5人の王子様の話
この学園には王子様がいた。
5人も。
「しーちゃん早くう!遅刻するでしょお」
うるさい。
朝っぱらから兄に急かされ自転車のタイヤに空気を入れる。
俺らは双子で2人なのに、なぜ父は自転車を一台しか買ってくれなかったのだろうか。
「しーちゃんそんなトロくて寿司握れるの?」
あれ?べつにおれ寿司屋ならないんだけど。
空気の栓をはずし、フタをしめて空気入れを自転車小屋のかたすみに置く。
自分のかばんをカゴにいれて自転車にまたがり、兄を後ろに乗っける。
「さあレッツゴー!突っ走れ」
「…いえっさー」
人使いの荒い兄だな。
兄じゃなかったら自分が犠牲になってでも自転車ごと川に突っ込んでたよ。
本気の全力疾走で学園まで8分。
これは新記録なんじゃないだろうか。
嫌がらせのような坂を登りきって尋常じゃない汗をかきながら、自転車を直しにいく。
「先にあがってるから、じゃ」
なんて淡白な兄なんだ。
涼しい顔して玄関のほうへ歩いていく彼は、華奢な体をしているからタチの男に人気で。
今だって1人になったとたん「おはようございます!如月さんっ」「かばんお持ちします!」「自分フランス行ってきたんでフランスパンお土産に買ってきました!」「てめ…!如月さん俺インドいったんでナン買ってきたっす!」
おまえら何でパンなの。
兄はそんなパン好きな人間だったかな、とゆかお土産にパンって選択ミスだろしなしなだよ。
なんとなくツッコミをしながら兄のふんぞり返る後ろ姿を見送る。
ちなみに如月は名字
兄の名前は由季、俺が史季だから一文字しかちがわない。
でも似てるのは名前だけだ。
「はよーす、相変わらずモテんなあ。史季の兄ちゃん」
「おはよう、まあ、そだね」
可愛い顔してるし、
病弱だから白いし、細いし。
ここは男子校だから結構な数の男子に人気。
「そして史季も相変わらずジェット機みたいに坂上がってたよな」
「うん…陽介なんでそんなに汗かいてるの?」
「いやほら、追い越されたくなくて一応頑張ってみた」
それは、なんだか悪かったな。
次から陽介追い越さないようにこぐよ。いやいいよ。いやいやいいよ。なんて会話を続けながら教室に向かう。
これが日常のプロローグだ
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