サッカー部とバスケ部3
「あーきーとーくん」
「……おい」
行かないって言ったろ。
土曜日の昼寝から起きた頃、だれもいない家に鳴り響くインターホンを無視していたら信じられないくらい連打されるから仕方なく出た。
ピンポンのピの音しか出ないくらい連打するとか、なに考えてんだ友人は。
まだぼんやりしてる眼を擦りながら、寝汗で重たいシャツをパタパタと仰ぐ。
「お洒落しちゃって」
友人のお気に入りのTシャツに、ネックレスに腕時計。似合うからいいけどチャラいと思う。
「だってお前、可愛い女子がくんだぞ」
浴衣かな〜。
なんて本人の目の前ではふつうだったくせに、居ないとこでは鼻の下をのばす友人に呆れながら笑みが溢れる。
素直なのか素直じゃないのか、ほんと変なやつ。
まだ集合より早いというので、クーラーのついたおれの部屋に非難させた。
「あーもっと温度下げてー」
「はやく行けよ」
ぬるくなったペットボトルの炭酸を飲みながら、どすんベットに腰を落とすと目を見開かれる。
「は?まじで行かねーの?」
「いやいや…人数多すぎ。知り合い居なさ過ぎ」
「俺いるじゃん!」
あいふぉん構いながら友人はこちらをみて、とりあえず着替えろよ。なんて。連れ出す気満々だ。
飲みかけの炭酸にキャップをして、目を細めたままベッドに倒れる。
そんなおれを見てベッドに乗り上げると、軽くおれの腹を叩きながらなあなあと言ってくる。軽い衝撃でもなんだか人から喰らう衝撃は強く感じて、うっとうめくと「早く起きないとこしょばすぞ」とか言う。おれあんまくすぐり効かないんだけど、とか思いつつ触られるのが苦手なので起きあがり距離を取る。
諦めの悪い友人に、めんどくさくなってきた。
「行ったら奢ってくれんの?イカ焼き」
「もー5本までな!」
「1本でいい!」
けらけら笑いながら白いTシャツとデニムに着替えるとシンプルだなと言われたけど、友人みたいに派手な格好すると浮いてしまって服に着られてる感じがする。
結局無難に腕時計だけつけて家を出ると、クソ暑い空気に目が細まった。みんみんと泣いている蝉の声と、見上げることさえできない眩し過ぎる青空。
蜃気楼たちのぼるアスファルトを歩いていると、友人が陽に手をかざす。
「あっぢー……」
「日陰に入りな」
「お前の横歩けなくなるよ」
べつに隣歩いて、なんて言ってないけど。
「前譲ってやるよ」
後ろ歩かれるのは、なんか嫌だし。
そういって前を譲るとかざしてた手をうーんと伸ばして日陰にはいった。
小麦色に焼けた肌、入学当時とは対照的なくらい焼けていて痛そう。サッカー部は炎天下の中走り回るからなあ、バスケ部なんて外周がまれにあるくらい。
「なーヒカリちゃん俺に気ぃあんのかなー」
「藤田さん?」
「そーサッカー部の誰かかなぁ」
「んーよくわかんね」
あかるく社交的な友人は、顔もそこそこなのか人気はある。
少しまえに違うクラスの女子に友人の連絡先教えてくれないか、と言われた。まあ、すぐに友人がきて直接連絡先交換してたけど、なんかモテるんだなと驚いた記憶がある。
「ヒカリちゃん可愛いし、浴衣着てきてたら惚れる」
「浴衣なあ」
駅が近くになるにつれ、だんだんと浴衣の男女が増えてくる。
そんな華やかな浴衣姿を視界に捉えながら、確かに可愛いな。なんて思ったり。
祭囃子の太鼓が遠くで響いていて、出店もちらほらと見え始めた。
「おーーーい、ナツこっち!」
おおきな声で友人を呼ぶそれに、おれが気づいて通り過ぎようとする友人を止める。
首根っこがしまったのかグエとかえるが潰されたような声をだしたそいつに、朗報だ。藤田さんが浴衣を着ている。他の子2人もみんな浴衣で、アップにされた髪が涼しげ。
「おおぉ…!」
あからさまに喜びながらみんなの所に走っていく友人に、小走りでついていくと「よぉ、あきと」なんてみんなに挨拶された。
サッカー部ってみんなフレンドリーなのか?
なんだか何に遠慮していたか分からなくなるくらい、向こうが普通におれを受け入れるもんだから少し安心した。よ、と短く挨拶を返して名前も知らないそいつらに笑う。
「はるちゃんーあきと来てるぜー」
挨拶して来たやつの一人が、なぜか高瀬の名前をよんで俺を指差す。
まるで少女漫画のように女子に囲まれた高瀬は、俺と目があうと整った顔で爽やかに笑う。ひらっと上げられた手に、よく分からないまま手を振り返した。
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