崩れた世界と壊れた本音

 無崎弥音が、鎌倉ねむを突き落としたという話は、この異世界にいる2年1組にとってかなりの衝撃のものだった。突き落とされた鎌倉を同情する者、突き落とした無崎を糾弾する者、あるいは何か理由があったのだろうと推察する者、そしてただ遠巻きに見ている傍観者たち。
 雄馬は、その話を聞いたとき一瞬耳を疑った。こんな状態で、誰かが死の危険に迫ると、実感してなかったこともある。しかしそれより、同じクラスの者が、仲間を突き落としたということのほうが衝撃的であった。
 だが雄馬は、当事者の名前を聞くとすぐに頭が冷静になった。無崎は同じクラスであるが、普段はそこまで仲良く接していない。問題は、もう一人の鎌倉のことだった。
 鎌倉の家と雄馬の家は、『ペット』のことで諍いがあった。雄馬は彼女とはなるべく関わらないようにしているし、彼女もそうだろうと雄馬は思っている。性格も趣味も違うし、違う世界の人間として関わらなければいい話だ。それでも、たまにクラスの一員として話すことはあるが、それでも必要最低限のことである。
 それでもなぜか、嫌悪ゆえか、雄馬はなぜか鎌倉のことが気になっていた。嫌いな人ほど目に付くというべきか、雄馬は彼女を遠くから見ていた。そのため、今回の事件は、鎌倉が何か世迷言を言って無崎を怒らせたか何かでそういうことをさせたのだろうと思った。
 雄馬にとっては、必要であれば無崎に肩入れする程度のものであった。
 それがなぜか、雄馬は今鎌倉の寝ている部屋にいた。いつもそばにいるはずの人たちなどおらず、彼女はひとりで寝ていた。
 ただ近づくことをせず、雄馬は鎌倉を見る。部屋は静寂であるが、外からは喧騒が聞こえた。きっと、クラスの人たちが何かしらで争っているのだろう。その原因が、今、ここにいる。
 なぜかただ寝ている彼女が腹立たしく、奥歯を噛みしめる。なぜ、みんなはこの少女に肩入れするのだろう。
「お前なんて、いなければよかったのに」
 口に出して、手が少女に向かって伸びていく。距離は遠く、届かないけれど。
 そこで、雄馬はハッとする。自分は今、何をしようとしていたのだろう。呟いた言葉の意味を反芻し、鎌倉を見た。彼女は、変わらず寝ている。そのことに、雄馬はほっと息を吐いた。
 急いで、部屋を出る。このままあそこにいれば、嫌なことを考えてしまう。できるだけ遠く、彼女を見ないで済むようにいたかった。

 

 







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