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やりかねない、ありすちゃんなら。
玉ねぎの皮をむきながら「引っ越してきました〜!」なんて言うありすちゃんを想像するが、全く違和感がない。ぺりぺり玉ねぎの茶色い皮だけはいで捨てて、苦笑する。


「そういや知ってたか?そーすけの会社、すぐそこの道路渡った歩道橋のとこなんだって」

「え、近っ」

「なー。つかあいつ次期社長とかすげぇよなあ」


まじか、そんなこと知らなかった。

なんで谷やんのほうがそんな詳しいの。ってくらい詳しくて、なんだか悔しい。
言われてみれば助さんはお金持ちで、家族みんな起業家みたいな話はしてた気もするけど全て適当に聞き流していた。あのときはゲーム内で嘘か本当かわからなかったし、嘘だった場合は鵜呑みにするのがアホらしすぎるくらい夢のような話だったからだ。

お姉さん2人は海外にいて、親の会社で偉い位置にいて。とにかくお金持ちですみたいな。

しかも彼女持ち。


「助さんって凄い人なんだなあ」


リアルでも充実してるなんて、ネットゲームしなくたって生きていけるじゃん。むしろネトゲしてる暇がよくあったな。


「なにそのお連れみたいなあだ名、わらう」

「え?……あ、」


うっかりゲームでの名前で呼んでしまった。

谷やんの前でよかった。
ほっと胸をなでおろし、水に入れた玉ねぎたちを軽く水切りして冷蔵庫にしまう。

手持ち無沙汰になったな、と周りを見回しながらホールを隠れるように覗き見た。
ありすちゃんも爽やかバイトも各々の手元に集中していてこちらには気づかない様子。爽やかバイトは過去問してるとして、ありすちゃん何してるんだろう。明日帰るからちょっとね、とノートパソコン構い出したからチケット取るとかそんな程度だとおもってたのに。なんとなく険しい顔つきに、せっかくの美人が台無し…なんて男に美人も可笑しいか?美形?


「西野がストーカーしてる」


おまわりさーん。
なんて谷やんがふざけて、2人に聞こえる声で言うから視線がこちらに向く。うわ。


「の、覗いてただけだし」

「それがちまたに噂のストーカー行為だな」

「ち、ちょっとパンツとか拝借するだけだし!」

「ぶはっ、どっちの!?」

「谷やんのに決まってんだろ!!」

「まさかの俺!!」


おれ履いてないよ!

さらにまさかの。冗談に冗談かぶせられて、履いてないだと!?と頭でツッコミを入れた。
ぶはっと笑うと口が痛くなるほど引きつって、思わず口元を押さえながらも笑って言葉がでてこない。


「…っは、はい、履いてなっ…!」

「笑いすぎて言葉になってないぞ西野!」

「履いてないの…!?」

「安心してください、履いてますよ」


ホールからは見えないだろう位置で、決めポーズをとる谷やんにひぃひぃ声を上げながら笑う。
立ってられなくて壁に手をついてはあはあ言っていると、爽やかバイトが「またあの2人変なことしてる…」とどん引きしてるのが聞こえた。

高校生からしてみれば20越えたいい大人たちがアホな会話して笑ってるのは、大人気ないんだろうなあ。そうは思えど、意外と24になった今も心の中は学生の頃のままだ。大人になるってよく分からない。
笑ってでた涙をぬぐいながらホールをみると、ありすちゃんが珍しいもの見るような顔でこちらを見ていた。


「西野さんって、ふざけたりするんだ?」


意外。というありすちゃんに、爽やかバイトが笑う。


「西野さんは案外こどもっぽいですよ」

「へー」

「暇になるとくっついてくるし、泣くし怒るし」


恥ずかしくなってきた。

おれってそんな風に思われてるの?
結構大人しくしてたつもりなんだけど、まわりからはそう見られてはいないらしい。大人しくしようと今更、手をおへそあたりで組んで身を縮こませながら平然を装う。


「かわいいね」


ありすちゃんは、静かにそう言うけど感情があまりこもってない感じだから適当なんだろう。

「おまえがな」なんて適当に適当で返したらちょっと驚かれたけど、すぐニヤついた顔で俺を見返してくる。爽やかバイトは呆れた様子で単語帳と睨めっこをはじめて、谷やんがおれの横からひょっこりありすちゃんを見た。


「今日静かねーわたる」

「もう終わったから話そうとしてるのに、和也無視すんだもん」

「……」


ほんとだ、すごいスルースキルだ。


「どこの大学受けるのってばー」

「こいつね、経済学部ある難大で…」

「谷崎さん!」

「あ、やっぱ頭良いんだ?てか、あれ?」


なにか気づきましたと言わんばかりに目を見開いて、まじまじと爽やかバイトをみつめる。
そんなありすちゃんの視線に眉をひそめた爽やかバイトだったが、次の一言で表情ががらりと崩れた。


「ゆゆちゃんと仲良くて受験生で、難大……?」


あ。さすがにそれを並べられると、おれですら天下人という名前を思い出した。

こめかみを押さえながらすごい眼力で、谷やんを睨んでいる爽やかバイトも察したらしい。
桃花眼で綺麗な目を細めたありすちゃんは、そんな態度に確信を持ったのかにやにやが止まらない様子。


「へーほーふーん?そういや天ちゃんバイトもしてたねえ」

「……」

「ゆゆちゃんがカフェリツイートした頃からバイトしだしたのはこーゆーことっ、痛っ!!!!」

「違うから!!」


ばこん!もっとすごい音だったかもしれない。

運び用のトレーでカウンター越しに思いっきり頭を叩かれたありすちゃんに、おれと谷やんが肝を冷やす。い、痛そう。
せっかくセットしてある髪がぺたんと萎れたみたいだけど、もともと無造作にワックスで固めてあるみたいだから分からない。



「なんだやっぱ天じゃーん!」








至極楽しそうに笑い散らかしたありすちゃんは、すぐさま助さんとみりさん3人のグループLINEでバラしたらしい。
飛んできた暇人の助さんが、よぉ天下!なんて言うものだから血の気の引いた顔で爽やかバイトは「他には誰にも言わないでください」と2人にコーヒーをごちそうしてあげてた。

なんだかとても可哀想だったので、社会人であるおれがあとからお金返してあげようと思った。



「いやいや〜天下ってもっとこう、眼鏡にソバカスのインテリ野郎だと思ってたぜ」


助さん、インテリ野郎に偏見持ちすぎだろ。

なんでそばかす限定なんだよ。


「おれはぁ、前髪クッソ長いヲタク想像してた。しかもガリガリでネットでしか喋れない系の」


ありすちゃんもなんでそこまで想像してんだ。

ヲタクっぽい、ていうのは俺もなんとなく思ってたけどそんな細かくは想像したことなかったなあ。爽やかバイトが天下人だと分かった時も、特にギャップがあるとか思わなかったのはそもそも想像して無かったからか。

あらためて爽やかバイトをみる。

学生ならではの幼さが残る顔立ちは、印象は薄いけど整っていて塩顔と言うのだろうか。手足も長くてまだ染めたことの無さそうな黒髪も綺麗で、自然。自然体でイケメン。
とみりさんや谷やんは雰囲気イケメンな感じあるけど、爽やかバイトは素材そのものな感じ。


「いや〜まさかこんなイケメンが天下かぁ」

「……いや、別にイケメンじゃないから」


まじまじと助さんに見られるのが流石にこたえたのか、ちょっと照れながら否定する。


「そんなこと言ったら、ありすんの方がイケメンだから」

「ありすん!ありすんだって、やーもーほんと天ちゃん可愛い!」


おおぉ、まさかリアルで弟子溺愛のありすちゃんを見れるなんて。

生意気な天下人をいつからか気に入ったありすちゃんは、今みたいに天下さんが何を言っても反抗しても文句言っても「可愛いねえ」しか言わないのだ。
これには爽やかバイトもちょっと満更でもない感じ。


「ちょっと天、今度飲みいこうよ!」

「未成年だから」

「ばれないばれない」


こら。

ありすちゃんは悪い大人の代表だな、まあ冗談かもしれないけど。
ていうか、今時きちんと未成年飲酒守ってる人の方が珍しいのかな。なんていつの間にか増えてきたお客様のテーブルに、ドリンクを運びながら横目でありすちゃんたちをみる。

谷やんがキッチンにいるから、助さんとありすちゃんの悪ふざけに制止をかける人がいないみたいだ。
爽やかバイトはばっさり断っているけど、あの様子だと今度みんなでご飯に行くことは本当に秘密なんだろうな。


「あんまり和也に悪いこと教えないでくださいね」


キッチンに帰る前に2人にわらっていうと、はあいなんて良い子の返事がくる。

そんな姿に微笑ましいなと思いながらキッチンにはいって、器や飾りの生クリームなんかを準備した。


「てかさ!谷やんと西野さんは?」


助さんがカウンターでおれらの名前を呼ぶので、なんだなんだと谷やんと顔を見合わせる。
キッチンだから聞こえにくい会話に、ケーキの横の飾りクリームをつけながら聞き耳をたてた。


「あの2人もゲームのひとだろ?」

「えーちがうだろ」


ありすちゃん、俺はゲームのひとだよ。

いま天下人だとバレた爽やかバイトはどんな顔をしてるのだろうか、面白すぎて口元が緩む。


「悪い顔なってんぞ〜西野ぉ」


こんつと手の甲でひたいを叩かれたけど、そういう谷やんだって笑っちゃってるじゃん。




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