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「ありがとうございました〜」


やっと帰った3人を見送り、もうすぐ叔父を起こす時間だなと考えていたら、爽やかバイトがキッチンのテーブルを叩いた。ばあん。


「俺が居ないあいだに、仲良くなったんですか」


え、おれ?

洗い物をぬるま湯にいれながら、ちらっと爽やかバイトをみたら目が合った。おれか。


「仲良くって感じではなかっただろ…」

「名前呼んでたしありすん達、西野さんのことなんか気に入ってたし」

「お前も谷やんも気に入られてんじゃん」

「イジられてただけじゃないですか」


たしかに、爽やかバイトはイジられてたけど。
高校生を可愛がってる大人たち、って感じだった気がする。下ネタぶっこんで赤面させるとみりさん助さんに、煽るありすちゃん。

本当にお客さん来なくてよかった。

カチャカチャと食器洗浄機の皿をよけて、新しい洗い物が入るように準備する。


「みんな純情ウブなやつ見ると構いたくなるんだろうな〜」


谷やんが裏で一服しながら、こちらを見てけらけら笑う。

お客さんの前では吸わないからずっと吸いたかったんだろうな、とちゃんと裏で吸ってるニコチン中毒者を気遣って電気ヒーターを持って行ってやる。
しゃがんでコンセントさしてる俺の頭を「ありがと〜」とかき回すように撫でると、叔父用に置かれてるガラス灰皿に灰を落とす。


「それより、なあ和也いつ受験終わるの?」

「25くらいに二次試験なんで、それくらいです。あとは結果待ちで……一次は自己採点では一応大丈夫でした」

「へー。5教科7科目だっけ、こんなとこで働いて大丈夫?」

「毎日少しずつしてたら、案外平気です」


毎日少しずつとか、すこしってどれくらいなの。

谷やんと爽やかバイトの話にはついていけず、ニュアンス的にまあ25日まではまだ受験なんだろう。もう終わったんだと思ってた。


「終わったらみんなでご飯いこーぜ」

「谷崎さんの奢りですか」

「わーい」

「わーいじゃねえぞ西野、お前は払え」

「え、差別?」

「差別じゃねえよお前なに頑張ったんだよ」


毎日いろんなこと頑張ってるんだけどな。

ヒーターの前でしゃがんだままの俺に、谷やんがかがんで「実は…」と耳打ちしてくる。
ぞわっとする感覚にすこし肩をすくめつつ、内緒話みたいだから手を耳の横にたてて聞きやすくした。これって効果あるのだろうか。わからないけど、気持ち聞きやすくなったかな。


「航たちも誘ってあるから」

「……!」

「楽しみだな〜」

「3人とも?」


元の体勢にもどった谷やんが、おおと頷く。

あの3人と、和也と谷やんでご飯食べに行くとか変な組み合わせ。
さっきみたいに賑やかな雰囲気になるのかと思うと楽しみだけど、爽やかバイトにはひみつみたいだし、当日機嫌を損ねなきゃいいな。









《おいゆゆ!》


みんなでモンスターを囲んでリンチしていたら、グループチャットで名前を呼ばれた。
こじんまりしたグループは10人も居ないけど、地味に活動してる人が多くて俺は好き。1人、ありすちゃんと凄く仲がいいのか、敵が倒せないといつもありすちゃんを呼んでくれる奴もいる。

このグルだとそいつと遊ぶことが一番多いかな。

いまも一緒に敵をリンチしている。そしていま俺をチャットで呼んだのはグループのマスター。


《なになに、マスター》


敵をリンチするのをやめて抜け出したおれに、パテの面々が《!?》と言葉にならない言葉で驚く。
回復役がいなくなって、リンチだった立場が逆転、瀕死の危機のようだ。あ、とチャットでわざとらしく言葉を打ち込むと《てめぇwww》やらなにやら誹謗中傷がぶつけられるけど、どうせただの暇つぶしクエだったからみんな気にしてない。


《おまえ、掲示板に名前出てたぞ!》

《え?》


掲示板ってなんだっけ。

合格発表が貼られるあの掲示板じゃあないだろうし、となるとゲーム内?
よくわかってない俺は、そうなんだと返事をしたけど何故かパテのうちの1人が《えー!おめでとー!》なんて言うから首をかしげた。


《あれだろ、ゲームの裏掲示板的なやつ》

《相当誰か怒らせたの?w》


裏掲示板…って、ゲームをしてる人達が文句や愚痴言ってるあれだろ。ということはなんだ、悪口言われてんの?おれ。
思い当たる節があり過ぎて、驚きを通り越して素直にごめんなさい。


《ありすから真宙に乗り換えたって書かれててさw》

《えwww》


それはない。
アイフォンを眺めながら口がひきつる。

そういえば、ついこの間そういう感じのこと言われたっけ。カイドウだ。でもカイドウは掲示板や陰で言うくらいなら、直接この間みたいに言ってくるだろう。だとしたら、あの時一緒にパテしてた奴らかな……。
みんな楽しそうにクエ一緒にしてたし、ランカーだけど思ったより絡みやすくて面白い人達ばかりだから疑いたくない。

誰でもいいや、結局誰かにはそう思われてる訳だ。

そうは思うものの、みんながゆゆ大丈夫かと声をかけてくるのに《大丈夫〜》としか返せない。なにか場を、このネタ以外に出来ないものか。


《でもさ、実際真宙とどうやって知り合ったの?》

《なんかクエ一緒にした?》

《クエ一緒にしただけじゃ、真宙あんま喋んないから無理じゃね》

《色仕掛けしたんだろゆゆww》

《あはーん、て!》


からかってくる言葉が、なんだか刺さる。

冗談言ってくれて、流そうとしてくれてるのか本当にからかわれているのか判断出来なくて適当にダブリューを連打しておく。おれは女じゃないから、色仕掛けしたって気持ち悪いだけだ。と、言ってしまえばいいのだろうか。
こんなタイミングで言ってしまったら、ネカマという事まで悪口にされてしまわないだろうか。どこで、だれが俺のアカウントをみて掲示板に書き込んだか知らないけど、分からないからこそなんだか怖い。


《まあ、ありすも男だったし真宙も。女にちやほやされてドヤッてるからな》


こうやって、その人が居ないところで
全然ちがう人物像をあたかも本人のように語られるのは、どうなのか。

たのしかったさっきまでと一転、味気なくなったガムみたいにただそこにあるだけのゲームを眺めて。ため息をつく。


《ありすちゃんや真宙さんは、いい子だよ》


それを言えば、おまえは寄生させてもらってるからだろとでも言われるのだろうか。

自虐的に考えながら、でもそれ以外にいい言葉が思いつかなくてそう打ち込んだ。
みんなは、まあ悪い奴ではないけど…と言葉を濁すから掲示板だかなんだかの風評を鵜呑みにしているのか。はたまた何かされたのか。





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