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宇宙人4






ひたすら無言でうさぎの大量生産している俺の前で、同じく風船を大量生産する飯島さん。
確かにこれは気が滅入る。いくら神社が緑で涼しくても暑いし、夏だし。会話しようにも口開くのが面倒で、たぶんお互いに無言がしっくりきていて丁度良い。だけどやっぱりヘリウムで風船を膨らます以外の音がほしい。


「飯島さん、わがまま言ってもいいかな」

「……手伝ってもらってるし、難しくないことなら」

「ギターひいて」

「……」

「歌わなくていいし、嫌ならいい」

「嫌じゃないけど…えー、俺はギタ専じゃないんだよね」


ギター専門じゃない?

よくわからないけど、べつに音が欲しかっただけだからUSENでもいいと言うと、少しムッとしてギターを斜めがけにして聴いとけよ、と何かよくわからない対抗心を向けられる。
おまえ弾けないんだろ、なんて感じのことを言ったわけでもないのに



―…それからがまるで夢の世界だった



はじかれた弦が最大限に活かされた音をだし、ひとつのもので演奏されたとは思えないほどに深く広く響く。ギターなんてよくわからないからかもしれないけど、それが何かわからない。ギターじゃないようで、そして何より弾いてるのがあの暗く嫌味たらしい飯島さんじゃないようで。威圧感ではない圧倒感、呆気というより魅了されている自分には気がつかぬまま、手を動かせずに最後まで聞き入ってしまった。


「……す、ごい」


歌詞は最悪だった。
弁当にたこ焼が入ってただとか、自転車のタイヤに足挟んで怪我した。だから一皮むけただとか、くそくらえな程のくだらなさだった。けど、聴き入ってしまう声。元々澄んだ声だとは思っていたが、歌うとまさにそれが最大限に活かされる。

バックミュージックに、なんて思っていたのに手が止まっていて。飯島さんがそれを指摘してきたから感想なんて一言も伝えてやらずに、またうさぎの生産をはじめた。


「……要人」


かなめ。それは確かに俺の名前。

びっくりして目を見開きながら顔をあげると、いままで合ったことのない飯島さんの瞳と視線がかち合った。ぶわり、不思議な焦りが生まれてとヘリウム缶を持つ手に力が籠る。
眼鏡越しにみえる形の良い瞳、声と同様にすごく澄んでいて、綺麗。


「なまえ、しらないはずじゃ…」

「名前は聞いてた。名字聞き取れなかったから、呼んだことなかった」


すぐに視線をそらして、近くの散らばる楽譜を集めだす飯島さん。


「今日、時間があるなら駅前のライブホールにおいで」


集めた楽譜の中からでてきた一枚の長方形の紙をこちらに差し出され、わけもわからず受け取る。
ふと紙の字に目を通すと、最近テレビでもよくきくようになったバンドの名前がでかでかと表記されていて「え」と声が出てしまう。

飯島さんはそんな俺の反応にいたずらが成功したこどものように歯をみせ笑い、立ち上がると両腕を天井に向かって伸びして はあ、と息を吐いた。



「さあ、覚悟して来なよ。要人」






その夜、ライブホールで歌い輝く彼を見たのは
言わずもがな、である。




(このもさいの、変装だったんだ)
(本物の俺を近くでみたらおまえ惚れちゃうでしょ)
(…あれ?相変わらずうざいぞ)