もしも、あの時、あの場所 | ナノ
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(7/9)



「え!おれも行きたい!!」


じゃ、と出かけようとする俺らに1名追加。

急いで着替えさせた神童も一緒に買い物にでかけようとして、すごい事に気がついた。


「神童おまえ、鞄持ってないの」

「ない!」

「一個も?」

「学園用のなら」


それは学園の刺繍がはいってるからちょっと、辞めといたほうがいいかな。
ということで、神童の財布をおれのリュックへ入れておれが保管。いつもどうしてたたんだろ、ポケットに入れてたんだろうか。

ケツポケットに入れてたりする奴も多いから、可笑しくはないけど大金持ちだから少し心配。

外に出ると思ったより寒くてマフラーに顔を埋めながら歩く。



「そういえばアウトレットまでどうやって行きますか?」

「もうタクシー呼んであるよ〜」


え。

学園の外にでたら一台の黒塗りタクシー。

まさか、電車で行けるあそこまでタクシーでいくというのか。
いくらかかると…なんて言おうかと思ったけど神童も平然としてるし、そうかこれがこの二人の普通なのか。

そもそも感覚が違うボンボンたちに、行き先が不安になってきた。







「あれ食べたい!」


あれもこれも、食べ物を見るたびに食いつく神童をよそに男物の腕時計が置いてありそうなお店をみていく。
シルバーもいいけど、スポーツメーカーの太めの時計も捨てがたい。

うーんとショウウィンドウのなかを眺めていると、蜂谷先輩が視界の端で帽子をかぶってることに気づき。そちらへ行く。


「あれ、まっきー決まった?」

「全然」

「好きなの選びな〜」


そういってニット帽をまた試着する。

ふつうに置いてあると手に取らないような帽子も、先輩がかぶるとオシャレに見えてなんだか詐欺にあった気分だ。

ふと神童もなに身に着けても似合うんじゃないかと思って姿を探すと、退屈そうに魚が描かれたかばんを眺めている。興味ないものには興味ないです、という態度なのがわかりやすくて笑う。


「神童、お昼なに食べるか決めときな」


アウトレットのパンフに乗ってるお食事処を見せると、ぱあっと表情を明るくしてこことここと…と選び始める。

一か所な。

念には念を押して「一か所だけだ」と言い聞かせる。


「まっきー保護者みたい」


ぼうしは辞めたのか手ぶらでおれの隣にきた蜂谷先輩は、ぼうしを脱いだ後鏡を見なかったのか少し髪がぼさぼさで。でもそれすらいい感じなのがイケメンマジックというやつか。
おれから触ると怒られるので、ぼさぼさですよと声だけかけとく。

食べ物のパンフだけでたのしそうな神童に安心して、また腕時計の棚のまえにいくと先輩もついて来てくれた。


「あの太めのやついいなあ」


先輩が指差したのは白字に青のマークがはいったスポーツメーカーのもので、おれが良いなと思ってたやつ。
でも値段をみて、手が出ない代物だとみて見ぬふりしてたのだ。


「2万て先輩……おれ五千円内にとどめたいです」

「なんで?俺が買うから大丈夫よ」

「………先輩の選んでます?」


え?と、なにかよく分からない食い違いにお互い驚く。


「まっきーの選びに来てんでしょ、まっきーのだよ」

「え、じゃあなんで蜂谷先輩が買うんですか」


え?と、よく分からない顔をされてまた驚く。

なんなんだ。先輩は俺が誕生日だとでも思ってるのか。全然違いますけど、クリスマスでもバレンタインでもホワイトデーでもないですけど。


「買ってあげるよ?」


なんてことない顔でそう言うから、首を振る。

なんで?と聞くまでもなく、蜂谷先輩が不思議そうにするからこっちが答える側にまわる。


「買ってもらうもんじゃないですよ、時計とか」

「ジュースは買うと喜ぶじゃん」


ジュースとこれは別!

ただでさえ来るときのタクシー代は蜂谷先輩に甘えたというのに、これ以上奢ってもらうなんて先輩と遊びに来た気がしない。
お返しができないほど奢られるのは関係的に貢がれてるようで、どうしていいか分からなくなってしまう。

ウィンドウの中を見ながら、値段をみて「ジュースもこれも似たようなもんじゃないか」とか抜かす先輩は、生徒会で会計ほんとに務まってるのか心配だ。まずは桁が違う。そして一般的には何もない日に物を買ってあげたりしない。


「おれこんなん買ってもらってもお礼できないですからね、金欠!」

「べつにお礼なんてー。あ、身体でいい……だめ!!」


ハッとしたように俺の肩を掴む蜂谷先輩。

お礼が身体っておまえ、今ごく自然の流れでお誘いされてびっくりしたよ。それに自分で気づいて自分で断る先輩にもびっくり。そうだね思いとどまってくれてよかった。

じぶんでじぶんの言ったことが恥ずかしかったのか、ちょっと目を伏せた先輩の耳が赤い。


「うわ〜ごめんまっきー、忘れて」

「先輩カワイー」


おい、と低い声ですごまれて肩をすくめて笑う。

最近きづいたのだが蜂谷先輩は可愛いと言うと、すぐに素をだしてくる。かっこいいと言うと耐性がついてるのか平然とありがと〜なんて軽くかわされるから、もしかしたら不意打ちの言葉に弱いのかもしれない。


「なあなあ」


おれと蜂谷先輩の間にヌッとはいってきた神童は、パンフレットをこちらに見せつけるとバイキングを指差した。


「これにした」

「バイキング?まあ、それが一番神童にはいいな」


蜂谷先輩のほうに、神童を方向転換させて

神童が今度は先輩に向かってパンフレットを開いてる状態にする。


「先輩もここでいいですか?」


神童が指差すうえから、おれも指差して問う。

おなじ向きで後ろから覆いかぶさったもんだから、神童がびっくりして固まった。

方向転換させるために置いた手に、神童の肩が強張ったのを感じてパッと離れる。近かったかな。


「……いいよお」


そんな俺らを見ながら、先輩がすこし笑ってない目で答えた。

最近増えた蜂谷先輩のこの笑みは、すこし怖い。おれ自身に向けられたわけじゃないから、余計に分かりやすいというか、それなのに心は読めない。


「別のとこが良かったら、変えますけど」

「んーん、好きなものだけ取れるし、そこにしよ」


そうだね、先輩嫌いな食べ物おおいからね。

パンフを閉じてすでに行く気満々の神童に、仕方ないかと時計を選ぶのは後回しにする。満腹になればきっと大人しくなるだろう。




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