もしも、あの時、あの場所 | ナノ
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(8/9)



食べたら寝るって子供かよ。

ただいまアウトレットのひと気の少ないベンチで、たらふく食べた神童はうとうとと蜂谷先輩によりかかってる。本当に本能で生きてるなという姿に、仕方ないということばしかでない。
立ったままそんな神童をみてると、蜂谷先輩も欠伸をした。


「先輩も眠たいですか?」

「んーん、姫のがうつったかな」


眠たいというより生理現象ででた欠伸らしく、涙を浮かべながらも目はぱっちり開いている。

せっかくここまで来たし、俺だけ時計見てこようかな。


「少しだけ店みていいですか」

「いってらっしゃい」


まだ行ってない店舗だけまわって帰ろう。

ひらっと手を振る先輩に神童をまかせて、1人で見にいく。久しぶりの買い物で楽しい気もするが、時計がなかなかみつからない。当初の予定だと蜂谷先輩に選んでもらうつもりだったわけだし、また仕切り直しで違うとこに行くのもいいかな。

急いで欲しいってほどでもない。

ぶらぶらと歩いて大判焼きが売ってるのが目についたが、お腹いっぱいだしなあ…。
とりあえず買っておいたら寮で食べるか。明日和嶋先生にあげるのもありかも。なんて考えながら何個か大判焼きを買って、ついでに隣でタピオカドリンクを買う。
ミルクティーだとかみるくだとか、種類が沢山あったけど蜂谷先輩が一番好きそうなのにした。

タクシーのお礼にしては安いだろうけど。





「あれ、早かったねまっきー」


いつの間にか神童を膝枕してる蜂谷先輩たちに、ギャラリーが増えている気がする。
ひと気の少なかったはずのこの場所がなぜかひとで溢れていた。時間帯か?いや、にしては女子率……。

すやぁ……とどこでも熟睡できる神童の神経の図太さが羨ましい。


「蜂谷先輩、タピオカ大丈夫でしたよね」

「うん…え」


ぴんく色にタピオカがはいったドリンクを差し出すと、驚いたようにこちらを見る。


「いちごみるくですよ」


先輩、よく飲んでるでしょ。と渡したら
大きくしたままの目を何度か瞬きさせて、うわ〜とよく分からない声音で口元を押さえた。


「こーゆーの、俺がしてあげるべきじゃない?」

「なんで」

「誘ったの俺だから?先輩だから?」

「気にしないで先輩」


なにかの部活でもあるまい、遊びに来てるだけの先輩後輩はそんな変な上下関係は関係ない。
わらって先輩の前のベンチに腰を落とすと、蜂谷先輩は少し躊躇ってからストローに口をつけた。あまい、とだけ感想をくれたそれを、おれも一口だけ貰った。あまい。


「なんか、不思議」


ぽつりと先輩がいちごみるくを見ながら呟く。

なにが?タピオカが不思議なの?たしかにそれの原料とか謎だよね、このモチモチしてるのも添加物なのか豆なのかとか全然知らない。
もちもちと噛みながら、先輩の言葉の続きを待つ。


「まっきーといると、なんか普通…」

「まさかの嫌味」

「違うよ。なんか、ずっとこういうのが続くのかなって思うと安心する。変な感じ」


よく分からないけど、眉を下げてはにかむ蜂谷先輩は毒っ気を抜かれたように穏やかで。悪口ではないんだろうなと思うから、素直に良い方に受け止めようかな。ありがとうございます。
帰りの電車の時間を調べて、あと少しでくるやつに乗るために神童を起こす。

「晩ごはん……?」
なんてふざけた胃の持ち主に、帰ったら好きなだけ食堂で食べなさいと教え込んで帰る準備をした。

まさか電車に乗ると思ってなかったらしい2人にドン引きながら、タクシーを呼ぶのを止めて正解だったなと思う。



「うわーー凄い海が見える!」



神童さん、窓に向かって座っていいのは子供だけだからちゃんと座ろうか。
そういって座らせてから数分もしないうちにまた寝た神童は、俺の肩…というか背なかと座椅子の間に頭をはめ込んでるから邪魔くさい。そこがフィットしたのな、寝やすかったのな。でも邪魔だったからどけて無理矢理膝枕する。


「案外、電車って空いてるもんだねぇ」


先輩は金髪を揺れに合わせてキラキラゆらしながら、車内を見回す。

おれを挟んで両隣に座った2人は、ひさびさの電車だと言うから驚きだ。
夕方にさしかかる手前、帰宅ラッシュにも巻き込まれず ひと気のない車両。この車両なんて人が俺たちを除いて1人だ。後ろのほうの車両はやはり人気がないみたい。

カタタン…穏やかなリズムを刻む揺れに、暖かい車内は眠気を誘い込んでくるから欠伸をした。


「そういえば、腕時計どうしたの」

「ああ、選べませんでした。また行きましょう?」

「……ふふ」

「何笑ってるんですか」

「ラッキーだなって」


今度はどこ行こっかな。なんて楽しそうな蜂谷先輩。この人はほんと、ひとを喜ばせる言葉を選ぶのが上手いよね。
また自分と出掛けるのが楽しみといわんばかりの先輩に、なんだか少し照れた。神童の頭を撫でるふりして視線を下げると、上げるタイミングを失ってそのまま目を閉じる。先輩は景色を眺めてるようでそれ以上は話しかけてこなかったから、カタタンと電車の揺れる音だけがずっと響いていた。


ちゅ。なにかがそっと触れた感覚で目がさえる。


目の前に広がる蜂谷先輩の綺麗な顔に、え…と小さく声をあげた。
その瞬間なにが起こったか理解できないほどの速さで目を塞がれる。

真っ暗な視界に指の隙間から、すこしだけ入る光。


「何してんですか先輩?」

「なんで起きてんのマッキー」



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