晴れた青空の日



ほぼ正装のまま、脇差を片手に部屋へと戻った。――つもりだった。
ベランダから部屋へいつものように一歩敷居を跨いだら、さわりと空気が揺らいだ。落とした目線の先、床の色が違う。辿った先に愛用の机やベッドは無く、人の足が行き交っていた。
使い込まれたタイルがきれいに整列する床は、見慣れた基地内のどこでも無い。

「えっ、ここは……」

右には改札らしきものがあり、左には出口がある。人の出入りは多く、彼らの服は異質だった。ちらほらと馴染みの着物や洋服も見かけるが、自分のように帯刀している者は皆無。そして国民服や軍服は全く居ない。
地元へ戻った時と違う視線をちらちらと寄越されるのは、明らかに自分が浮いているからだろう、その程度しか判断出来なかった。
どういうことだこれは。
一歩、二歩と下がり背を壁に預ける。見上げると掲示板だったそれにはいくつか張り紙があった。駅構内改修のお知らせ、忘れ物市の日時と場所、交通安全教室のお知らせ。その全ての年号は見慣れない"大和"になっている。全ての張り紙には左下に"西京駅"と印刷してあるようだった。

「あれっ日奈子さん!こんにちは、どうしたんですその格好海軍服じゃないですか。階級章はええとこれは中佐、おお飾緒まできっちり錨付けてる!ああ制帽は文字入りじゃあないんですね、でも夏服似合ってますよ。特高でイベントでもやってるんです?」

大柄でにこやかな、前髪が少しはねていて残りを撫で付けた男がのそのそと近づいて来る。早口で捲くし立てられたそれらは浮いている原因であろう軍服の事で、やたら細部について述べる彼は関係者なのかもしれない。が、それにしても馴れ馴れしい。

「えっと、どちらさまですか」
「やだなあ、確かに久しぶりだけど俺の顔忘れたんです?苔森青葉ですって!いやあ、髪まで染めて似合ってますよ」
「僕の名前は」
「あ、外だと入道さんでしたね」
「……」
「ちょっと、何やってるの青葉」
「よぉ。かたすじゃないか」
「……と、日奈子さん?どうしたんですそんな格好で」
「いや、僕はその、日奈子さんではなく山下入道と申します」
「山下?えっ、後夜さんですよね」
「そもそも僕は男なんですが、どなたと間違えていらっしゃるんでしょうか」
「いや日奈子さんですよね、どっからどう見ても。なあ」
「だよね。すみません休憩室まで来て貰えますか、ちょっとここだと目立つので」
「はあ。……僕は基地に居た筈なんですがね」
「どうかしました?」
「いいえ」
「ひつか呼んでくる。青葉はテンション上がってるとこ悪いけど大人しくしてて」


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bkm
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