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「床固ぇ〜」
なんなの?おまえの家は全部羽毛でできてるの?
こたつに入りながら文句言うとみりさんは、しばらくすると「あったけぇ〜」と背中を丸くした。
そんな単純さに笑いながらテレビを観ていると、横からあのモデルがどうとか女優さん可愛いとか言ってくるから何と無く相槌を返す。
おれは特に、可愛いって思う子今日出てないな。
「てか、今日カレー?」
「あ、匂う?」
「食べたーい」
「残ってるからいいよ」
思ったより残ってるカレーを、食べてくれるのはありがたい。明後日くらいまでカレーになるところだった。
しぜんとカレーを温めなおしながら、お皿の準備をしてしまったがこんな夜中にカレーって。時計を確認すると1時を過ぎたところで、夜食にしては重たそう。
「どれくらい食べる?」
心配になって問いかけると「大盛り」と遠慮のない答えが返ってきた。良いならいいけど。
ありったけのご飯を大皿に盛って、明日の一食分残して全部カレールーをかけてやったら、あひゃひゃと笑いながら写メを撮ってペロリと平らげた。
そういえば、弁当2個にホットスナックが余裕で入る胃袋だもんな。意外と大食いなのかもしれない。
缶チューハイで眠たくなってきたおれは、こたつで横になってアイフォンを構う。
「やえ彼女いないの」
「……いない」
「こーゆーえろ本って抜けるの」
さっきから紙めくる音がすると思ったら。
寝転んだままとみりさんが見える位置までずれると、この間見つかったえろ本をまた引っ張り出されてるじゃないか。
「してみれば」
適当に返すと、無言でまたぱらりぱらりめくり出す。
本当にしてないだろうな。
ちらり、盗み見ようとしたら目があって失敗した。
にやにやしながら見返されて口端がひきつる。
「なに、覗き?」
「ガチで抜くのかと…」
確かめる?なんて下を指差されたから、首を横に振って目をそらした。
なんだ、安心した。いやそりゃ人の家で抜かないよな。とみりさん変な人だけどそこらへんの常識はありそう。
眠気がきてあくびを噛みしめる。一応アラームを設定して、ちょこっとアイフォン構いながら目を閉じた。
ピピピピピ……
「……ん」
アイフォンのアラームが微かに頭の端で鳴り響いて、だんだんと意識が夢の中から浮かび上がってくる。
こたつで寝た身体のだるさでなかなか起き上がれないまま、アラームの音源を探して切る。アイフォンを握りしめながらもう一度目を閉じてしまうのを耐え、こたつから這いずり出た。
あ〜…仕事の準備しなきゃ……。
ふと、とみりさんに起こされなかったことに気付く。
時間を確認するためにアイフォンをみたら、LINEがきていて《ポストに鍵いれてる》だとか。
外から閉めてポストに入れたのか……起こさないように配慮してくれたのだとしたら、非常にありがたい。朝の6時に起こされるとか夜行性のおれにはしんどすぎて、とみりさんこの野郎とか悪態つきそうだったし。
欠伸を噛み締めながら、トースターにパンを入れる。
てもち無沙汰になったので、玄関を確認するとほんとに鍵がかかっていた。嘘だと思ってたわけじゃないが、こんなことするの初めてで変な感じ。
ポストから鍵をだして、定位置の下駄箱の上に置く。
《見ましたーいってらっさい》
適当にとみりさんにLINEしておいたら、出る頃になぜか草が生えただけの返事をされた。ダブリュー四つの意味はなに?笑うとこだった?
まあ、奴の思考は一般人には理解できなさそうだ。
「今日あいつ静かだな」
お昼。
ありすちゃんが来ているが黙々とノートパソコンを構っているから、カウンターに爽やかバイトだけ設置して俺らはキッチンの仕事をしていた。
「なんか、明日帰るらしいです」
もうあと数日で爽やかバイトの受験ニ次が終わる。
それまでに帰って色々準備してくるんだとか、さっきちょろっと話してくれた。
「準備ってなに、引っ越してくんじゃねーよな」
「まさか〜……」
いや、まさかだよな。
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