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宇宙人2








「だからもうアイツの家のマヨネーズもケチャップにも、からし入れてきたし」

「最悪だな」

「風呂場の浴槽に増えるワカメ撒き散らしといたし」

「やること小せえよ」


てか、するなよ。

最初こそ泣きながら話してきたこいつ、飯島さんだったけど。いつの間にやら怒りに変わっていて、荒い口調で恋人のことを語っている。
恋人、いや、元恋人。

どうやらフラれたらしい。

その前にこういっちゃなんだが恋人が居たことに驚いた。
近付くと傷んでいることすら見てとれる黒髪をサイドに分け、うつ向きがちの黒縁眼鏡だから顔はよくみえず気味が悪いし。服にも気を使っているようには見えない。

ただ見た目に反して声はよく通る。


「あーやだやだ、なぁにが『イメージと違った』だよ。わかってて付き合うって言ったのに」

「知り合いだったの」

「仕事仲間だよ。1週間だけだったけど一緒に…そうだよな、1週間で恋愛までいくなんて、普通に考えるとあり得ないか……」

「いやべつに一目惚れとかあるし、あり得なくはないけど」


失礼ながら、飯島さんに一目惚れというのは少し想像がつかないけど。
ポケットにはいっていた飴玉を2つほど差し出せば、怒りも大人しく青林檎味だけ受け取った。手元に残る苺味はしかたなく自分が食べることにする。お礼をいうとき少しだけ飯島さんが顔をこちらに向けたけど、俺が飴玉のふくろを開けているときだったので顔を向けてる気配だけを感じていた。


「そういえば、名前聞いてないね」

「秘密です」


興奮して話してて飯島さんが覚えてないだけだというのは、この際黙っておこう。
深く関わるつもりも無いからなのか、飯島さんもそうかとただ頷いた。ふわりと香る青林檎の爽やかな匂いは、セミがうるさい夏にはぴったりだけど飯島さんには似合わない。ただ声や性格にはぴったりだなと思う。

爽やかな声に、喜怒哀楽が激しく五寸釘打ってたことを忘れさせるような清々しい態度。


「あっつー…」


飯島さんが右手をぱたぱたとうちわ代わりにして自分を扇ぐ。
神社の石段は言うほど暑くもなく、薄着で今のように日陰にいればむしろ涼しいんじゃないかと思う。きっと飯島さんは暑がりなんだなと視線をやっては、むさ苦しい黒髪が目に入りハッとする。
飯島さん、きっと暑いのはそのむさ苦しい黒髪が原因だよ。オブラートに包まずむさ苦しいと発してしまったが飯島さんはたいして気にする様子もなく、そうかもねと立ち上がった。


「ふー…話してスッキリもしたし」

「したんだ」

「うん。暑いから帰るね」


俺がはいと返事する前に、すでに飯島さんは石段を下りていて。階段を一段飛ばしながら下りる姿に無理はなく、長い脚が軽々と前へ身体を進めていた。
よくよく見れば背が高く、筋肉もあり色々ギャップのある身体つきをしている。五寸釘の打ちすぎで上腕二等筋が発達しているのだろうか。ひだりてに握られたままのトンカチが少し凶器じみてて、隠せよ…と聞こえないほどの声で呟いた。