もしも、あの時、あの場所 | ナノ
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「お腹すいた…」
神童そう言われること十何回目。
休みの日に神童が朝から起きてるなんて、珍しすぎて今日は雨かなと外を確かめる。
外は晴れ、空気は冷たいけど空は青く澄んでいてお出かけ日和というのだろうか。
はみがきを終わらせて服を着替えた俺に、神童はパジャマのまま視線をぶつけてくる。
「……なんでしょう」
「おでかけ?」
そうだよ、と棚にしまっておいた食パンをトースターに入れるとひっつくように横へ立つ神童。
俺のも、なんていうから「お前のだ」というと抱きついたまま離れなくなった。すごく邪魔、とても動きにくい。
トーストが焼ける前にジャムやらなんやら冷蔵庫から出していると、あれ食べたいこれ食べたいうるさいから手伝えと言うとお湯沸かす係をしてくれた。
ウィンナーと卵を焼いているとトースターが鳴って、神童に出しなさいと命じる。
「はい!」と元気を取り戻した神童は皿にトーストを乗せると、バターをたくさん塗って一口たべた。
「え、まってここで食べんの」
「まふぇふぁひ」
ぽろぽろパン屑をこぼすから、皿で受け止められないならもう流し台で食え。
トースト置いた皿にウィンナーと目玉焼きを乗せると、わあいと喜ぶから微笑ましい。なんでこんな事してるんだろ、とは思うけどこうも無邪気に喜ばれるとしてしまうんだよなあ。
沸いたお湯で市販のコーンポタージュをといていると、インターホンが鳴った。
「出てくる」
ウィンナーを食べてる神童は、無言で頷く。
また神童のお付きかなーと生徒会を想像していたけど、モニターをみると確かに生徒会だけど蜂谷先輩。
「おはようございますっ、先輩」
「おはよ〜。早起きしすぎたから、来ちゃった」
今日でかけるから、寮の前であと30分後の約束。
まさか遅刻はしても早くくるとは思わなかったから、のんびり神童に餌付けしてたのが申し訳ない。
「おれ準備まだです、すみません」
「いいよぉ」
おれが早く来ただけだし、と言う先輩を部屋に招き入れる。
覗いていたパン屑だらけの神童が、蜂谷先輩をみて目を輝かせた。
「ユキ!どうしたんだよ珍しい」
「おはよ〜姫、パン屑だらけだ」
けらけらと笑いながらパン屑を取ってあげてる蜂谷先輩は、私服だから雰囲気がずいぶんと違って見える。
派手じゃないけど、華やか。
スタイルがいいからピタッとしたデニムと、着込んだアウター。右だけ出てる耳には、ちょっといかついピアスが光ってる。
「コーンポタージュここ置いとくぞ」
マグカップを置いて自室に一度もどろうとして、ふと蜂谷先輩は朝ごはん食べたのかな?と疑問がわく。
キッチンから出る前に先輩、と呼びかけるとなになに?なんて神童の口元拭きながらこちらをみる。
「朝ごはん食べました?」
「あー、おれ朝ごはん食べないんだよね〜」
「スープ飲みます?」
お湯残ってるし。そういうと、ちょっと嬉しそうにこちらへ寄ってくる。
箱で買ったスープは3種類はいってて、コーンポタージュとミネストローネとクラムチャウダー。小腹用にと買っていたのを犬飼が全部飲んだから買い直してもらった。
甘いの好きな先輩はコーンポタージュかなあ。
箱を見せて選んでもらうと、やっぱりコーンポタージュを選ぶのでちょっとした満足感。
へんてこな模様付きのマグカップに粉を入れてお湯で溶かしてると、じっと見てくるからもしかしてインスタントスープ飲んだことないのかなと思ったけど。そんな世間知らず犬飼と神童くらいだよな…。
「まっきーすごいねぇ、そういうの作るんだ」
「……インスタントですよ」
「洗い物めんどくさくない?」
「ああ、俺作る係で神童が洗い物なんです」
だから超楽ちん。
ね、と神童に言うとすでにトーストを平らげたのか熱いコンポタをちびちび飲みながら頷く。
「姫も洗い物出来るようになったか〜」
おれからコンポタを受け取りながら、ぽんぽんと神童の頭を撫でる。
こうして見てると蜂谷先輩ってなんだか、理想的な先輩なんじゃないかと思う。1つ上なだけなのに年下をかわいがってくれるし、モテても鼻にかけないし、まあ何より俺に構ってくれるってところが高評価してしまう原因なんだけどね。
やっぱり構ってくれる人や側にいる人をフィルターかけて、いい風にみてしまう癖がある。
鞄の準備と上着きなきゃ。
ぼんやり微笑ましい2人を眺めているわけにもいかず、部屋へむかう。
すすす、
なにか付いてきたな、と思いつつ自分の部屋に入ると蜂谷先輩もそのままおれの部屋へ入った。
「ここがまっきーの部屋…」
「何も面白いものないですよ」
えろいものはスマホで見るし、卒アルとかは実家だし。
健全な男子高校生の部屋としてはありがちな面白グッズがなくて、伊神とかにはツマンネと言われた。あいつらは中学からこの寮にいるから、色々部屋にあるみたいだけどそもそも汚くて見つけられない。諦めた。
行くと掃除させられそうだから、もう行かない。
「ふつー…」
ツッコミどころがなさすぎて、先輩もそう呟くからすみませんねと苦笑。
コートを着てると先輩がおれの3つしかない鞄を指差して、あれ。と言う。どれだ?先輩の指先をたどると黒のリュックっぽいので「これですか?」と手に取る。
「それ今日のおれのと似てる」
そういって背中を見せられて、まあ確かにと頷く。
黒いリュックなんて相当変わった形じゃなきゃ、だいたい同じだよな。
「クラッチにしようか悩んだけど、こっちにして良かった。まっきーもそれで行こ」
「はあい」
本当は斜め掛けにするつもりだったから、中身の財布を入れ替える。
リュックのほうが手が空いていいよね、なんて言うけどおれ斜め掛けにするつもりだったからあんま関係ないけどね。
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