見上げる


「正直、君の絵はどうかと思う」
「言うに事欠いてそれ? 見てよ、大盛況じゃないか」
「荒神に釣られてるだけだよ。どれもあの子と同じ目をしてる」

指した先には頭数として連れてきた少年が一人。
荒神博2013の絵画ブースは、第一の言葉通り大盛況だった。彼はこのあと実演なり販売なりと忙しい身だが、自分はといえばこれ以上やることもない。
各々の実力を生かした展示をとのお達しだったが、いくら荒神と言えど解体ショーなど人前でやって無事に終わるわけがなかった。だから大人しく裏方に回ったのだ。
終わる頃には片付ける絵など残っていない。再び召集がかかることもないだろう。
さっさと帰ってしまおうかとスーツのネクタイを緩めると、普段死んだ目をした少年が、ふらりと人波に消えていくところだった。

「暇だからちょっと見てくるよ」
「そう?」
「そのまま帰るから、画材はそっちに」

今日のために用意した特別な素材を使った画材。その素材を手に入れるために大いに役立ってくれた少年は、きょろきょろとどこかを目指していた。


‐‐‐‐‐



「僕は、飛行機に乗る人になりたかった」

死んだ彼が見たかったものはたくさんの模型で、空を模した壁に貼り付けてある写真を食い入るように見つめている。正確には飛行機を見たかったのだろうが、興味の無い分野においての分類として、それは些細な差だった。

「それは恨み言かな」
「独り言だよ」

引き込んで殺したのは自分だ。強い遺恨を片腕で引き止めて利用しているのも。
ただ感傷に浸る彼を見ても哀れだとは思わなかった。
店の裏手には彼のように殺した何かが蠢いているが、それらは意思を持たないただの害だ。
彼らは放っておけばそのうちに霧散する。

(俺は関係無い。彼はもう飛べるのに、それでも地に這っているのは)


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bkm
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