※毒リンゴを先に呼んで下さると嬉しいです← ◇◇◇ 暖かな昼下がり、ポケモンセンターにポケモン達を預けて散歩していると見知った顔の人物が目に入った。 (げっ、Nだ) いつものように付きまとわれるのは願い下げなので引き返そうかと思ったが、どうやらNはオレの存在に全く気付いていないようだ。 (何やってるんだ?) 遊具など一つもなく人気のない公園のベンチにNは視線を下に向けて座っていた。 普段なら警戒して近づかないはずの人物なのに今日に限ってオレは無防備にもヤツに近付いた。 公園に茂った草などに身を潜めて気付かれないよう慎重にヤツの様子を伺うと、どうやら本を読んでいる様だった。 (うわっ、小さい立て文字ばっか…って事は小説か。挿絵もなさそうだし… 一体どんな小難しい本読んでるんだよ) 恐らくヤツが好んで読むのは数式がどーのこーのと書いてある頭が痛くなる物に違いない。 さーて、気付かれる前にそろそろ退散しようか、 そう思った矢先だった。 「ブラック、こんな所で何してるの?」 「ふぎゃっ!!!!」 人間では考えられない非常識な移動法でいきなりオレの隣に出現したNに思わず驚いた。 相変わらずだなコイツは。 おかげで変な声出して驚いちまったじゃねーか。 「僕ったらつい本に集中しちゃって… 気付かなくてごめんね?」 (気付かない方がむしろ有りがたかった!!!!) 「あはは…は。で、Nは何の本読んでたんだ?」 「ブラック、もしかして興味あるの!?読んであげようか?」 「いやいい!!どうせ小難しい内容の本なんだろ?」 顔を歪めてあからさまに嫌がるとNはくすくすと笑った。 「そうでもないよ? あ、じゃあこのページだけでも読んであげるよ!」 そういうや否や、意気揚々とNはオレと同じように草むらに座って本を広げて読み始めた。 別に頼んでもないのに…。 ただ、いつもと違って電波な発言がないようなだったからまぁいっか、と聞き流す程度にNに付き合った。 何気なしに聞いていたが、Nの言うとおりそんなに難しくない話だという事は良くわかった。 お腹を空かせた少女に親切な物売り婆さんがタダでリンゴをくれるという何とも羨ましい話だ。 「〜っ、何て親切な婆さんなんだ!!! こいつは相当運がいいな!!!!」 「ねぇ、ブラックならどうする?」 Nは本から視線を上げてオレに質問してきた。 「どうするって…何を?」 「リンゴの事だよ。もしこの主人公がブラックだったとしたら…どうする?」 「へ?そりゃ勿論食うさ!!!夢が叶うってのはウサンクサイけど… お腹すかせてるんだろ!?絶対食う!!それにタダだぜタダ!!!」 タダより安いものはない。 くれるというなら喜んで頂くまでだ。 少し興奮気味に力説するとNは肩を上下に動かして震えて… いや、笑っていた。 「・・・・・・っ」 「何がおかしいんだよ…」 「…ブラックっ、白雪姫って知ってる?」 「あぁ、知ってるけど??アレだろ、毒リンゴをお姫様が食べちゃうっていう… あー…ちょっと待て、お前が読んでたのって、まさか」 「そう、白雪姫」 本を閉じて表紙を見せながらNはにっこりと笑った。 「お、おまっ!!!」 恥ずかしさのあまり次第に顔が熱くなってきた。 コイツが読んでいる物だからオレは自然に童話というジャンルを除外していた。 しかし、よりにもよって白雪姫だと!? つまり婆さんは悪い妃の魔女で…リンゴは毒リンゴじゃねぇか!!! そんな魔女をよりにもよってオレは親切だなんて… しかも“もちろん食うさ”って誇らしげに言っちまった!!! 「まっ、まぎらわしいんだよお前!!! 真剣な顔して難しそうな小説読んでると思ったらっ!!!! 〜ってか笑うなーーっ!!!!」 「あはははっ、だってブラック…。っふふ、そんなに警戒心ないと簡単にお妃さまに殺されちゃうよっ…!!」 「生憎オレはこの世で最高に美しい人じゃないから大丈夫だ、問題ない」 「うん、ブラックはどちらかというと最高に可愛い人だよね!!」 出たよ、電波発言!!! コイツでもまともに話せる事があるんだなぁって思ってたのに。 「お前の目はよっぽど腐ってるんだな」 「そうだね…この前大雨暴風の中遠方にいるブラックを見つけるのに3秒も時間がかかっちゃったし。もっと努力しないといけないね」 「……(たった三秒でみつかっちゃうのかオレ)」 オレ、一体どうしたらコイツから逃れられるんだろう。 もしかして何をやってももう無駄だったりして… ネガティブな思考に頭を抱えると、Nは心配そうにオレの肩に手を置いた。 「そんな不安そうな顔しないで!悪い魔女が来ても大丈夫、 もし僕のブラックに変な人が近づいたらすぐに助けに行くからね!」 「そういう意味の不安じゃないから勘違いすんな!! それに自分で追い払うから来なくていい。 ってか今何気に“僕の”とか言ったよな、オイ」 (オレは誰のモノでもないっての!!) 電波トークが次第にフルエンジンをかけはじめているようだ。 いつも感じている危険信号が今更鳴り響いた。 遅いんだよ警報!!鳴るならもっと早くから鳴らしとけ!!! 「あ、でも毒リンゴなら食べても大丈夫だからね!! 僕も見ないフリしてるから!!」 見ないフリ…だと?? 毒リンゴだって知ってるのに?? Nの発言に思わず額に怒りマークが走った。 「オレを殺す気満々デスカ?」 「うん、だって毒リンゴで眠りに付いた者はその恋人のキスで生き返るんだよ!?」 「で??」 「つまり、僕がブラックにキスすれば全て解決!!何の問題もなし!! あとは目覚めたブラックを僕の城に連れて行けばハッピーエンドさ!!」 「バッドエンドだよバカ!!!目覚めた途端悪夢のはじまりじゃねーか!!」 ハッピーエンドさ、の辺りで立ち上がって力説するNに続いてオレも立ちあがり声をあげた。 こんな電波の城に連れて行かれる何て…思わず身震いした。 「怖いよねブラック…でも大丈夫。 初夜は優しくしてげるから…二人で良い夢みようね?」 「勘違い激しいんだよお前!!どーやったらそういう話になるの!? ってか初夜って何だよ!!!」 「やだなブラック、恋人同士で愛し合う初めての夜の事に決まってるじゃないかw」 「知るか!!!第一恋人じゃねーし!!!」 「……そうか。そうだね、いい加減僕も本気にならないと」 しばらく間を開けた後、話し始めたNの表情が先程とどこかかわっていた。 電波(変態)〜普通(ノーマル)の中間、そんな顔だ。 そう考えてる中、急にNがオレの腕を自分の方へと引き寄せた。 当然オレはNの胸へ倒れこんだ。 「なっ、」 (こんな姿誰かに見られたら堪らない!!!) 抵抗しようと一度身じろいだが、強く抱きしめられているせいか力が上手く入らなくて脱出は叶わなかった。 「ねぇブラック。そろそろ答え、聞かせてよ」 「こたえって……っ!!!!」 (まさか…!!!!) 観覧車に二人で乗った…あの時に告げられた告白の返事、という事だろう。 やっぱりアレは聞き間違いじゃなかったって事か…。 出来れば夢であってほしかった。 「いやぁ…それが、耳塞いでたからお前の声、ちっとも聞こえてなくて、さ」 嘘くさいと思いながらも思いついた言い訳を吐いてみた。 でもどうやらこの手は通用しないみたいだ。 Nが大きくため息を吐くのが分かった。 「嘘、バレバレだよ。 ブラックもいい加減本気になろうよ…」 「なっ、オレは本当に聞こえて、」 「聞こえてたでしょ?でもそこまで言うなら仕方ないね。 それならもう一度言う、僕は君の事が好きなんだ」 「〜〜っ!!!!!!」 聞きたくなかった。 観覧車で聞いた時よりもはるかにはっきりとした声のせいか、今度は全身が熱くなるのを感じた。 その後もNはオレの耳元で囁くように話しかける。 「今度こそ聞こえたよね? 僕はブラックを愛してるんだ。 プラズマ団の王であるにもかかわらず、組織に敵対する君をね」 「何言って…」 「君への愛はポケモン…いや、トモダチへのラヴを既に通り越してしまっているんだ。 だから…ブラックもいい加減本気で僕を見て、」 「−−〜んっ!!!!」 抱きしめていたはずのNの手がいきなりオレの顎を軽く上げて、 そのまま顔を近づけて口を塞いだ。 「ふぅっ、…んんっ」 オレのファーストキスは無残にもコイツに奪われた。 だが、そんな悲しみを感じる余裕はない。 まるで口を食べられているような…そんな感覚だった。 流石に息が続かなくなってきたのでNの胸をあらん限りの力でドンドンと叩いた。 それに気付いたのか、どこか不満そうにNはオレを解放した。 「っは、っは、…っお、まぇっ!!」 キッとブNを睨みつけたが、当の本人は肩を落として溜息を吐いただけだった。 「だって、こうでもしないとブラックと進展出来ないと思ったんだ」 無表情で子供のように言い訳するNにオレの怒りメーターはMAXに上がった。 「〜お前はっ、何でいつもいっつもそーなんだ!!! ポケモンの解放って言ってヒトとポケモンを引き離そうとしたり、 ストーカー行為の果てには人の気持ち無視してこんな事したり… 自分の思い通りにならないからってテンパってわがままばっか!!」 一通り怒鳴ると酸素不足だったせいか一気に体の力が抜けた。 「うん、わがままなのは良く分かってる。 でも欲しいと思ったらソレを手に入れたいって…普通そう思わない?」 「まぁ、そうだけど…」 「僕、今まで何かに対してこんなに欲しいって、愛おしいって強く思った事一度もなかったんだ。 トモダチを解放するっていう大切な使命もあるのに…こんなんじゃ全然集中出来ない。 だから…だから、」 Nは言葉を言い終えないうちにまたオレに抱きついて来た。 生憎抵抗する体力は今はない。 何かボソボソ言ってからNは離れたが…聞きとれなかったので気にしない事にする。 「お前さ、どーしてそんなにオレばっか気にするの?」 「それは…好きだからに決まってるじゃないか」 「じゃあ何でお前はオレの事好きなの?」 「何でって… 分からないよ、ただ…」 「ただ??」 「ブラックがそばにいるとトモダチがみんな嬉しそうで、 僕も嬉しくなって…それがとても暖かくて気持ち良いんだ」 「なぁ…それって友情とかの間違いじゃないのか?」 「友情?抱きしめたいって思ったりキスしたいって思ったり… あーんな事やこーんな事をしたいって思うのも友情なの!?」 「あーんな事やこーんな事ってなんだよ!! はぁ…でもキスの時点で既に論外、か」 「ねぇ、僕は一体どうしたらいいと思う? どうしたらブラックは僕の事、本気で考えてくれるかな?」 「それ、本人に聞くかフツー」 「本当に分からないんだ…ねぇ。 ブラックはどうしたら僕を意識してくれる?」 「はぁ、そうだな… うん。まずは電波を直せ。 ストーキングもするな」 「で、電波って何か分からないけど…努力する」 「あとプラズマ団を辞めろ」 「あの、ブラック…流石にそれはちょっと…」 「ふーん。そうか、出来ないか」 「・・・・・・・っ」 「…ちょっと安心した」 「!!!!?え、」 「だってオレ、人の意見に作用されやすいヤツって大嫌いだからさ。 あと優柔不断なのも嫌だね!!」 「ブラック…」 「チェレンに言われたんだけどさ、オレって結構ポケモンバトル強いみたいだ。 だからプラズマ団は… Nは、オレが絶対に止めてやるよ。 そしたら…、」 「そしたら?」 オレ、今何言おうとした?? 「あーあーあ〜っ!!!! 何でもない!!!何でもない!!!!じゃ、じゃあオレ、そろそろ行くわ!! ポケセンで多分ポケモンの回復も終わってるだろうしっ、 〜さ、さらばっ!!!!」 「え、ぶらっく!!!?」 Nの呼び止めも聞かぬフリしてオレはでんこうせっかのごとくその場から立ち去った。 もしあれ以上アイツと一緒にいたら、何か知ってはならない感情に流されそうな気がして。 (オレ、オレ、一体どうしたんだよ!!!!) 高鳴る鼓動は走ってるせいなのか!? それとも、それとも…っ!!! オレの知らない感情が…少しだけ溢れ出た。 恋のファンファーレ (意識しちまったじゃねーか!!!) ーEND− あとがき... タイトルが毒リンゴなのに締めの文章が違うって言ふ(笑) いや、書きあげた瞬間「心のファンファーレ」聞いててバッと思いついて書いたので。 しっくり来た感じしたので直さずこのままUPしました。 一応毒リンゴのブラック視点で書きました。 ブラックが最後に言おうとしたのは…うーん。 察して下さると物凄く嬉しいんですが。 日にちが経ったらブラックが言おうとした事、こちらに追記します。 2010/12/12 23:09(0) |