・・・恐ろしくて、そちらを見る気になれない。


「3人チームで、相手は・・・」


ズンッ―――地響きとともに目の前に現れた、筋骨隆々のアメコミ画風のその男。


「私 が す る!」


目の前にそびえ立つ男がニッと笑みをこぼす。
笑っている・・・のに、威圧感のようなものを感じて、無意識のうち、強子は足を後ろに一歩下げていた。
それだけの迫力が、この男にはあるのだ。
だというのに、嘘だろ・・・?本当に・・・?


「(オールマイトと 戦う!?・・・この3人で!!?)」


ハードモードなんてもんじゃない。
エクストラモード、マニアックモード、アルティメットモード・・・


「協力して勝ちに来いよ!3人とも!」


いや、こんなん 無理ゲーだ。









  
==========

えー、もう絶対ムリー・・・と、言いたいです、私が。
期末試験、緑谷&爆豪 vs オールマイトで、完成形じゃん。そこに夢主の入る隙がどこにある?ないよね!?夢書き泣かせな話だぜ・・・。
でも、執筆者がプルスウルトラせずに、夢主がプルスウルトラできるか!と思い立ったので、執筆してまいります!

本当は、拳藤がらみで物間にも出番を与えたかったけど・・・どうしてもうまく嵌まらなくて、あきらめました。拳藤さんの妨害かな?
彼女と夢主が本当の意味で仲良くなるには、まだまだ先が長そうです。


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